ライク・ア・キャメル
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人間ていうのは言葉が複雑系になっているためなのか、とにかくただのほほんと生きているだけでは済まされず、なにか役目を負わされるな。たとえ、一人で暮らそうとも二人以上で暮らそうとも、誰かが自分の代わりをやってくれる訳ではないから、自分で動かないとならないのは変わらない。俺はもうシンプルでいいから、魔法使いに頼んで、ラクダに変えてもらったのさ。もとから、おしゃべりなやつだから、その癖自体はラクダになっても変わらなかったわけだな。足の速さは、ラクダになってから特訓したよ。その代わりに稼がなくても生き延びることができるんだ。俺にとっては遥かに都合が良いことだね。俺と同じ気持ちじゃないだろうけど、少なくとも人間として存在しちゃってるんだけど、実はもう人間やめたいんですってやつは一定数いるんじゃないかな。でも自ら死ぬことは絶対にしない。いや、死ぬ覚悟だって立派だけどさ、社会のなかに溶け込んでいるように見えて、なんというのかな、もうこの場から逃げ出したいやつ。そんなやつもこの世界に連れて来られたの知ってるから、おれは好きだね。まあ、自分が在ると思ってる時点で驕りだとは思うけどね。
生き続けると、世の中の流行り廃りなんかが見えてくるね。それも流行りってのは踊らされてるだけなんだけど、けど俺も受け入れることができない流行りってのはあるもんでね、魔法使いの知り合いのもの書きも隠れて生きているようだけどさ、転生というものがどうも好きになれなかったようだね。この辺はさ、本質がどうか空虚なのか真実味があるのかでも変わってくるとは思うけどね、ただいろんな人と会話をすると好みも様々で、そういった新しい文化のなかに憧れを抱き、染まっていく方もいるんだなあと思ったよ。
なんてことをラクダ便のラクダは、座り込んでは町の駅で話をしていた。それなりに彼の話に興味をもって集まっていく人は多かった。町の人も多くは現実の世界から逃避して暮らしている人達だ。ラクダの話にはある種の共感をもっていた。なかにはヴァリーのように身内を亡くした人達もいる。そういう人達にとっては、元の世界の方がより過酷だった。
「ところでこの世界に法律はあるのかね?」
「ないよ」
「悪いやつはどう取り締まるのかね?」
「さあ、しかし通貨がないから、お金関係のいざこざは起きないでしょう」
「するとなんだろうな、かっとなって殺してしまうとか男女関係のいざこざくらいか」
「まあ、そもそもここで暮らす人達にそんな性質は持ち合わせていないでしょ」
「ほう」
「多くはそういう輩はガツガツしてるんだよ。ところがここに住む人達はそのガツガツがめんどうくさい。どっかに行ってほしいけど、どこにもいかないから、こちらから逃げてやろうってこんな人達が多いんだよ」
そう駅員はラクダと話をしていた。
「わかるなあ、それ。人間は学校で教育するくせに、分かれるからなあ。俺もこの走り込みする負けん気だけでいえばガツガツなんだろうけどな、でも違う気がする」
このラクダも駅員も話を聞いてる町の人達も、全員が一度魔法使いの魔法で動きを止められたことに気づいてなかった。自分の死期がわかる人は、終わりのけじめをつけることができるのだから幸せなのだろうか。それともほとんどの方のように、自分がいつの間にか死んでいることに気づかない方が幸せなのだろうか
「おや、誰か来たようだね」
「ん、あら、若い女性が猫を連れていらっしゃる」
マネキンのリバティと黒猫のパスはラクダのいる町の駅に着いたようだった。このラクダ、姿は普通のラクダと変わりなかったが、脚の筋肉は走り込んだ成果もあって、とてもたくましく太くなっていた。
「本当だわ、ラクダがいる」
「リバティ、ラクダを知ってるのかい?」
「銀座に来てたお客さんが写真を店員に見せてたのを見たことがあるの、ピラミッドがあるところに行ったんだって」
「エジプトか。いいな、行ってみたいな」
「パスは、全ての国を回ったわけではないのね」
「そうだよ。頼まれたところしか行ってない」
「じゃあ偶然で会えたのね」
「いいこともわるいことも偶然さ。ピラミッドは人間じゃない者によって作られたとも聞くから、神秘的だよね」
話をしてるリバティとパスにラクダが割り込んできた。
「お二人さん、なに?ここに来たってことはどこかに行きたいわけ?」
「そうです、ラクダさん。私たちギザギザ山に行きたいの。連れていってくれるかしら?」
「そりゃ勿論。しかし、あの山に行くのか」
「怪鳥に気をつけないとならないね」
「おうよ。俺の足の速さがあれば問題ねえ。しかし、あんたら俺に乗りたければ少し訓練してもらうぜ」
「訓練?」
「はい、そういうことです。ラクダが高速で走れば、あなた達はその振動に耐えてしがみつかないとなりません。そのために移動の前に三日ほど試乗してもらうのです」
駅員の説明にパスが驚いた。
「あらら、それは知らなかった。簡単には物事は運ばないんだね」
「必要なことならやるしかないじゃない」
とリバティは意気込んだ様子だった。
つづく




