タイプライター
リバティと黒猫のパスが物乞いカトプレパスを上手にかわしていた頃、インバイトは小屋で動向を見守りながら、もの思いにふけっていた。
彼の小屋には、鍵の掛けている物置があった。時々、彼はその物置のなかを覗いたりするのだった。インバイトがまた鍵を取り出し、物置の扉を開けると、中には幾つもの自動タイプライターがあった。その幾つものタイプライターは個別に自動に打ち込まれるのだった。例えば、こんな風に。
「5時30分 30歳」
また別のタイプライターには、
「18時00分 51歳」
彼が物置にいる間もあるタイプライターが動き出した。そのたった一つの行に彼は苦しく感じた。
「15時30分 19歳」
「早すぎるだろ」
彼は独り言を呟いた。
そのタイプライターには、それぞれに日本、イタリア、スペイン、アメリカなど国名が書いてあった。各国には、それぞれ記録をする作業員が王国から派遣されていた。
タイプライターはその国々で自殺者が出たときにその国の時刻と年齢を打ち込んだのが、インバイトの持つタイプライターに反映されるようになっていた。このタイプライターの仕組みもまた、わかりづらい。異界の国であるこの場所と、別の世界地図のタイプライターが同時に働くのもインバイトの用いた魔法の力だった。それは、最初にパスがリバティに物や象徴をイメージするようにしたことと同じように、とあるエネルギーの流れや動き方をおなじようにすることで、二つの物質は同時に動くのであった。
インバイトは、自殺者がある国に顕著に多く、別の国では少ないことに関心を持っていた。それは向こうでは一概に先進諸国と呼ばれる国で共通する傾向だった。決して貧しいから自殺するのでなく、比較して豊かだと見られても自殺者の歯止めが効かない。それが、インバイトは悔しかった。では、何が自殺者を増やす要因なのだろう。それは何か正体のわからぬ霧のようなものであろうか。あまりにも自殺に追い込まれそうなとき、インバイトはこの王国に人々を迷い込ませた。そうすることで、あちらの人々の関わりを一切断ち切っても、穏やかに過ごせるようになった人達がいるのであった。もっとも中には元の国がいいと戻る者もいて、また耐えきれずに命を落とすものもいた。
インバイトは、自殺というものが国々でこれだけ、差が出ていいものだろうかと常々思っていた。それは何かを変えれば、歯止めの効くものではないだろうか。人形のリバティにパスと旅をさせたのも、彼なりの願いがあったのだ。凡そこの旅は世界の苦難や試練や冒険を写し込んだ見世物やショーの一つであるに過ぎない。そして、それを見たものが、どう
生きるか、どう選択し、またはどのように振り回され人生を生きるかに委ねられている。そう、彼は色々な国の人を招き、元の国に送り返したことで、この冒険譚をその国々の人に中継できるようになっていた。だが、公にはできず、一つの空想のお話として、国々の派遣員がテレビドラマのように映し出した。多くの人はそれが架空のものだと信じ込んでいる。架空であろうと現実であろうとどちらでも構わなく、この物語に関心を持ち、また今日や明日を生きることに誰かが気力を持ってくれるのであれば、それだけで彼の願いは叶っているのだった。




