1.魔道具店シロイの日常1
お久しぶりの新作です。
主人公である魔道具師シロイが、どんな日常をおくってしているのか。
まずはそこからご覧ください。
街を南北に区切る川。それに沿う川北大通りから伸びる道を北に進み、馬車が一台通るのがせいぜいの脇道を東へと折れる。
無認可で乱造された木造二階建て家屋が並ぶ、その一つに『シロイ魔道具店』という看板が貼られている。
壁には中の様子が見えるガラス窓がはめ込まれており、店内の様子が見て取れる。
僅か五メートルほどの奥行きしかない狭い店だ。
壁際に並ぶ棚には石鹸や香水などの日用品が並ぶ。
中央テーブルにあるのは魔道具だろうか。並んだ皮袋は様々に柔らかな光を放っている。
店扉から入ると吊るされた木管が音を立てた。
そこから広がるのは、店内に清涼な印象を与えるような爽やかなハーブの香り。
置かれている商品へと向かうよりも先に、カウンターから店主の挨拶が聞こえる。
「いらっしゃいませ。今日はどんな物をお求めですか?」
声変わりする前の少年の声に目を向ければ、カウンター越しに笑顔を見せている姿。
ショートボブに整えた栗色の髪は艶やかだ。僅かにそれに隠された同色の眉は、緩やかに下がって弧を描く。
栗と黒の混ざった瞳は真っ直ぐ客を見つめている。小さな鼻の下で笑みを浮かべる小さな唇は薄桃色。
作業着らしい厚手の服に身を包んでいる、一見少女にも見える少年シロイ。彼がこの店の唯一の店員であり、商品を作成している魔道具師だ。
その柔らかな笑顔が引きつったのは、その客と目があったからだろう。徐々に困り笑顔へと変わっていく。
来客は三人。
入口から見て右奥の棚に並んだ商品を手に取り、添えられた説明書を睨みだした若い男。
店扉の内側から扉へともたれかかり、出入りを妨げている壮年の男。
彼らは揃いの簡素な胸部鎧と兜、握りのついた鉄の棒と、丈夫な縄を腰に下げている。
もう一人は迷いのない足取りでカウンターの前へと向かっていく。
編み込まれた長い銀髪を左肩に流している。引き締まった筋肉が作る、くびれとしなり。慎ましやかな胸の膨らみを黒いスーツに包んだ女性だ。その腰には鉄鎖鞭が下げられている。
困り笑顔のシロイを見つめる瞳は鋭く、赤い色を帯びている。
無表情で怜悧な美貌。整った顔立ちはまるで南街の舞台女優のようだが、その言葉は鋭く刺さる。
「店を畳む準備はできましたか?」
困り笑顔のままで首を横に振るしか、シロイにはできない。
その姿が彼女の琴線にふれたのだろう。まるで甘えてくる子猫を見つけたように、無表情が蕩けて笑顔へと変わっていく。
「では身売りしましょう? 生活は保証しますよ?」
しかし若干、慈愛よりも事案を感じさせる笑顔で彼女は言葉を続けた。
シロイの日常を、しばらくご覧ください。
主人公がショタ系なら、肉食女子を登場させるのは義務ですよね。(謎の義務感)