水平なのか垂直なのか
お読みいただきありがとうございます。やっと続きを書けました ついに30話になりました
こうしてマネキンのリバティと黒猫のパスは、ラクダ便でギザギザ山に行くために、試乗の訓練を数日間することになった。リバティがラクダの上に置かれた座席に座り、そこに用意してあった手綱を握り、パスはその隣にちょこんと座った。
「はい、じゃあこれからラクダがぶわっと走り回りますから、この手綱を離さないでくださいね」
そう駅員は説明をし、ラクダに身振りで合図をした。
「っしゃ。じゃあ、行くぜ」
そう言ってラクダは急にぶわっと走り出した。
「きゃあっ」
「うわっ」
ラクダ走り方があまりにも速くて、リバティは綱をずっと握っていたから、振り落とされなかったが、パスは早い段階で地面に落ちていった。
「あ、パス!」
思わずリバティは後ろを振り返ったが、パスは、上手に空中でくるっと回転し、地面に着地した。
「ふう」
ラクダはその後もしばらく走り続けた。リバティは風に当たらないようにするために、姿勢を前に傾けて手綱を握っていた。風を切る音がビュンと唸っている。しばらく彼女にとって耐えないとならない時間が続いた。それは快適というにはほど遠かった。ラクダは一定の距離を走ると徐々に速度を落としていった。
「どうだい。振り落とされずにちゃんとできてるかい?」
「私はなんとか大丈夫ですが、一緒に来てるパスが落とされました」
「ふむ、そうか。じゃあ、戻らないとな」
「え?」
「しっかり掴まってな」
「え、ちょっと、きゃあ!」
ラクダは先ほど走った道を引き返した。再びリバティは手綱を握って、前かがみにしがみつく。ラクダは速度を緩めることはなかった。リバティは振り落とされないように必死だった。パスのいるところに戻った頃にはリバティはだいぶ疲れていた。
「やあ、黒猫くん。落ちてしまった気分はどうだい」
ラクダの態度にパスはむっとしたが、ラクダの背の座席の上で疲れてぜーぜー息を吐いているリバティの様子を見ては、自分がしっかりしないとと落ち着きを戻した。
「確かにどれだけ乗って移動することが大変なことなのはわかったよ。落ちるだけじゃなくて、移動の負荷に耐えるだけの体力も必要だね。リバティ、少しずつ乗りこなしていこう」
「このラクダ便に乗るしか向こうへ行く方法がないなんてあんまりだわ」
リバティの弱音にラクダが答えた。
「無理にギザギザ山に行く必要はないと思うけど、避けては通れない時期や場面って、俺も人間のときあったなあ」
「いや。私はあの山に行ってみるの」
「えらいねえ」
「一度決めたことだから。何かが起きるかもしれないし」
「何も起きないかもしれないぞ」
「あなたはあの山のことをよく知ってるの?」
「いや、大きな鳥の棲家がある以外のことは知らない」
「なら、断定はできないわ。何も起きなくても別にいいの。私がその怪鳥のあとを追ってみたいの」
「ふうん、わかったよ。少し休んだらまた来るといいさ」
そう言ってラクダは駅の寝床に戻っていった。疲れているリバティと悔しがっているパスに、駅で努めている駅員がアドバイスした。
「おわかりの通り、ラクダに初めて乗るとその速さに体力を激しく消耗します。私からは基礎体力をつけることをすすめます」
「僕もそう思う。ラクダで移動することを甘く見てた」
「はあ」
リバティとパスは、自らの体力の非力さを感じて落ち込んでいたが、その様子を見ていた男が道を歩いている二人に声をかけた。
「お二人さん、もしや、体力をつけたいと悩んでおいでで」
「え?なに?」
「勧誘してるみたい。どこの世界にもある。多くはその目的がお金目当てが多いけど、この世界はお金に価値がないからね」
「じゃあ、何よ?」
「おおかた、人手がほしいってことかな」
パスのつぶやきに、男は目を明るくして答えた。
「いや、よくこちらの考えがおわかりで申し遅れました。私は、穴掘り管理人のシュペンターといいます。よくラクダ便を利用される方が、体力をつけないと落とされてしまうと聞いていて、そんな方に、私たちの穴掘り事業を手伝ってもらって、力をつけてもらおうとまあそういう慈善の手を伸ばしているのであります」
「なにがだよ。言い方でどうにもなる」
「でも、人手が単にほしいだけだとしても、私達も困ってるからいいんじゃない」
「さすがお嬢さん。私達はここから1キロメートルほど離れたお墓で穴を掘ってます。今すぐは疲れているかと思いますから、準備できたら来てくださいな」
シュペンターは墓の地図を二人に、渡した。
「穴掘ったら、そこはお墓になるの」
「そうです」
「そんなにお墓が必要なの」
「それはもう。何も戦がなくたって命を失う現象は起こりえるのです」
「私は一度、罠に引っかかりそうになって食べられそうになったことはあったわ」
「リバティ、この創造の世界はどちらかというと肉体の危険。でも、君が元々いた世界は精神の危険なんだ。どちらも命の危険はあるってことなんだ」
パスはリバティに知っていることを伝えた。
「なんか気味が悪いわ。こうやって私達は生きてるから続けられるのに、お墓に入る方たちとは離れていくのね」
「この不調和のもと、我々は生きているわけなのであります。いや不調和とも言い切れないか。まあ一度掘ってみてください。シャベル差し上げますから」
彼のカバンから取り出したシャベルはまだピカピカ光っていた。
つづく




