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やっと靴屋へ


お読みいただきありがとうございます。 タイトル通りやっと。。です。ここまで長かった。。



 もしも、手元にこの物語を記録するカメラがあるものなら、そのカメラは再びリバティという意思を持ったマネキンに戻っていくだろう。この物語の変遷を忘れた方のために説明をすると、リバティと黒猫のパスは旅の途中で、罠を張って獲物を捕まえるワナトリとワナクモの仕掛けを切り抜けたところだ。根気強い読者あるいはこの物語の証人は、そのパスがとらねこのウェイブを連れて来て、そのウェイブが靴職人のヴァリーを連れて来たことは既に知っていることだろう。

物語というものが編み物のように紡がれていくとそこには時間の流れが描かれ、読者も語り手もまたその時間の流れで陥っていく運動に直面しないとならない。さて、インバイトという魔法使いとこの物語の語り手にとってはたしてこの物語の時間が、読者と語り手のなにか生きる指針へ手助けとなりえただろうか。それとも物語のなかのテレビの視聴者のようにエンターテインメントドラマの一つとして楽しまれているだけだろうか。どちらかはわからないが、それは偶然によって決まることだろう。

 罠を切り抜けたリバティは一人早足で道を歩いていた。この世界で、危機を乗り越えるには自分で乗り越えないといけないという悲しさからなるべく余計な事柄には関わらない方がいいと思えた。リバティの歩調に合わせて、パスも横に並んで歩いていた。パスにとっては、彼女の急いでいる歩調に合わせることは容易であった。リバティは横に歩くパスを見下ろすと、パスの表情は何も問題がないかのようにけろっとしていたので、感情を乱すのも余計に疲れるだけだと、観念して次第に歩く速度が遅くなった。道を歩いていると、町の入り口の看板が見えてきた。

「町があるのね」

「うん、色んな家があるよ」

「どこかに寄った方がいいのかしら?」

「特に決まっていないけれど、無断で誰かのねぐらに入るのはできないよ」

「じゃあどうしようかしら?」

「少し先に工房があるのだけど、そこで靴を作っているからぜひ寄ってみてよ」

「靴ね、面白そう」

 そして、リバティ―とパスはヴァリーの働く工房へ向かった。工房は他に並んでいる家々よりも一段と大きくて、入り口には猫が座っていた。猫は膝を丸めて座ってこちらを見ていた。パスがリバティに話した。

「あそこにいるのは、とらねこのウェイブというんだ。私が君を連れて来たように彼も誰かをこの国へ案内しているんだよ」

「へえ、そうなのね」

「よう、パス。この人が噂の女性だな」

ウェイブはリバティに近づいてきた。

「えっ、私を知っているの?」

「王宮であんたの話を聞いたくらいだ。ようこそ、この国へ。えっと・・」

「リバティというの」

「リバティね。ようこそリバティ」

「ありがとう」

 リバティはこのとらねこのウェイブのことが、口調は荒くても自分を歓迎しているのがわかり嬉しくなった。

「さて、中へ入ろうか」

 パスが先に入ると、靴職人のヴァリーは、小人の靴を作っている最中だった。

「やあ、いらっしゃい」

「こんにちは。こちらは日本から連れて来たリバティ―といいます。彼女のために靴を作ってくれませんか」

「勿論ですとも。ただ今はこちらの先の依頼に取り掛かっているので終わってからになりますが大丈夫でしょうか」

「構わないですよ」

 ウェイブは、ヴァリーが作業しているカウンターにひょいと飛び乗った。

「やあ、忙しそうだね」

「ウェイブ、来てくれてありがとう。向こうでは決して経験しないことがこちらの日常になっているから、いい刺激になっているよ」

「そうか。充実しているなら何よりだ」

 リバティは工房に置かれている靴を見ていた。女性用の靴、男性用の靴、運動靴もあれば、着飾ったドレス用の靴もあった。並んでいる靴のなかで、リバティはエメラルドグリーン色のドレスシューズに目を留めた。彼女のいた銀座のショップにあった靴よりも一層綺麗な彩であった。

「これ、触ってもいいのかしら?」

「はい、どうぞお手に取ってお確かめください」

「リバティ、舞踏会用の靴としてもぴったりだね」

リバティはこのエメラルドグリーン色の靴を両手で持って上に持ち上げて全体を見回した。どこを見ても綺麗な出来栄えであった。

「とても素敵な靴ね」

 作業をしている遠くからヴァリーが話した。

「これはアメリカの父の工房から持ってきた靴なんです。この靴を見ると手作業で仕上げることの素晴らしさを感じます。全く同じには作れないかもしれませんが、似たようなものでしたら、あなたのサイズに合ったものを作れますよ」

「でも、なんのお礼もできませんよ」

「いいんですよ。それがこの国の取り決めでしょう。与える仕事に何の見返りを求めましょうか」

 リバティには実際に商売をこの目で見ていたため、随分とこの国の決まりが以前いた日本とかけ離れていたのでとても奇妙な感じを受けた。

「ねえ、パス。私は本当にお願いしてもいいのかしら」

「構わないよ。靴を仕上げれば王宮での舞踏会に履けるしね」

「銀座とこの国は大分違うわ」

 戸惑うリバティにヴァリーが近づいて声をかけた。

「僕もアメリカからここに来ました。当然、全く違う。けれどそれでいいんですよ」

 ヴァリーはメジャーをポケットから取り出し、リバティ―の足へ巻いて長さを測っていった。一通り長さを測り終えるとメモに記録をした。

「それでは二日ほど時間をください」

「じゃあお願いしますね」

 そう言ってリバティたちは店を出た。



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