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高く跳ぶ

お読みいただきありがとうございます。半年経ってしまいましたが、お待たせしました。どうぞお楽しみ下さい



それからというもの、リバティとパスは、シュペンターからいただいたシャベルを使って、しばらく穴掘り作業を手伝っていた。勿論無給ではある。この世界には貨幣はない。黒猫のパスも猫の四足歩行の姿のままシャベルを使うのは大変なので、二足歩行の姿に変身した。また紳士服を着ていたので、汚れないか彼は気にしていた。

「あ、その服の姿!こちらの世界に来たときにも着てたわね。なんだか懐かしいわ」

「紳士たるもの、この姿のときは粗相のないようにしないとね、いや、単にこの服が気に入ってるだけだよ。それに君だって」

「ええ、銀座の服屋にいたわ」

「だから似ているわけだ。身に纏うというものは、その人自身を表現するのかな」

「パス、あなた人じゃないでしょ」

「リバティ、君だって厳密には違う」

「でも、人になるように仕向けられてるわ」

「その代わりに僕と同じで死を享受するよ」

「でも、今だってここでは危うく命を落とすような体験をしたわ」

「それはそうだけど、寿命といえばいいかな。だんだん動きが鈍くなって何も思い出せなくなるかもしれない」

「このお墓の棺にいる方と同じようになるのね」

「でも、自分の死は予期できない。殺すことはできるけど」

「物騒よ」

「ごめん、自分をってことだね」

「でも、私をここに来させた魔法使いは、人々の自殺を防ぎたいと言ってたわ」

「そう完全ではないけど、向こうよりは幾らかましなこの世界なら誰かは救われるかもしれないってね」

「なんだか、これまでの振り返りをしてる気がするわ」

「うん、でもその間に時間は過ぎていったよ。信じられないだろう。僕らが止まっている間に向こうの人たちは、また新しい発見をしたり、新たな交流をしたり、時というのはすごいものだね」

 リバティとパスは会話をしながらも、地面の穴をシャベルで掘り進めていた。彼女たちを招待したシュペンターは、その様子を見ていた。

「お二人さん、なかなかシリアスなことを話し合っていますね」

「え、すみません。穴掘りに集中すればいいんでしょうけど」

「構いませんよ。お二人のペースで続ければ私は気にしません。どうです、穴掘りは結構体力使うでしょう?」

「確かに全身を使ってる気がするよ」

「パスは別に手伝わなくても、猫のままなら、吹き飛ばされないんじゃない?」

「いや、リバティが体力つくまでただ待ってるだけじゃ退屈だから、別にいいんだ」

「でも、お気に入りの服が土まみれよ」

「ねえ。これは惨めな気持ちだよ」

パスの着てる紳士服は夜が深まっていくような黒色をしていたのだが、ところどころに土で汚れてしまって、パスは悲しくなっていた。

「これは愛着なのかなそれとも執着なのかな」

「皆、色んなものを着てるのね」

「でも、この何かに向かう思いが僕らの死を忘れさせてくれるのだろうね」

「だけど、それは突然やってくるわ」

「リバティ、君は死に詳しかったなんて会ったときはわからなかったよ」

「ううん、なにも知らないけど、お客さんの様子を見てたから、服屋さんの世間話でも他愛ない話もあれば、とても悲しい話を聞いたりしたから」

「そうだったんだ」

リバティとパスはまた話し込んでしまったので、シュペンターはたまらず割って入った。

「割り込んでしまってすみませんが、汚れた衣服はこちらでクリーニングいたしますので預かりますよ」

「へえ、そんなことしてくれるんだ、助かるよ」

パスは着ていた黒い衣服をシュペンターに預けた。

「じゃあ、今日の作業は終わりでいいのかしら?」

「そうだね、明日にまた回そう」

「明日は来ないかもしれないわ」

「そうだとしても、これ以上僕は穴掘る気はないね。明日が来る確率と明日が来ない確率なら、明日が来る確率の方が限りなく高いのだから、そっちに身を委ねてもいいんじゃないかな」

「・・・なるほど、それもそうね」

と、その時、つまり、リバティが穴掘りを止めて、片付けをし始めたとき、リバティの後ろから、どどどと地面の揺れを感じた。

「何かが来る!!」

シュペンターは、その音の方向を注意してみていた。だんだんとこちらに近づいてくる何かの正体が明らかになってきた。

「あれは!」

「何が向かってるの?」

「あれは、直進サイだ!!」

「サイ?」

「そう、真っ直ぐしか走らないサイ。それでも、サイの身体は大きいから突進に衝突したらひとたまりもない」 

「リバティ、よかったね。明日が来ない確率もちょっと増えたね」

「のんびりしちゃいられないですよ!早くこの場から離れて!」

直進サイが地面を駆ける音だけが急に大きくなっていく。リバティは、この音に身が竦んでしまって立ち上がれなかった。

「危ない!」

「ったく」

そう言ってパスは、座り込んでたリバティを抱えてふわっと高く飛び跳ねた。

「空を飛ぶことはできないけど、高く飛び上がることができるのは知ってるだろ」

リバティは、震えた声で、ありがとうと呟いた。

パスが高く飛び跳ねている間に、直進サイは、その下を通り過ぎていった。二人が無事なのを見てシュペンターは、ほっと一息ついた。

「ねえリバティ。死はわからないけど到着点は一つだ。でも生きるは違う。振り幅がある。これが大事なんじゃないかな」

パスは再び地面に足が着き、抱えてたリバティをそっと降ろしたのだった。


つづく





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