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俺、情緒不安定になる。

挿絵(By みてみん)

デザイン:わんぱく

 前回までのあらすじ、というか略歴。


 セバスさんの用意してくれた朝ごはん美味しい!と思ってたら奴隷にさせられそうになったので脱走しようとしたら、ドロテアに見つかった!

 ごめんなさいドーラさん!

 今は捕まるわけにはいかないんだ!


⚪⚫○●⚪⚫○●


「ふぅ、ここまでくれば大丈夫でしょ」


 レンガ造りの中世ヨーロッパのような景観の街の中。その商店街の一角、とある店の前に置かれた樽の影に、銀色の髪をした少女が身を隠していた。


 少女の名前はコノミ。

 身長は約身長は132センチほど。

 長い銀髪と夏の青空のような瞳をした幼女で、おどおどと小動物じみた雰囲気をしている。


 現在の装備は白いブラウスに紐で縛るタイプの青いフレアスカート。

 頭には青いフーデッドケープを被っていて、顔を隠そうとしているのが傍から見てもわかる。


「よし、ドーラさんもセバスさんも居ない!」


 コノミは注意深く辺りを見回して、店の人がいないのを確認すると、樽の後ろから姿を現して商店街の大通りへと曲がった。


 ──と、そんな時だった。


「ねぇ君、そんなとこで何やってんの?」


「うわぁあ!?」


 不意に背後から呼びかけられた声に、コノミは思わず大声を上げて飛び上がった。


 一瞬、その彼女の声に驚いた人達がコノミの方を見るが、しかし何事もなかったかのように去っていく。


「な、何ですかいきなり突然……っ!?」


(し、心臓に悪いぞこの野郎!

 思わず口から内臓飛び出るかと思ったじゃねぇか、ナマコみたいに!)


 コノミは、突如現れた金髪の男を睨みつけた。


 高い身長、油で固めたのか、チャラい感じに跳ね上がっているツンツンな金髪。

 目は大きく強気で、顔つきはどこかのアイドルかというくらいに整っている。

 おっさん的というよりも青年的で、黒いシャツに赤いレザーコート、背中の剣がいかにもチャラい印象を与える。

 しかもよく見てみれば片耳に二つのピアスをしていたり、指には宝石の嵌った指輪まである。


 こいつはチャラ男だ、関わっちゃダメ奴だ。と本能が警鐘を鳴らすほどに。


「やー、わーるわーるい。

 驚かせるつもりはなかったんだ、ただちょっと君があまりにも可愛いもんだからさ、声かけたくなっちゃって」


 ガッ、とまるで私の退路を断つように、樽に革のブーツを蹴りつけて壁ドンならぬ樽ドンを仕掛けるチャラ男。


 話には聞いていたけど、これが所謂“ナンパ”というやつか……。


(めちゃウザいな、これ)


 何がウザいって、特にこの『これやりゃ、どんな女でもイチコロっしょ』と言わんばかりの自信満々な笑顔と、ウザいほどに整ってる顔立ちが。


 ……残念ながら、前世が男であるという記憶があるので、全く落ちちゃいないけれど。


 コノミは眉をしかめて、心底嫌そうな顔をしてみせた。


 するとその反応が意外だったのか、チャラ男は少し驚いたように形のいい眉をピクリとはね上げた。


 しかし、そんな反応も束の間。

 彼は申し訳なさそうな顔をすると、足を樽から下ろして、コノミから少し離れた。


「あー、いやいや、そんな顔しないでくれよ、な?

 あ、そうだ。

 君をこんな風に困らせたお詫びになんか奢るからさ、ちょっとそこのカッフェでお茶してかない?」


 身振り大きくそう謝罪の言葉を述べるチャラ男に、コノミは狼狽える。


「け、結構です。

 間に合ってるんで、そういうのは」


「えー、ホントにぃ?」


(ウザい、こいつホントウザい!)


 疑うような目でこちらを見下ろしてくるチャラ男に、コノミは思わずフードを引っ張って、深く被ろうとした。


 そんなコノミの様子に、ハタと何かに気がついたのか、チャラ男からこんなセリフが漏れてきた。


「……あ、もしかして家出中だったりする?

 だったらオレ、君を匿ってあげることだってできるんだけど?」


「ごめんなさい、知らない人にはついていくなと言われているので」


「へぇ、親御さんの言いつけちゃんと守ってんだ、偉いなぁ君。

 ……でもこうやって話してんだからさ、もうオレら知らない仲ってわけでもないじゃん?」


 くぅ……、こいつ強引だなぁ。

 どうしても俺を連れて行きたいのか、このロリコン野郎め!


