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ワンエフェクト



パスから小箱を貰ったとら猫のウェイブは、そのまま魔法使いのインバイトのところへ向かった。着いた頃には、インバイトはちょうどごはんを食べているところだった。

「ふむ、きょうのスープはいい出来具合だな」

「邪魔するよ」

インバイトの小屋の扉から、パスが入ってきた。

「おや、これは珍しい客だ」

「魔法使いさんや、黒猫のパスに頼まれたんだ。おれがここに来るのはわかってたか?」

「いや、皆の様子を見てはいなかったからね。ここに来たということは、なにか困りごとがあるのだね?」

「そう」

パスは、扉の前に置いていた小箱を咥えて、小屋の机の上に置いた。

「この小箱を、奴らが穴掘りして見つけたらしいのだが、中によく解読できない紙が入ってるようだ。だから持ってきたというわけさ」

「ふうん」

インバイトは、どれどれと小箱を開けて中の紙を取り出して机に拡げた。なにかの植物の皮で編まれている紙のようだ。

「古い時代の文字ってやつか。どれどれ」

彼は、紙に目を向けて、一心に念じた。すると、インバイトの目の瞳が緑色になった。

「おお、すげえ」

ウェイブは、自然と声をもらしていた。インバイトは、その目の色のまま喋りだした。

「これかい、この魔法は、あらゆる言語をその概念を抜き取って、イメージや声で頭に伝えてくれるのさ。ふむ、なんだか虚無志向の文章みたいだね」

「虚無思考?」

「形あるものいつか滅びる。ウェイブも私もいまは元気だけど、いつかはくたばってしまう、土に還る、そういうことかな」

「なんで先の心配をするんだ?生きてるのは、この瞬間でしかないじゃないか」

「ある意味、その場しのぎで生きるだけではなく、次にどうすれば生き残れるか、そう考えたからじゃないかな」

「というと?」

「人間には社会がある、どの文明にも、私が知る限りだが。群れのなかで生きないとならないということなのだが、色んな争いが群れにはある訳だよ、席が限られてるからかな。席といっても色んな種類があるけど。仮にこれを書いた人がどこかの王朝の役人だったとしよう。争いがあれば、自分の役をいつ交代させられるかわからない。そうしたら、自分の稼ぎがなくなり、食べものを得られず、飢え死にしてしまう。言い換えれば、生き続けるためには先の心配をしないとならないんだよ」

「そうすると、滅びが見えてしまうということか?」

「変化のなかにいることと色んな席を見ていることという状況が同時に起こると虚しさを感じるのかね、しかし、君が言うように、今、この瞬間だけが命の保証で事実であり、明日は、まだやってこないのも確かだ」

「ふうん、そうか。。で、何て書かれてたんだ?」

インバイトは、書かれた文章を声に出して読み上げた。

『わたしはここにいた。だが、それもすぐに忘れ去られてゆく。わたしという存在は、絶え間なく動いていく太陽の回転には僅かでしかない。この太陽の回転の果てになにがあるのかを私は知ることはできない。おそらくこの後生まれては散る人の誰にも。わたしの回転はまもなく止まってゆく』

「太陽が回転するだって?」

「科学がまだ定着していなかったというか、観察が発展していなかった時代のようだね。日没の後、太陽はまた半円の円周上を進んで絶え間なく回転してるのだと思っていたのだろう」

「時代が変わると、説も変わっていくということか」

「そうだね」

「そう書いてあったとオレは伝えればいいのか」

「生きている瞬間はここでしかない。だから、死が永劫にやってこないと思うけど、そんなことはない。時間に縛られる。私たちの誰もがこの古い紙の時代に生きていないかのように、誰かが繁栄する時代には私たちはもはや存在を知らされることもない。名を残したいと思うように聞こえるかもしれないが、そんなことはないのだよ」

「というと」

「ただ起こり得る事実に感情がついていかないのさ。感情は今の瞬間にしか宿っていないからね。だから、ウェイブはここに書かれてるとおり、伝えればいいけど、そのことに皆落ち込むことはない。誰しもの回転が止まっていく、けれどそれは自然のことなんだ。そう伝えていいんじゃないかな。多くの人は、忘れ去られることを恐れてしまう気がするけど、忘れ去られること自体に悩まなくてもいいんじゃないかなと私はそんな気がするよ。といっても、教えを受けた方は忘れられないだろうけどね、その教え自体は」

「しかし、なぜ、この瞬間にこのようなものが発掘されるのかな?」

「それが、私達の物語に必要だからだろうね。君も私も物語の登場人物に過ぎないし、極論、全ての生き物がそうだよ」

「ふうん、わかったよ。ありがとう、じゃましてわるかったね」

「構わないよ、またいつでも待ってるよ」

「そんな来ねえよ」

そう言ってウェイブは、体を光らせていって、パスとリバティのところへ移動したのだった。一度訪れたところだと、抵抗なく行けるようだった。ウェイブは、パスたちに、書かれてあったことを伝え、魔法使いの思いも付け足して話した。パスとリバティは、そういうことを昔の人も考えていたのかと驚き、自分達が止まってしまう日のことを意識しては、また穴掘りを再開するのだった。





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