心の置きよう
久しぶりの更新です。遅くなり、すいません。
「もともと、私の意識なんて存在しなかったのね」
リバティは幾らか震えは落ち着いたものの、がっかりした。まるで目の前のインバイトのための道具にでも自分が成り下がった気がした。
「で、壁って、向こうの人達と同じようなことを私がするの」
そう問い詰めると、急にパスもインバイトも笑い出した。
「ハッハ、君はもの分かりがいいね」
「リバティ、そんなに思い詰めなくていいんだよ」
最後にパスが言った言葉にリバティはどういうことなのと二人がどうしてそんな態度をしたのかよくわからなかった。インバイトは話し出した。
「この国は君がいた世界ほどあくせくしていないんだよ。全ての元凶はそのあくせくさせる得体の知れないものに私はあると勝手に思ってるけどね。まあ、君はこの国に来たことはない。君はこの国で生活している生き物がどういうものか、この国に何があるのか、知らないはずさ。実際に君のいた世界の人間は日々繰り返されるような同じことをしながら、毎日を生きているだろう。だが、その毎日のなかに、突発的な、不可解な、経験したことのないトラブルなど発生をしているのだ。そんな状況を目の当たりにすると、人はどうなると思う?」
「今の私みたいに、震えたり、落ち着かないんじゃないのかしら」
「そうだね、リバティ。毎日、平凡で安全に生きるというのは、人間が囲いの中で守られたとしても、中々難しいことなんだ、その理由を事細かに言うのは、話が長くなるからやめておくけれど。そのトラブルを無くすということは限りなく難しいんだ。だったら、そんな状況に置かれた時の心の置き方を学ぶことの方がとても大切だと思うんだよ」
インバイトの話にパスが割って入った。
「だからね、リバティ。この国が危険ということではないけれど、君が当初思ったほど、ただ旅行を楽しむために連れてきた訳でもないんだよ。君がこの国で体験したことは、実は君のいた世界の人に影響を与え、波及していくのだよ」
「そう、パスの言うとおりだ。君は存分にこの国を旅するといい、ほらここに地図があるよ」
インバイトは丸めた地図をリバティに渡した。
「どこへ行けばいいのかしら?それに…」
リバティは黙ってしまった。考えてしまうと、怖ろしさを感じてしまうので、すぐには言えなかった。
「私はもとはいなかったのでしょう、幾ら私の世界の人に影響を及ぼすとはいえ、なんか私はいてもいなくても誰も気にしないし、私自身が別に困らない気がするわ」
「リバティ、実は多くの人達が同じようなことを考えるけど、そんな生き物にどれが生きなきゃならない、いなくても構わないとか、そんなのないんだよ。魚は生きるけど、鳥は魚を見つけては嘴で捕まえる。それは魚がこの世界にいなくても構わないってことじゃないし、鳥が生きなきゃならないってことでもない。それでも魚も鳥も自らいなくなろうとはしない、このことがわかるかい。君が意識あるのなら、君はそこにいていいんだ」
「でも、あなたは私が役目を終えたら、私を元に戻すのでは?」
「そうなったときに、私は君に選択肢を与えるだろうね、リバティ。どう決めるかは君の自由だよ。これからどこに行くかだけれど、それは歩けばわかると思う、全て終えたらまたここに帰っておいで。大丈夫、パスが付いている」
「さあ、リバティ、行こうじゃないか」
「…わかったわ」
リバティとパスはそう言って、インバイトと別れた。彼女たちは、向こうに見える町の方へ歩き出した。