(……こうなったら、もうこうするしかねぇ!)


 いい加減我慢の限界に達したコノミは、強行突破でこの場から走って逃げることにした。


「あっ、ちょっと君!」


 一瞬の隙を見て、チャラ男の脇をくぐり抜ける。

 身長が低いせいなのか、なかなか思ったように速く走れないが、それでも頑張ってこの期間から逃げようとした──のだが。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 20メートルほど走ったところで、少女の体力は尽きた。


「……だ、大丈夫か?」


 すぐ後ろでチャラ男の声が聞こえて、コノミは自分の体力の無さと足の遅さを呪った。


「ちょ、ちょっとタンマ……」


 後ろ手に掌を晒して、チャラ男の追撃を制するコノミ。


(ち、ちくせう……。

 こんなに体力が無かったなんて聞いてねぇぞ……しかも足遅いしッ!)


 それもこれも、全部幼女の体にされたせいだ!と、どうにもならない現況に悪態を吐く。


 あー、くそ。

 なんでこんなことになったんだよ。

 こんな幼女の姿で転生なんてしなければ、こんなことにはならなかったはずなのに……。


 しかし、そんな願いは既に後の祭り。


 わかってはいるものの、こうも不利な状況に苛ませられると、嘆かずにはいられない。


 しかし、そんな嘆きなど当のチャラ男にはわかるはずもなく。

 彼は両膝に手をつきながら息を整えているコノミに、心底良心から次のようなセリフを繰り出した。


「疲れてんならさ、ちょうどそこにカッフェがあるし、そこでお茶してかない?」


「お前はそればっかりか!?

 もっと他にレパートリーねぇのかこの野郎!?」


 ──しかしそれは、彼女のみが知り得ることだが、まぁ、逆効果として働くことになったのだった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


「あーもうっ!

 あーもうほんっと!

 ほんっと疲れるわテメェのナンパ!

 なんだお前のあのレパートリーの少なさは!

 なんで『お茶してかない?』しかお前のレパートリーはねぇんだよ?

 会うたび会うたび『お茶してかない?』しか言ってこない野郎に捕まったやつの気持ちをちっとくらい考えたらどうだってんだ、ったくよォ」


 結局、あの後自棄やけを起こしたコノミは、喫茶店でいろいろ奢ってくれるというので成り行きで彼の……チャラ男の誘いに乗ったわけだが──只今、絶賛グチ吐き中です。


「……あ、あの、銀子ちゃん?

 今めっちゃ口悪くなってるけど、その……大丈夫?」


 今までの口調とは打って変わって悪くなった少女の口にたじろぎながら、これで何杯目になるのかというパフェを掻き込むのを心配そう──否、不安そうに見ながら、口を開くチャラ男。


「誰のせいだ、誰の!

 こちとらテメェのせいでストレス溜まりっぱなしなんだ、ちっとはグチを聞く甲斐性くらい……あ、ウェイトレスさん!この花苺のパフェお代わりください!」


「ご注文ありがとうございます。

 銀貨二枚になります」


 桃色を基調とした給仕服に身を包んだウェイトレスが、恭しく礼をする──のだが。


「おい、チャラ男。

 銀貨二枚だってよ」


「お……オレの財布が……」


 渋々と言った風に、革袋から銀色の貨幣を二枚引っ張り出してウェイトレスに手渡すチャラ男。

 心なしか、そんな彼を見るウェイトレスの表情に少し哀れみが浮かんでいるように見える。


 しかしそんなことはコノミの知ったことではない。


(なんでも奢るって言ったのはチャラ男だ、こいつの自業自得。

 俺をナンパした罪は重いぜ?)


 コノミはそんなウェイトレスさえも無視して、口の中に花苺が混ぜられた冷たい生クリームを放り込む。


(うむ、超絶品)


「あと俺の名前は銀子じゃねぇ、コノミ・イトーだ。

 なんだ、その銀子って呼び方は。

 なんか知らんけどめっちゃ腹立つからやめろ」


 言いながら、行儀悪くスプーンの先をチャラ男に向けるコノミ。

 しかしそれに気を悪くした風も見せず、当のチャラ男は飄々とそれを受け流した。


「えー、いいじゃんか銀子ちゃん。

 かわいいよ?

