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俺、逃亡者になる。

挿絵(By みてみん)

デザイン:わんぱく

 前回までの略歴、というかあらすじ。


 冒険者になった!→人攫いの一味(コノミ視点)から逃げた!


⚪⚫○●⚪⚫○●


 目まぐるしく、それはもう盛大に状況が変化する中、エントランスに氷の荊棘を巻きつかれて倒れ伏す茶髪の女性を視界に収めながら、受付嬢──シャルロットは呆然と立ち尽くしていた。


 彼女の頭の中は、ただ一つのことに埋め尽くされていた。そう、たった一つ。


(姫……姫……あ、あの娘さっき姫って……)


 これである。

 金色の長い巻毛をバレッタで留めた、翡翠色の目をしたこの女性は、受付上になって今年で二年目の若手だった。

 好きなことは獣人の少年を視姦することで、苦手──というよりもむしろ嫌いなことは、面倒くさいこと。


 しかし今回は程度が違った。

 ギルド宛に騎士団から要請される、所謂『家出した良家のお転婆姫探し』とは訳が違ったのである。


 普段なら、有力な冒険者にでも──ふだんならAランク冒険者に依頼を斡旋してなんとかしてもらうのがいいのだが、視線を落とした先にあった依頼書を見るに、そういう訳にもいかなさそうだった。


『依頼No.189

 誘拐されたシュノークローゼン王国第二王女ユキナ・ユキバラ姫殿下の捜索


 特徴

 銀髪碧眼に小柄な体躯、童顔で氷の魔法を得意にしている。

 性格はお転婆で行動的


 備考

 捜索の担当は、Sランク相当以上の実力を持つ冒険者が好ましい』


 その下には各ギルドに出回っているのだろう、彼女の似顔絵が貼り付けられている。

 さっき登録して行った彼女とはまるで雰囲気の違う絵だが、貴族にはよくある話だったので、おそらくはという予感が過ぎっていたのだ。


 普通に考えればそんな少女が、彼の王国から数千キロも離れたこの街までやってきて、そこで初めて冒険者登録をする、なんてほぼありえない話ではあったのだが、どうやらパニックのせいか常識的な判断能力が落ちていたシャルロットは、後輩に仕事を引き継がせ、急いでギルマスのいる執務室まで急いだのだった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 一方でドロテアが氷の荊棘を破ったのは、その直後のことだった。

 シャルロットの方もそれなりの時間パニックになっていた間、同様にこの女性も『お姫ちゃんに逃げられた……』と延々凹んでいたのである。


 それからあの受付嬢が奇声を上げてカウンターを後にしたところで我に帰ると、直ぐに報告しないとと思い立ち全身の力を込めて強引に荊棘を破壊。

 急いで後を追いかけることにしたのだった。


「あの、すみません!」


 手がかりはない。

 しかしあの二人だ、きっといろいろ目立つに違いない。

 そう考えた彼女は、人伝にコノミたちの足取りを辿ろうと作戦を立て、即実行に移したのである。


「あら、ドーラちゃん。そんな息急き切ってどうしたんだい?」


 普段から街の人達との交流があり、自分の顔が知れていたのもあって、街の人は快く質問に答えてくれた。

 それどころか、進んで彼女の捜索を手伝ってくれる人まで現れ始めた。


「青いフーデッドケープの少女に、狼族の少年の二人組だね。それならさっき、あっちの角を曲がっていったのを見たよ」


 いつも利用する八百屋のおじさんが、親切に指をさして教えてくれる。

 その方角は南東。

 目撃情報を頼りに進むうちに、だいたい一直線にその方向へと進んでいっているのがわかった。


「南東……って、まさかお姫ちゃん、スラム街に行ったんじゃ……」


 不安な気持ちが心の奥底から湧き上がってくる。


「最近、スラムじゃあ人攫いが横行してるからねえ。

 行くなら、一旦戻ってギルドに報告した方がいい」


「でも、それじゃお姫ちゃんが!」


「いいかいドーラ。人買いも直ぐにはどうこうしようなんざしない筈さ。

 いいから一旦戻りな」


 おじさんの言葉に、焦っていた心が僅かに落ち着きを取り戻す。

 確かに彼の言う通りだ、とドロテアは納得したのだ。

 自分一人が行っても、ミイラ取りがミイラになるだけ。そうなるくらいならばギルドに要請して救出してもらった方が絶対にいいに違いない。


 そう考えを改めた彼女は、しかしまだ二人がスラムに行ったとは完全に決まったわけではない為、それからも街の人たちに協力を仰ぎながらギルドへと走ったのだった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 コノミを背負ってギルドを後にしたロウは、とりあえずあの女の人──ドロテアから逃げる為にはどうすればいいか考えていた。

 その結果、街のどこかに潜伏したとしても、この目立つ組み合わせだ。どうせ見つかるのは時間の問題だと、自分の寝床のある南東──スラム街へと逃げ込むことにしたのだった。


 そんな事は露とも知らないコノミはといえば、取り敢えずあの人攫いの一味(だと勝手に思い込んでいる人たち)から逃げられるなら、取り敢えずはどこに隠れてもいいと思っていた。

 だからロウの背中に揺られながら街の中を走り回ってる間も、その風景がだんだんと、なんだか荒れ始めてきていると言うことに対しても、特に何も感じなかった。

 強いて言えば、『あ、もしかしてこれがスラム街とかいうやつなのかな?』程度の感想でしかなかった。


 あの店があった商業区域や、走り渡ってきた居住区域とは違い、砂埃が濃く舞っていて、地面の舗装は甘く土が剥き出しになっている。

 ところどころ細い川が流れているのは、おそらく近くなった外壁を鑑みるに、街の外に近付いたからなのだろう。

 そういえば、川に架かる小さな木の橋も、少し腐り気味だったように見える。


 冒険者ギルドなんて誰もが登録できて誰もが簡単にお金を稼げる、なんていう、スラム解消には余程有効に見える制度があるにも関わらずこんな場所があるという事は、一重に労働力不足という問題のみに原因があるわけでもないのかも知れない。


 なんて、適当なことを考えながら揺られていると、ロウの足が減速を始めた。

 場所は外壁に程近い場所で、いろんなガラクタがすり鉢のようにして積み上げられ、真ん中に広場のようなものができているところだった。

 ロウが足を向けていたのは、そんなガラクタの山に埋もれるようにして建っている、小さな秘密基地のような簡素な小屋──否、あばら屋だった。


「大したもてなしもできねぇが、まぁ上がってくれ」


 言って、ちょっとした鼠返しのついた階段を先に上がって扉を開けて促すロウ。

 やはり、こういうところだけをみると真摯な男だと少女は苦笑いを浮かべる。


「な、なんだよ?」


「いや別に?」


 真摯ではあるが、あのギルドでの行いをコノミが忘れたわけではなかった。


(こいつはムッツリスケベだから、用心しないとな)


 男は狼だ、と言ったのは、果たして誰だったか。

 まさか自分が文字通り狼の男に招かれる事になるとは思っていなかった少女は、クスリと笑って部屋の中へと足を踏み入れたのだった。

 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m

 もしよろしければ、ここまで呼んだついでに感想、いえ、評価だけでもしてくれたら嬉しく思います。

 そして、また続きが読みたい!とお思いであれば、是非ともブックマークへの登録をよろしくお願いしますm(_ _)m

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