歩きながら
この話もついに10話を迎えました。筆者自身驚いてます。最近はグルニエの本ばかり、グルグル読んでます。では、どうぞ。
リバティと黒猫のパスはアコーディオン弾きが歩いてきた道を進んでいた。リバティはアコーディオン弾きの言葉に引っ掛かるものがあり、パスに問いただした。
「ねえ、私はやっぱり王宮に行くのかしら」
パスも歩きながら答えた。
「成り行きで行くかもしれないね」
「パスは私を誘うとき、最初に言ったわね。王宮で踊るって」
「リバティは行きたくないのかい?」
「興味がないから、どちらでもないわ」
「君はあの店から出たかっただけだものね」
リバティは語気を強めた。
「えっ!気づいてたの!」
「意識があって、動きそうな足持ってたらあの場にいるのはそりゃ退屈だよ。まあでもこの国の王宮には舞踏会があるよ。次に着く町で色々ドレスも着替えできるしね」
「そうなのね、パスはなんで私にこの国を案内してるの?これもあなたの役目なのかしら。色々な人をこちらに誘い込んだり、この国を案内したり、随分と忙しいものね」
「私はインバイトの指示に従ってはいるけど、案内するのが、私の役目ってことじゃない。基本、猫は自由を何より大事にしててね、案内が楽しくてやってるって感じかな」
「そう。それでパスの自由な時間が少なくなってたら、自由にしてると言えるのかしら」
「案内はやり甲斐あるよ、たとえば君を危険から守ったりね」
そう言って、パスはリバティの足を引っかけたので、リバティはぱたっと前に倒れ、地面にがちんとぶつかった。
「痛いわ、何するの!」
「ほら、正面をよく見な」
リバティは倒れた前方に目をこらすとなにやら、線が、道に張ってあるのがわかった。木々の間を線でつなぎ、細く銀色の線は輝いていた。
「これは何?」
「これはワナトリの習性だよ」
「ワナトリ?」
「ワナトリはこの国で危険を脅かす鳥でね、こうやって自分の口から硬い銀色の線を作って、獲物が引っ掛かるのに罠をかけるのさ」
「罠にかかったらどうなるの?」
「そうしたらワナトリは鳴き声で、ワナクモを呼ぶのさ、どちらも分泌液に粘着性があって、狙った獲物は逃さない、彼らは協力して獲物を捕獲するんだよ」
リバティは立ち上がると、自分の視線の上にも、この銀色の線が張っていることに気づいた。
「これって」
「彼らはしたたかなのさ、下の線が危険とわかり、飛び越えようとすると、上のもっと薄い線に当たるようになってるんだよ」
「この道を進むにはここを超えるしかないのよね」
「まあ、見てて」
そう言って、パスは下の銀線をひょいと軽快に飛び越えた。
「えっ」
パスは後ろにいるリバティに振り返って言った。
「私にはなんてことないんだよ」
そう言って、パスは道の先をすたすたと歩いて行くので、置いてけぼりになったリバティには苛立ちがこみ上げてきた。
「なによ!私を助けてくれるんじゃないの!」
遠くの方からかすかにパスの声が聞こえてきた。
「自分でなんとかしな」
その言葉にますますリバティはかちんときた。思えば、カトプレパスの遭遇の時もそうだったわ。パスはアドバイスだけで直接私を助けたりはしなかったわね。これがパスの言ってる猫の自由さなのかしら。いいわ、私がなんとかするしかないのだから。
そう思って、リバティは目の前の2本の線を見つめた。ここを抜けるにはくぐって、飛び越えるしかない。リバティは自分の服を引っ掛けてくっつかないように両手でドレスの膝の当たりを掴み、体を前屈みにし、慎重に2本の線の間を飛び越えた。たったこれだけのことなのに、飛び越えるとリバティはぐったりとした。リバティの頭上で声がした。
「ちっ、引っ掛からなかったよ」
「もっと透明なくらいに薄くしないといけないね」
樹の上になにかいるような気がしたが、姿を現さないものが、自分を亡き者にしようと思っていると想像すると、リバティはぞっとした。そんなリバティを見かねてパスが戻ってきた。
「おつかれさま」
「この国より、私のいたお店の方が安全じゃないかしら」
「うん、そうかもね」
パスはそう言って、自分のしっぽをリバティの手のひらに当てた。リバティはパスのしっぽに触れると、疲れが少し和らいだ気がして、元気になった。
「パスも魔法が使えるの?」
「インバイトが生き物の疲れの物質を変えるように私に仕向けたんだよ」
「さっきのアコーディオン弾きも、ここをくぐってきたのよね」
「きっとそうだね」
「じゃあ、このワナトリたちが与えられた役目ってのは、この罠をかけることなの?」
「そう…かな」
「でも、これは誰かを元気にするわけじゃなくて、誰かを捕らえるためのものだわ」
「うん」
「それが役目でいいの?」
すると、また樹の上から声が聞こえてきた。
「おれたちの罠はなくならないよ。いいやつだろうが、わるいやつだろうが、この罠にかかれば捕らえちまう、それがおれたちの役目なのさ」
なんと不気味なことだろう。リバティは自分を捕らえようとするものが自分に語りかけてきたのだから。
「パス、早く先を行きましょう」
「う、…うん」
駆け足になるリバティのあとをパスはついていった。