 とってもキュートだぜ?」


「下手クソ」


 褒められてるというよりも、なんだかイラッとするチャラ男のセリフに、にべもなく吐き捨てる。


「うぐっ」


「どうせあれだろ?

 お前顔がいいから、それだけを武器にして遊んでたんだろ?

 頭の悪さが丸見えだぜ、そういうの」


「い、いやちげぇし!

 オレこう見えても結構高ランクな冒険者なんだぜ?」


(それとこれに、一体なんの関係があるのやら……)


 言って、チャラ男は何か黒い飲み物に口をつける。

 メニューにちらりと視線を飛ばしてみると、そこにはコノミの知らない文字で『coffincoffin』と書かれていた。


(見たことのない文字なのに、なんで読めるんだろ。

 しかも意味まで分かるし)


 ちなみにさっきの文字列は、『コーヒー』の意味だった。


(まぁ、便利だからいいんだけど)


 チャラ男は、そんな様子の彼女に、どうやら自分のことには興味がないらしいことを悟ったのか、話題を変えてきた。


「そんなことよりさぁ、銀子ちゃん」


「次言ったら脛蹴り飛ばすから」


「……君さぁ、イトーちゃん。

 家名持ちってことは貴族なんだろう?

 どうして家出なんかしてるんだ?

 オレでよかったら話聞くけど」


 不機嫌な様子が収まりそうにないと思ったのか、チャラ男はコノミ自身の話に切り替えた。


 ここ、イタリカ王国には貴族制度が存在する。

 一番上から王族、その親族親類親戚が公爵、その次に国境を護る侯爵がいて、その下には地方行政を総督する伯爵、そして伯爵の助手的な存在の子爵、そして伯爵の土地を分担して管理し、土地を守る男爵がいて、男爵はその下の騎士爵の人々を従えている。

 騎士爵はつまり騎士のことで、現代日本風にいうと警察的な存在だ。


 そしてこの国において苗字──つまり家名が与えられるのは、この騎士爵以上の貴族である。


「知らん。

 俺には二日以上前の記憶がすっぽり抜け落ちててな。

 この名前くらいしか覚えてない」


 コノミはようやく運ばれてきた花苺のパフェに口をつけ──


「……そうか。

 もし君が貴族だったってんなら、ギルドに捜索依頼が張り出されてると思うんだけど……どうする、見に行くか?」


 ──ようとした手を、不意にその彼の言葉を聞いて、ピタリと動きを止めた。


「……な、なんだよ?」


 不審に思ったのか、チャラ男が不安そうに尋ねてくる。


 そうだ、ギルドだよギルド!

 俺は元々、あの店を出たら真っ先にギルドに行って冒険者登録をするつもりだったんだ!

 なのにこいつに呼び止められたから……。


「チッ、お前のせいでまた腹が立ってきた」


「なんでだよ!?」


 コノミはとりあえずスプーンに掬ったクリームを口に入れると、再びその匙の先を突きつけ、ギルドに冒険者登録をしに行く最中だったという話をチャラ男に告げた。


「──それをお前は変な誘い文句で俺を疲れさせて……。

 見ろ、このパフェのカップの数を!

 ざっと見ただけでも五個はあるぞ、五個は!

 口の中も腹ん中も甘いクリームでいっぱいになっちゃったじゃないか!

 俺が糖尿病になったらどうしてくれるんだ!?」


「知らねぇよ!

 お前が食ったんだろ!?」


「元凶はお前だろうが、こんちくしょう」


「えぇ……そんな理不尽な」


(あーくそ。

 ギルドのこと思い出したらお腹気持ち悪くなってきた。

 このまま普通に店を出てもまたついてこられて面倒だし、トイレに行くついでにそのまま退散するか……)


 コノミは脱いでいたケープを被り直すと、席を立ってトイレに行く旨を告げてその場を後にすることにした。


 きっとチャラ男には情緒不安定そうに見えていただろうが、しかしそんなことはこの少女には関係ない。

 この男もきっと、彼女とカッフェ(・・・・)でお茶ができて楽しかったことだろう。


 ならもうここにいる理由はない。

 コノミはそういう意図を込めて最後に『ご馳走さま』と呟くと、呆然としたまま固まっているチャラ男を無視して、やや強引にその場を引き払った。

 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m

 もしよろしければ、ここまで呼んだついでに感想、いえ、評価だけでもしてくれたら嬉しく思います。

 そして、また続きが読みたい!とお思いであれば、是非ともブックマークへの登録をよろしくお願いしますm(_ _)m

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