チキンコック
二匹は鼻が明らかにしたもう一つの道を歩いていた。しばらく歩いていると、公衆食堂という名前を記す看板の建物が見えてきた。
「これが、お前の言ってたチキンコックの食堂ってやつか」
「そうだね」
黒猫のパスはとらねこのウェイブの質問にさらっと相づちを打った。
「やっとか…腹へったわ」
「じゃあ、入ろうか」
二匹は食堂の前に着き、扉を開けた。扉を開くと、扉に付けている鈴がチリンと鳴った。
「コック、チリンチリンでっせ」
「おう、チリンだな。ラクーン、席に案内して」
「はいはい、わかりましてん」
なにやら扉の音に反応して声が聞こえてきた。建物のなかは、厨房に面してるカウンターの席もあれば、窓際にソファーの席もある。ファミリーレストランのようでもあれば、カウンターもしっかりついている。色々な生き物が来ることを想定し、間取りは広いようだ。二匹がしばらく入り口で待っていると、あらいぐまのラクーンがやってきた。
「お客さん、二名ですねん」
「はい、そうですよ」
パスが答えた。
「ソファーの席は埋まってるんで、カウンターにどうぞ」
二匹はカウンターの椅子に案内された。
床と椅子はかなり離れているが、パスは膝を曲げてひょいと椅子に飛び乗った。丸い円盤形の椅子であった。
「ウェイブ、乗れるかい?」
「造作もねえよ」
ウェイブも同じように膝を曲げて高く飛び上がり、椅子に座ることができた。
あらいぐまのラクーンは椅子の下から声をかけてきた。
「注文はなんにしますねん」
カウンターの上に置いて拡げてあるメニューを二匹は見た。幾つか定食が書かれていた。鶏風ダイズミート定食、魚風チュウズミート定食、チキンコックのお勧め定食と大きくはこの三つが書かれていた。
「なんだ、魚はねえのかよ」
「海がこの国には珍しいからね、向こうの世界から運ぶ訳にもいかないしね、カワウソがいるように全く魚がいないって訳じやないけどね、まあこれがコックの考えってやつかな」
「うちに魚はあらへんで」
「ふうん、じゃあおれチュウズミート」
「僕はダイズミート」
「わかりましてん」
あらいぐまのラクーンは注文を再度確認した。
「チュウズミートとダイズミート一つずつね」
「そうだね」
「承りましてん」
そして、ラクーンは、コックに向けてそのまま叫んだ。
「コック、そうですってん!!」
厨房から、チキンコックが顔を出した。
「はいよ!」
なんだこのあらいぐまは!必要なのか…この役目。そうパスは口にはしなずとも思っていた。
「おっ、パスだね。こっちは新入りかい?」
「こんにちは。そうです、とらねこのウェイブです」
「どうも」
「はいよ、宜しくね」
「コックさん、幾つかきいてもいいかい?」
ウェイブは幾つか気になったことを訊きだした。
「ん、いいよ。なんだい?」
「まずあんた、ニワトリだよな、その翼で調理できるんか?」
「私は直接は調理しないよ。味見とか指示をしてるって感じかな。まあフライパンだけは例外でなんとか取っ手は掴めるから、分業してるって感じかな」
「さっきのあらいぐまみたいなってことか」
「そうだね。ラクーンは、受け付けとか配膳だけど、ラケーンとラコーンは、私の隣をお願いしてるよ」
コックの乗っている台から、二匹のあらいぐまも現れた。
「ラケーンですわ」
「ラコーンでっせ」
「はあ宜しく…じゃあ、次に。なんでここは~風という料理を出してるんだ」
「まあ、それは私が向こうの世界の養鶏場からこっちに逃げてきたからだろうね。自分が食べられるために育てられたと考えてしまうとね、どうもね、他の食材と直接は無関係でも躊躇ってしまうんだよね。それに、ここには色んな動物が来る。なかにはそのお客さんの好物が別のお客ってこともあるから、そうならないために、ここを通るには鼻の守りを解かないとたどり着けないようになっている。今のところ、このダイズミート、チュウズミート、ショウズミートって色んな味を演出できているから、困ってはいないよ」
「コック、そろそろできてきました」
「はいよ!」
チキンコックはそう言って、二匹の料理に仕上げをする。
「あれを足そうか」
「承知でっせ」
そうして、楕円形に固まったまめミートをチキンコックがフライパンでじっくり焼いていく。焼けたまめミートを付け合わせの野菜を添えてお皿の上に置いた。
「おまちどお!」
二匹の席に料理が運ばれてきた。
「手も口も汚れたときはこの紙ふきん、使ってね」
「いただきます!」
二匹はがつがつと出されたまめミートを食べてみた。ウェイブはその味に驚いた。
「うめえな!俺の好きな魚と同じ感じだ!」
「そりゃあ、よかった」
「美味しいよ。ごちそうさま」
「はいよ!またどうぞ」
二匹は椅子から飛び降りた。
「おいおい、本当にご馳走になって、なにもお礼にしなくていいのかよ」
ウェイブの質問にパスが答えた。
「そのためにこれから仕事をするんだよ、さあ行こうか」
二匹が食堂の扉に出ようとしたその時、鈴がまたチリンと鳴った。現れたのは人間だった。
「なんだ、このレストランは?」
「おいおい…」
「まあ、あれが初めて来た人の感想だろうね」
「コック、またチリンでっせ」
「ラクーン行ってこい!」
「わかりましてん!」




