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102/123

102.処断1

シロイの罪は宣言されました。

では、処断するのは誰でしょうか。

 


 演劇場にあるステージほどの広さがある、高低差のない部屋。

 城の他の場所と同様に滑らかで硬質な床と壁に全方位を囲まれ、出入り口となる控えめな扉一つを除けば窓さえない。

 部屋の中を照らしているものは蝋燭でも魔術灯でもなく、手のひらほどの大きさの長方形の窓枠だ。

 無数に舞うそれらは風に踊る木の葉のように部屋中を漂い、そこから漏れる光で室内を照らしている。

 その一つを覗けば、上空から見える地平を描いたような景色と流れていく雲が見えるだろう。

 あるいは白夜に照らされた白銀の世界と荒れた海がみえるかもしれない。

 それら一つ一つが異世界の光景を映し出している。そうした魔術を込められて形作られた窓枠が、部屋の中にいる面々を照らしては流れていく。


 だがその光に照らされている者たちは、異世界を映す窓枠には一切意識を向けていない。


 床に倒れている長い銀髪の女性は、手にした鞭を握りしめたまま唇を噛みしめるようにして。

 壁にもたれた黒髪の紳士は、貼り付けた穏やかな笑みの下で絶望を噛みしめながら。

 両手を広げて跪くアゴの割れた男が仰ぎ見ている人物から、視線を外せない。



 扉とは反対側にある壁の近くに、無造作に置かれたソファ。

 そこに寝そべっている幼子の挙動を見逃すまいとするように、彼らは目を逸らすことができずにいる。



 見た目は少し癖のある黒髪と深い黒目をしている、特別目立つようなところもない茫洋とした五歳程度の男の子。

 その目は退屈さに眠くなっているような半目になっており、床に転がったままのシロイへと注がれている。

 纏っている服も質は良く綺麗だが簡素なデザインで、一見しただけならば街にいる子供たちと大差ない服装だ。

 アゴの割れた男に引きずられてきたシロイは未だ気を失ったままで、その視線には気づいていない。

 当然、その少年が纏っている空気が明らかに余人と違うこともまだ気づかずにいる。



 ソファに寝そべっている少年の髪が、まるで水の中で揺られているようにゆらゆらと揺れる。

 それに合わせて彼の周囲の景色が波打ったように歪んで見えるのを、壁にもたれるボレスは絶望的な気分で見つめていた。

 契約でシロイを保護することや、交渉で譲歩を引き出すことなどを考えていた自分の浅はかさに絶望し、街ごと消滅するか絶対服従の二択しかない現実に歯噛みする。

 その二択すら無視して鞭を握った娘には感動すら覚えたが、それを振るう暇すら得られずにカリアは床に縛り付けられた。

 呼吸するだけでも息がつまるような圧迫感をもたらす、城に込められている魔力など比較にならないほど濃密な魔力。

 それは少年の周囲を透明に染めており、彼の呼吸に合わせて滲み出ている。


 何もせずに、ただそこにいるだけで常に現実を揺るがし続ける存在。





 国族、ピトム。




 それが彼の名前である。










だいぶ前からちょいちょい名前が出ていた国族ピトム、初登場です。

若干不機嫌そうなのは出番が遅かったから、ではないはず……。

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