俺、捜される。
前回のあらすじ、というか略歴。
獣人不良集団、襲来。
⚪⚫○●⚪⚫○●
一方その頃、ギルドへと戻ってきたドロテアは、いつもとは空気の違う受付に眉を顰めていた。
と、直ぐにこちらに気が付いたのだろう受付嬢の一人が、『あ!』と指差してこちらへと飛んでくるのが目に映った。
「やっと見つけましたっ!」
「え、ちょっ、何、なんですか!?」
突然の事態に目を回し、思わず後ろ足を引いてしまうドロテアだったが、しかしその受付嬢──シャルロットは、構わずその両手を掴んで顔を引き寄せた。
「私、受付嬢のシャルロットと言います。先ほど飛び出して行った銀髪のフードの女の子の事でちょっっっと聞きたいことがあるので、少々お時間いただけませんか!?」
「……ふぇ?」
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状況も理解できないまま連れてこられたのは、ギルドの受付カウンターの奥にある、少し大きめの応接室だった。
ドロテアはされるがままにシャルロットにソファへと腰掛けさせられ、紅茶を注がれていた。
「お初にお目にかかる。
吾輩、ここ『はじまりの街』冒険者ギルド支部にてサブ・ギルドマスターを務めているスキヘン・ハーゲンという者だ。
此度はお忙しい中お越しいただき、誠に感謝致す」
鷹揚に、そして仰々しく礼の言葉を述べるのは、向かいのソファに腰掛ける、スキンヘッドの男だった。
皺の入った顔、浅い切り傷の跡が刻まれた頭皮、赤い革のコートに、茶色いマントを羽織っている。
そんな、見るだけであらゆる存在にプレッシャーを与えそうな、そんな威厳をヒシヒシと感じ取れる老爺が何故かこちらに頭を下げているというこの状況に困惑の表情を浮かべ、耐えられず謝辞を返した。
「え、えっとお、お気になさらないでください」
あまりの緊張に呂律が回らない。
何と返答していいかわからない。
しかし、何かただ事でない状況であることだけは察して、それと自分にどう関係があるのかと不審にも思い始めた。
そんな彼女の表情を読み取ってか、彼は後ろの女性──ドロテアをここへ連れてきたシャルロットとかいう受付嬢の方へと目配せをした。
と、それを合図に、彼女が懐から一枚の羊皮紙を取り出して、ハーゲンと名乗った老爺へと手渡した。
「まずは、これを見て頂きたい」
そう言って見せられた羊皮紙には、見覚えのある一人の少女の肖像画が添付されていた。
「お姫ちゃん!?」
そう、その少女の顔は、先ほどまでドロテアが必死に探していた、あの銀髪碧眼の少女のものと、全くと言っていいほど似通っていたのである。
「お姫……ちゃん?」
彼女の反応に、少しだけ眉を顰めるハーゲン。
その反応が、およそ彼女の従者としては相応しくないものだと感じたのである。
「あ、いえ。
この娘、うちの店長が拾ってきたらしくて。
名前も思い出せないくらい怯えてたので……その、渾名で」
聞いて、組んだ両手に口元を隠す様に肘をついて、何やら難しい顔で考え込み始める。
しばらくの間、そんな二人の間に沈黙が流れた。
気まずいのか、後ろに控えているシャルロットは口をモゴモゴと波打たせながらあちこちに視線をやっては、手の指を何度も組み替えていた。
(何だろう、私何か言っちゃいけないこと言ったかなぁ?
あ、でもそうだよね、一国の王女様なんだもん、そんな人をあだ名で呼んでたなんて頭が高い!って怒られても仕方ない……っ)
差し出された羊皮紙には、彼女の名前も一緒に書かれていた。
曰く、“シュノークローゼン王国第二王女ユキナ・ユキバラ姫殿下”と。
と、そんな時だった。
不意に、ハーゲンはこちらへ向かって一つ質問をよこしたのである。
「それで、彼女は今どこに?」
言われて、ビクッと肩を大きく震わせる。
(……言えない。
スラム街に逃げられたなんて、絶対言えない)
普段は快活で人懐っこい彼女だが、このようなストレス耐性なんて欠片も持ち合わせていなかった。
もちろんそれなりに勇気のある方だ、ということは自覚している。けれどこんなレベルになってしまっては、もうそんな事は関係ない──そこまで頭の中でぐるぐる迷っていると、そういえばここに戻ってきた目的を思い出したのだ。
(ええい、ママよ!)
「そうですっ!それでここに来たんですっ!」
バン、と机に両手をついて、のめり込むように顔をハーゲンに近づけた。
……反動で、その豊満な胸がぶるんと揺れて、一瞬彼がそっちに目を奪われたのは……まぁ、この際は端折るとしよう。
視線を戻し、『どういうことかね?』と話を促した。
「実はお姫ちゃん、どうしてかわからないですけど、獣人のお友達と一緒に、スラム街へ逃げたみたいなんです」
「スラム街?」
「はい、それで力のない私がそのまま探しに行っても危ないので、冒険者の方に力を借りられないかと思いまして」
話すうちに、表情が暗くなる。
今こうしている間にも、彼女たちが誰か悪い人に捕まらないとも限らない。
もしかすると、人攫いや不良に遭遇して痛い目に遭っているかも。
そう考えると、口調はだんだんと早くなってしまうのだ。
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、ハーゲンは『ふむ』と一言相槌を返すなり、上体を上げて意外な一言を口に出した。
「それなら、吾輩が受けよう」
「ぅぇえ!?」
その反応に、思わずシャルロットが驚きの声を上げた。
「本当に貴女の言う“お姫ちゃん”がユキナ姫殿下であられるならば、失敗できない依頼ですからな。
それに、スラム街というなら時間も惜しい」
言いながら、懐から羊皮紙と懐中筆を取り出し、スラスラと何かを認め始める。
ドロテアの方からはちらりと文面が見えたが、しかしそこに書かれていたのは、普段彼女たちが用いることのない、知らない言語──というよりも、暗号だった。
ハーゲンは書き終えると畳んでまた別の懐中筆で記号を刻んだ。
「 ᛟ 」
瞬間、記号が赤く光り、折り畳まれた紙が一枚のカードへと変身した。
(見たことない魔法だ……)
きっと、《生活魔法》なんて民衆の使うようなものではないのだろう。
明らかに普通の魔法とは様式の異なるそれを手に取ると、彼はシャルロットに手渡した。
「直ぐにマーリンに送ってくれ。
時間がない故、地下の転送室と連絡室を使ってもらってかまわん。
おそらく始めに要件を聞かれるだろう、そうなれば『至急やってほしいことがある』とでも言っておけ」
「は、はいっ!」
そう慌てて返事をすると、彼女は急いで応接室を後にしたのだった。
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