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アコーディオン弾き

生きてる限りぼちぼちです。


関所を通り抜け、リバティとパスが町へ続く道を歩いていると、前方から何やら音楽が聞こえてきた。

「これは何の音色かしら?」

「アコーディオンだろうね」

彼女の質問にパスが答えた。

「あっちの世界の楽器をこちらに持ってきて、演奏しに来るものもいるんだよ」

「伸びやかな心落ち着く音色ね」

「楽器は演奏者の心を表すともいうからね」

そう話していると、だんだん音楽が大きくなり、こちらにやってくる演奏者の姿が見えた。背丈は普通くらいの男性で胸にアコーディオンをくっつけ、肩掛けのバンドで固定していた。演奏をしながら、歌い出した。

「何が悲しいのかわからない。けれど心穏やかに、かの日々を懐かしもう~」

「こんにちは。素敵な音色ですね」

リバティは演奏者に近づくと声を掛けた。男は歌と演奏を止めて、リバティとパスに挨拶した。

「おや、どうも有り難う。そちらはパスじゃないか、調子は変わりないかい」

「ぼちぼちだよ」

「こちらのお嬢さんは見ない顔だね。向こうから来たのかい」

「ええ、そうよ。でも向こうで本来なら私は死んでたみたい」

「なんだって!?どういうことだい?」

パスは事情を男に話した。インバイトの魔法に掛けられたリバティは注意深く見ない限りはマネキンだったと見抜かれないくらい人に近い姿に見えていた。それもいきなりではなく、この世界で言葉を交わし感情を抱くことでそのエネルギーが体全体を震わせ、更に人らしくなっていったのだった。

「そうかい、君は日本のマネキンだったのかい、日本には行ったことないけど、あまり違和感ないね」

「うん、そりゃこの世界にいる時間が長ければ皆、適応していくのさ」とパスが突っ込んだ。

「インバイトがあっちの世界にいるのが苦しい人達をこっちの世界に連れ出すってのはきいたかい?」

「ええ、でも死んでる人もここに迷い込むみたいだし、なんだか皆が受け入れられてる訳じゃないわね」

「彼が考え出した世界でも、皆が自由に生きようとするからかな、まあ、それはいいとして…お嬢さんが向こうではそもそも死んでたって言ってたけど、おれも実は大して変わんねえのさ」

「そうなの?」

「こうやってアコーディオンを弾いて歌えるのもこっちに来たからであって、おれはフランスで王宮楽団の一員としてアコーディオンを弾いていたのだけどさ、ヨーロッパ中をツアーで回るのが結構ハードでね、自由がきかなくなったら、この楽器を演奏するのも全く楽しめなくなってしまったよ。そんな心の抜けた演奏じゃ聴いてくれる観衆に申し訳ない。だからがんばったけど、無理なんだな。気持ちが湧かない、うつ気味になってたかもしれないな。華やかに見えるところでやってる本人の心が楽器と通じ合わなくなって、引き裂かれるような思いだった。というのも、このアコーディオンはおれの物心ついた頃からの相棒でさ、音楽を演奏しないで他のことで暮らしてくってのもおれにはいやだった。だから、セーヌ川のほとりでどうしようかと立ち尽くしていたんだけど、おれの心を察したのかな」

「私が彼をこちらに連れてきたんだ」

「パスが?」

パスとアコーディオン弾きの男は一緒に頷いた。

「最初は、黒猫が歩いてきて、おれの頭に言葉で話しかけるものだから、おれはいよいよ頭が壊れちまったのかと思ったのだけど、パスのおかげで家族と一緒に暮らしてるんだ」

「この世界が合わないって人もいるんだけど、君にはあくせくしたやり甲斐のある日々より、のびのびした生活がお似合いなんだろうね」

パスは初めて微笑みかけたので、その微笑はリバティがこれまでに見たものとは違っていたので印象的だった。パスは自分の行いで誰かをつらい状況から救い出すことができて、きっと心から嬉しいのね。そうリバティは思った。

「人の寿命はせいぜい決まっている、お嬢さんはちょっと例外だけど、魂や心の宿主がどんな場所や時で生きられるのかってのも選べないだろ。じゃあ、おれの場合は何をして行きたいって考えると、わがままだけどやはりコイツを演奏して過ごしたいんだ」

「それで道を歩き回っては弾いてるの?」

「いや、歩き回ってるのはついでさ、こっちの世界では貨幣がないかわりに、必ずこっちの世界の約束を守ることになっている。おれの場合は、このアコーディオンで音色を世界に与えること。不思議なことにこっちでは、おれがコイツを演奏すると、道の回りの植物たちが元気になるらしい。向こうみたいにスケジュールがぎちぎちに詰まっちゃいないから、自由にできるよ」

そう言って、彼はまた演奏を続けた。パスとリバティは彼の前に座り、その演奏を聴き入っていた。彼の音色は植物だけでなく、辺りの動物たちにも影響を及ぼしていた。彼の演奏に続いて辺りで鳥や虫の音が聞こえてきた。皆が彼の演奏を最後まで聴いていた。演奏が終わると、パスは黒猫の紳士姿になり、リバティとともに拍手をした。

「素晴らしい演奏だったよ、これからもこの世界には心を病んでしまった人や生き物は沢山いる、君の心と音楽で元気にしてよ」

「とても素敵だったわ」

「ありがとう、引き留めてわるかったね。お嬢さんはいずれ王宮に行くだろ?その時は私も駆けつけるよ、良い旅を」

「えっと…ええ、さようなら」

彼はまた歩き出した。リバティは困ってパスをじっと見つめた。



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