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俺、幼女になる。

挿絵(By みてみん)

デザイン:わんぱく

 ある日、彼は交通事故に遭った。

 それが本当に交通事故だったかどうかはわからないけど、しかし彼が持っていた最後の記憶は、宙を舞う巨大な鈍色の鉄の箱と、黒い触手のような何かだった。


 彼は、その時誰かを庇って死んだような気がしていた。

 覚えているのは、濡れ羽色の長い髪と烏貝のような真っ黒な瞳、そして、彼女が自分にとってとても大切な人であったことと、その人物の名前が、確か伊藤木実いとうこのみだったというだけだった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 ここは、イタリカ王国の南方、通称『はじまりの街』近郊の森の中。

 カラリと乾いた空気が森を満たし、空に昇った太陽の熱を木陰が遮る中に、一人の少女が倒れ伏していた。


 長い銀色の髪に、雪のような白い珠肌と、そして長い手足。

 側から見れば、まるで精巧なビスクドールが不法廃棄されているようにしか見えない光景だが、そのビスクドールはたしかに人肌の熱を帯び、呼吸するたびにその背中は上下していた。


「んぅ……」


 ふるふる、と長い銀色の睫毛が震え、夏の青空のような瞳が顕になる。


(ここは……)


 朧げな意識が、緑色の下草を映す。

 いや、下草というよりも苔か。


(……え、待って。

 今これどういう状況?)


 覚えていた最近の記憶は、たしか都内某所でトラックに跳ねられた(?)ところだったはずなのに、なぜか森の中で倒れ伏しているという謎の状況に、少女は頭を抱える。


 あれだけ盛大にぶつかったのだ、目覚めるとしても病院の中とか救急車の中。

 そうでもなければいろんなラノベで使い回されている真っ白な空間にでも躍り出るはずなのに──。


「なんでやねん」


 思わず、関西弁でのツッコミが口をついて出る。

 多分きっと、こんな状況に置かれたら誰だってこう呟くだろう。


 少女は、おなかに直接伝わってくる地面の土の冷たさに眉を顰めながら、ゆっくりと体を持ち上げた。

 驚くほど澄んでいるが、しかしカラリと乾いた暑さを滲ませる空気が、全身にまとわりつくのを感じる。


(全く、どうしてこんなところで倒れてたんだか……)


 少女は心の中で愚痴をつぶやくと、服についた土をはたき落とそうとして、動きを止めた。


「……」


 視界に映るのは、なだらかな白い丘陵と、まるで自分のものとは思えない、白く細く長い手脚。

 有り体に言えば、そこには未発達な白い柔肌が上下する女の子の裸体があったのだ。


「……ぃ」


 少女の体が止まる。

 しかしその代わりか、心臓のドクドクという鼓動だけは早くなって、少女の耳元でうるさく叫び始めた。


「……なぃ」


 ぽつり、と言葉が漏れる。


「ない……。

 なんで……どうして……ぁあるべきものが……ぁぁああるべきものがぁあ!?」


 そして、そのつぶやきは次第に大きくなり、やがて絶叫へと変わって森中に響き渡った。


 それが一体どれほどのものなのかというのを説明するなら、辺り一帯の森に住む鳥やリスなんかといった小動物たちが、いっせいに慌てて逃げ出すほどと説明するほかないだろう。


 しかしそんなことは、この少女にとってはどうでもいいことだった。

 そんなことを気にしている心の余裕なんて、ちっとも残ってはいないのだから。


「なんでさ!?

 俺こんなこと望んでないよ!?

 女になりたいだなんて願望は一切なかったし、第一TSさせるならもっとナイスバディにしてくれよ!

 これじゃあ生前童貞だった俺の相棒になんの労いもできないし、まるで俺がロリコンみたいじゃないか!

 確かに銀髪は好きだ!

 好みだよ!

 でも幼女にする必要あった?

 寸胴おこちゃまボディにする必要あった?

 いや、それを言うならナイスバディにする必要を問われるかもしれないけど、それでも少しは労おうとする心持ちをだなぁSie istクシ ohneョーメ Ehre!」


(嗚呼、神よ!

 俺にこんな酷い仕打ちをするお前に名誉なんてあるものか!)


 膝から崩れ落ちながら、苔むした地面を殴りつけながら軽く一分近く泣き叫ぶ銀髪碧眼の美少女。


 輪廻転生の話はそれこそ紀元前に遡るほど昔からある思想である。

 例えば機織りの女神に喧嘩を売って、蜘蛛に転生させられたギリシャのアラクネの話は有名だ。


 しかし、この場にいる彼女には神様に喧嘩を売った記憶は一切ない。

 というよりむしろ、喧嘩なんて一回もしたことがないかもしれない。

 積んできた徳なら一般人よりも高い自信すらあった。


(なのにこの仕打ち。

 ……こんなの、現実にあってたまるか!)


「そうだよ、おかしいだろこんなの。

 ……そうだ、きっとこれは夢なんだ。

 本当の俺の体は病院のベッドにいて、目が覚めるのを待ってる。

 きっとそうだ、そうに違いない!」


 喉の奥から変な笑い声が漏れるようだった。

 別に我慢するつもりもなかったのか、声の出るままにアハハハハと狂ったように乾いた笑い声を出していた。

 しかしそうしているうちになんだか段々と虚しくなって、笑う声も徐々に小さくなっていった。


 一言で言うと、哀れである。


「……はぁ。

 これから、どうしようかなぁ……」


 試しに本当に夢かどうかを確かめるために抓ったほっぺたが痛い。


 どうやらSAN値も回復してきたようだし、そろそろ本当にどうするべきか考えないと……。


 少女は一旦頭を冷やすために、頭を左右に振って深呼吸を始めた。

 頭を振った時に長い銀髪が顔について鬱陶しい。


 街でも見つけたら、切るのも勿体無いし、何か括るものでも探そうかな。

 いや、それよりも前にお金がないからそれをどうにかしないと。


「……いや、そもそもそれ以前の話、この格好で街に行くのは憚られるしなぁ」


 かといって、そう都合よく衣服が落ちているはずもない。


(……もしかして、これ、詰んでね?)


 ──そう、思っていた時だった。


 不意に、背後でガサガサと低木の茂みが揺れる音が聞こえて振り向いてみると、そこには少女と同じ背丈くらいの、肌が緑色で黄色い目をギラつかせた鷲鼻の小人が立っていた。


「ギギッ!」


ヒ●ラーネタ

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