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王宮で


続き書きました。いつも読んで下さりありがとうございます。



とらねこのウェイブは靴職人のヴァリーを王宮へ連れてきた。彼らは王様のところへ挨拶に行った。

「王様、連れてきました。こちらが靴職人のヴァリーといいます。魔法使いからの依頼です」

「別に私は王だけど、その役を請け負ってるだけに過ぎないのだから、気楽に話しても構わないよ」

「えっ…そうなのか…じゃあ、王様、そうさせてもらうよ」

王は並んでいるウェイブからヴァリーへ顔を向けた。

「さてと…ようこそ、こちらの王国へ。向こうでは大変だったね」

「はじめまして。王様、ヴァリーと申します。このような場所があることは驚きでございます」

「君もくだけて話して別にいいんだけどな、魔法使いのお陰というところだけど、でも生き物は自分が危機に陥るときに身を構えたり、思いを抑圧したりと何かと防衛行動を取るだろう。そのなかの1つに脳のなかに避難所を作られる現象がある。これはその避難所が拡張され、かつ公開で共有された。そう私は認識してるよ」

「はあ、避難所ですか…ですが、私の場合、幾ら精神的に心を静めても、実際の生活で自らの仕事を求められなくなってしまった。それは日銭を稼ぐ以上、仕事がなくてはどうしようもありません」

「そうだね、実のところ、こうでないとならない、こうであり続けたいという意識が最も人には厄介だと私は思うよ。多分、君の仕事を必要とするところはあるのだけど、それはこれまでの君の報酬とは違ったものかもしれない。君は靴を作り続ける技量を持っているのにその君の仕事の評価が下がるのは耐えがたい、そんなところではないかな。でも、私から言わせれば君の仕事は素晴らしいのだから、なんの対価がなくても君は靴を作り続ける価値があるのさ」

「ここではその報酬がないと聞きます。通貨がなくても生きることができる、衣食住が与えられると聞きます。本当にそうならどれほどの人がここに連れてほしいと思うでしょうか」

「いや、でも帰りたい人だっているのだよ。王国といっても大陸じゃないんだ。とても大きなテーマパークに近いかな。不完全で冷徹な世界や地球かもしれないけど、あの広さと深さには叶わないよ。宇宙へ逃げたいと思わないのは不思議なんだけども」

「そりゃあよ、きっと宇宙は身の丈に合わないくらい遠いし、宇宙までいかなくても回れる場所が沢山あるからだろ」

と急にウェイブが話に割り込んできた。

「ウェイブ、君は日本にいて、ヴァリーのいたアメリカへ行ってきたね。色んなものが全く違う国が世界には沢山ある。そこへ行ってみたいと思うかな」

「まあ、この仕事で運が良ければまたどこかに行くかもしれないな」

「わかったよ。ウェイブ、君はこの王宮を居場所として自由に使ってくれ。また魔法使いから依頼が入るだろうよ」

「私は?」

「ヴァリー、君は町に工房を作るから、そこで君の靴を作ってくれ。運動用の靴と舞踏会ようの靴を作り続けてくれ。この王宮内で時々舞踏会を開く。君の靴が必要になるだろう」

「これまではどうしていたので?」

「なんとか経験を持っていた者が作ってくれていたくらいさ。だからとても助かるよ。護衛が案内してくれるよ」

「そうですか、わかりました。王様、こんなことを尋ねていいかわかりませんが…」

「なんでもどうぞ」

「王様は元の世界に戻りたいのでは?」

「君には会わせていないけど、私には病を患った王子がいるから、ここに居続けるよ」

ウェイブは王の話を聞いて納得のいかない表情を浮かべた。

「王様よ、あんた、あの魔法使いに王子を人質に取られているんだろ。いったいどこがあんたの避難所なんだ?」

「亡くなったものの憑依のことを言ってるのだね。確かに魔法使いは王子に呪いをかけたかもしれないが、あれは死者の声を解放するためでもあるんだ。できれば王子に代わってやりたいけどね」

この王国にもなにか歪みがあるのだとヴァリーは気づいた。彼は連れてこられた以上、ここに留まらねばならないと感じたが、不安を感じていた。

「私のことは心配しないで下さい」

どこからか声が聞こえてきた。

左の扉が開き王子が姿を現した。王子は近づくと屈んで、ウェイブの頭を撫でた。

「心配してくれてありがとう。でも私は時々、亡くなった者の声を覚えてしまうことがあるのです。時にはその声を別の使いに託して、元の世界で心残りを代わりに果たしたりもするのです。生き続けるということは時にとても辛いことだったりするでしょう。そうでなければ自殺者は増えませんよね。全ての魂を救うなんてのはなかなか難しいです。でも、私の体で思いを吐き出して、楽になってくれるなら、私は構わないのです」

ウェイブは、その王子の言葉にはまだ飲み込めずに表情は悲しくなった。

「はじめまして、王子さま。ヴァリーと申します。ここで靴を作らせていただきます」

「ようこそ、ヴァリー。私の靴もぜひお願いしますね」

「はい、承知しました」

ヴァリーは自分の仕事を頼まれて嬉しくなった。話を後ろで聞いていた護衛が彼らに近づいて言った。

「そろそろ、この方を家に案内してよいので」

「ああ。宜しく頼むよ」

そしてヴァリーは護衛に案内され、町の工房に向かった。

「じゃあ、ウェイブ。私の体験した話を聞きたいかな?」

「お、おう。ぜひとも聞きたいな」

王子は自分の部屋にウェイブを案内した。


つづく



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