俺、パンク状態になる。
前回までのあらすじ、というか略歴。
不良に絡まれたけど魔法で撃退した。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「よ、ようやく着いた……」
不良撃退から大体十分後。コノミはようやく冒険者ギルドへと辿り着いた。
(それにしても、こんなわかりやすいところにあったなんて……)
落胆したようにため息をつきながら、盾に剣と槍が交差した看板と、その下にこれまた知らない筈だがなぜか読める文字で『Gillte ov Advencher(冒険者ギルド)』と書かれた建物を見上げる。
冒険者ギルドは街のど真ん中にあった。
普通に門をくぐってこの『はじまりの街』にやってきたなら、一番に目立つだろうという場所にあった。
街の中心の広い噴水広場、その奥に大きなオレンジ色のドーム状の屋根にレンガを積んだ壁でできた大きな建物。
看板は屋根の上の方と入口脇に置かれている。
『Inner rad ov sentelid kauneter.
2L rad INTinbowk loom.』
(ご依頼の方は中央のカウンターへどうぞ。
冒険者用資料室は二階にあります)
扉脇の看板、そのシンボルの下に、小さく書かれた文字を読む。
相変わらずどういう原理で読めるのかさっぱりわからない。
しかし、ここでうじうじしていても始まらない。
コノミは手を強く握りこむと、思い切ってその西部劇状にありがちな両開きのドアを押し開け、中に入った。
──と、その直後だった。
「あ、やっと来たお姫ちゃん!」
ギルドの門を開けて、酒場と兼用しているらしいロビーに入ると、そこには今朝食堂ですれ違ったばかりの少女──ドロテアが立っていた。
「うわ、わ、きゃっ!?」
驚きのあまり、思わず変な奇声が口から漏れる。
コノミはなんとか扉の柱に掴まって転倒を防ぐが、しかしその慣性でフードがはだけ、隠していた銀髪が顕になった。
「うわ、スッゲェ美少女……」
酒場の方から、こちらの様子を伺っていた冒険者の一人が呟くのが、コノミの耳に届き、焦ってはだけたフードを深く被り直す。
「だ、大丈夫、お姫ちゃん!?」
ドロテアが心配そうな声をあげて、少女に手を差し出し引き上げる。
(うぁ、なんか変な声出たなぁ)
コノミは『だ、大丈夫です』と少々どもりながらも短く答えると、フードの陰から彼女の顔を見上げて疑問をぶつけた。
「ど、どうしてここに……?」
ドロテアはあの服屋の店員のはず。
それに彼女にはコノミが今日ここに来ることは伝えていなかった。
(۳( ̥O▵O ̥)!!……もしかして、セバスさんに遣わされた?)
今日コノミがここに来ることを知っているのは彼だけだ。
この状況が偶然じゃないなら、コノミは再びあの店に引きずり戻されて、奴隷として売られてしまう未来が確定してしまう。
「あー、それはセバスさんに言われてこれを渡しに──」
「やっぱりだぁ!?」
(やっぱり、やっぱりあの人の差し金だったんだ!)
そのセリフを聞き終わるや否や、コノミは案の定の叫びと共に回れ右をしてギルドを後にしようとした──その時だった。
「むぐふっ」
何か柔らかい壁にぶつかって再び転倒しそうになる。
が、しかし後ろに控えていたドロテアに受け止められたことで、その危険は回避された。
「いってぇ……。
って、あれ、銀子ちゃん!?」
銀子の言葉が鼓膜を打った瞬間、ほぼ脊髄反射のごとくスピードで脛を蹴り上げるコノミ。
その蹴りは無意識ながらに筋力強化の魔法がかけられていた為か、普通なら出せるはずのない速度と威力が、チャラ男の脛を襲撃した。
「急にいなくなったもんだからびっくりしたぜ、全く──っていってぇ!?」
「次その呼び方したら脛蹴るって言わなかったか、チャラ男?」
脛を蹴られて、ギルドの入り口で苦渋の表情で悶絶して転げ回るチャラ男と、それを見下しながら静かに言い放つコノミ。
「くっ……開口一番に膝蹴るなよこの暴力幼女……」
彼の脚を抑えている位置から見るに、どうやらその蹴りは脛ではなく膝のツボに入ってしまったらしい。
「え、えっと、お姫ちゃん……?」
突然口調やキャラが変貌してしまったように見えるコノミに戸惑いを隠せないのか、ドロテアが恐る恐るといった風に話しかけてくる。
「何ですか、ドーラさん?」
しかしそんな変貌も束の間、彼女に呼ばれた瞬間コロっと表情を作り変えると、コノミはドロテアを振り向いた。
猫かぶりとは、まさにこのことではないだろうか。
一瞬そんな想いがドロテアの頭に浮かぶ。
「うっ、笑顔が眩しいっ!?
