10.ナトゥスの不文律4
シロイ魔道具店の利用者でもある、冒険者というのはどんな人たちなのか。
冒険者が多く集まる場所、『ナトゥス』の様子を見ています。
黒髪の少年の一撃が、『剛腕のマンボ』にクリティカルヒットしました。
激痛に意識を飛ばし、しゃがんだ体勢のままでマンボは倒れた。顔面から落ちたが、その痛みよりも強い痛みが彼の脳を停止させていた。
下敷きにされないように躱した赤髪の少年は、慌てて立ち上がって両手を伸ばすと、黒髪の少年の振りかぶっていた腕を抑えた。
マンボの後頭部に球体を打ち付けようとしたのを止められ、舌打ちをした少年は迷いなく告げる。
「つぶす。必要。絶対」
「やりすぎ。やりすぎだから。もう十分すぎるから、やめてくれ」
絡まれた赤髪の少年がなだめても、全くやめようとしない。武器が使えないなら、と隙を見て蹴りを入れている。
その様子を呆れながら見ていた冒険者たちは、見世物が終わったと各々の話に戻った。少女が投げつけられた客席の冒険者は、いつのまにか手酌で楽しんでいた金髪の少女に尋ねる。
「いつもあんな?」
「今日は控えめですね。本気なら魔力込みです」
もし球体に魔力が込められていたら、その器官は跡形もなく爆ぜ飛んでいたはずだと少女が笑う。
それはある種の人生の終焉であるが、運良くマンボは生存しているため、酒のネタにはちょうど良い。もちろん彼の復帰には相応の時間がかかるだろうが、それはマンボの問題である。
笑いながら酌をされた酒に罪はない。
マンボに祝杯を挙げた彼は、しかしその姿を見て口にした酒を吹き出した。
無理矢理抑え込もうとして揉み合っているうちに、蓋が緩んだのだろう。あるいは黒髪の少年が意図的に緩めたのかもしれない。
その腰元に下げられた光る皮袋。
そこから垂れた滴は、マンボの尻に当たって薄汚れた服に染み込む。それでもその光が失われておらず、マンボの尻は滴が落ちるたびに広く全体を輝かせていく。
この日、ナトゥスの不文律に新たな項目が追加された。
「光る皮袋を下げた新人はからかうな」
しかし不文律でありながら、この教えは頻繁に酒の席で語られる。
『まばゆいマンボ』の名とともに。
『剛腕のマンボ』は『まばゆいマンボ』に二つ名が変化しました。
二つ名は本人の意思では変更できません。
冒険者の偉業を称えたり、失敗を笑ったりする際に彼はネタにされるようになります。
そのおかげで名前が売れて認知度があがるのですが、なぜか彼は不満らしいです。
さて、次回からは冒険者が生活の糧を得ている、『迷宮』について確認してみましょう。