……じゃなくてっ!その人大丈夫なの、お姫ちゃん?ものすごく痛がってるけど……」
「あー、うん。
この人ドMだから、ドーラさんが気にすることはないですよ」
「誰がドMだ、誰が!?」
背後で何やら抗議する声が聞こえてくるが、とりあえず無視を決め込むコノミ。
そんな対応をされるチャラ男が不憫なのか、ドロテアは思わず彼に憐れむような視線を投げた。
「クッソ理不尽!?」
しかし困ったことになった、と、改めてこの現状を鑑みて、心の中で顎に指を当てるコノミ。
このままドロテアの話を聞けば、たぶん、十中八九、あのお店に連れ戻されて奴隷にする手続きやら何やらに巻き込まれるだろう。
しかしそれを振り切るにしても、俺の体力では高が知れている。
逃げ回ることもできず追いつかれ捕まるのがオチだろう。
(……これは、もうドーラさんの話を聞く以外、選択肢は残されていなさそうだなぁ)
「……それで、なんでしたっけ?」
コノミはそういう結論に達すると、手をぎゅっと握って、迫り来る敗北の宣告を待ち構えた。
すると彼女は『そうだったそうだった』と呟きながら、掛けていたポーチから小さなリュックサックを引っ張り出してきた。
……え、何これ。
鞄の体積比おかしくない?
明らかにリュックサックよりも小さなポーチから取り出される様を見て、思わず目を見張る。
「これ。
セバスさんが、お姫ちゃんが冒険者になるならって用意してくれたんだよ」
「……え?」
そして今度は意味不明な言葉が口からはじき出されたことに、思わず間抜けな声を上げてしまう。
「セバスさんが、私に……?」
セバスさんは、俺を冒険者にしたくなかったんじゃないのか?
奴隷として売り出すために、俺を捕まえて引き留めておこうとしてたんじゃないのか?
しかしそう考えると、セバスの行為──コノミに鞄をプレゼントするというこの行為──は、その予想に対して辻褄が合わない。
(……もしかして)
不意に、そんなコノミの頭の中に、とあるイメージが浮上してきた。
(そういえば、美味しい牛肉を育てるために、高級な餌をあげたり、居心地のいい厩舎?を用意するとか、なんかそういう話を聞いたことがある気がする。
……もしかして、これもそれと同じで、俺を奴隷として最高の逸品に仕上げるために──奴隷として美味しい商品に作り上げるために育てているってことなんじゃ……っ!?)
実は単純に祝っているだけなのだが、そんなことは露とも知らないコノミは、恐る恐るといった様子でそのリュックサックを受け取った。
その様子を嬉しそうだと見て取ったドロテアは、『気に入ってくれたみたいで良かったよ♪』と笑みを浮かべた。
「それ、セバスさんが冒険者時代に使ってたやつみたいでね、内容量を拡張してくれる魔法が付与されてるらしいから、大事に使ってって──」
(え、何、内容量の拡張!?それってなんかめっちゃ貴重そうな気が……あ、いやでも──)
あまりの情報の多さに、頭の中がぐるぐるする。
内容量を拡張する魔法もそうだが、しかしセバスのお下がりということや、自分を最高の奴隷に仕上げるために料理してるなどという情報が一度に脳内を蹂躙していく。
(もう、何が何やら……)
頭の中身につられて、なんだか体までグラグラしてきた。
「ちょ、ちょっとお姫ちゃん!?」
「だ、大丈夫か銀子!?」
まるで、遠くから水を通したようなくぐもった声が聞こえてくる。
「だい……じょ……ぅぶ……」
コノミは一言、そんな二人の声に短く答えると、軈て目をホワイトアウトさせて気を失った。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m
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