表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/31

旅の始まり


どこまでいけるかわかりませんが、なぜかずっと思い浮かんでいたイメージを元に小説を始めてみました。

前作「進の行方」はそれ以上は進みません。こちらは反対に私の新たな試みとして楽しみです。


お読みいただき有難うございます。ゆるくお付き合いください。




銀座のまだ人通りのいない明け方、ショーウィンドウのマネキンを日の光が照らしていた。マネキンは女性用の婦人服を着ていた。彼女の見ている先に道路を挟んで建物が聳えている。間に横断歩道が敷いてあって、ただ彼女はそこを見つめては横切る人達の服装に目を向けねばならなかった。

人通りがいないと人外の者が闊歩する。その日の朝、彼女の見ている先の横断歩道から黒猫が彼女の元へ歩いてきた。黒猫は彼女のところへ辿り着くと、彼女の心へ語りかけた。

「あなたはここを出たくありませんか」

彼女はこの黒猫が彼女に語りかけたことに疑いはしなかった。ただ、しばらく沈黙が流れた。動揺というものが彼女にあったかはわからない。

「どこかへ行けるのですか」

「私の生活している王国へ連れて行きます。そこでは貴方は町行く女性のように化粧し、お気に入りのファッションを着れるでしょう。そしてお望みならば、綺麗なドレスで踊れることでしょう」

「どなたが踊りを教えてくれるのでしょう」

「私で宜しければ」

「どうして踊るのでしょう」

「あなたの好きな服を見せるために」

「いったい誰に」

「あなた自身にですよ」

また沈黙が流れた。彼女はこの猫が彼女の好きな服を彼女自身に見せるために踊りを学ぶ必要があると言っていることを受け止めようとした。ただ、彼女にはわからなかった。

「わかりました」

「行きますか」

「ぜひ、貴方の言っていることが私にはわからないことがわかりました」

それを聞いて黒猫は面白く感じた。だから彼女に話すことが大事なことだと感じた。

「では、私の言うことを聞いてください。私とあなたの交流の通路から別の通路へ繋げます。現実は貴方と私はこの瞬間に止まります。またこの世界に戻ったとして、日付が明日以降になることはありません。旅から帰った感じに似るでしょうか」

「で、どうするのですか」

「私が王国への通路を開放します。あなたはその通路を知りません。なのでちょっとしたコツですが、私の 意識の向け方を真似てください。アイスクリームは知っていますか」

「大丈夫です。ソフトクリームとかでしょうか」

「種類は問いません。なんでも結構ですので冷たいアイスを思い浮かべてください。それから・・」

「それから」

「踏切は知っていますか」

「ここにはないですが、運ばれてくる前に見たことがあります。光の点滅ですか、それとも車を通らないようにするゲートを思えばいいですか」

「色ですね。黄色、この店では丁度後ろに置いてある服のような黒っぽい黄色、それを思い浮かべていいください」

「間隔は」

「私が合図します、最後に」

「それだけでいいのですか」

「簡単にしたのですよ。三角定規はわかりますか」

「前に少しだけ見たことがあります」

「直角三角形のなかでも二等辺三角形がよりいいです」

「均等な図形ですね」

「形が大事です。それをイメージする時に生ずる熱量の色彩が向こうへ行く色彩に似ているのです」

「ややこしくて難しいです」

「じゃあ、このくらいにしましょう、用意はいいですか」

「大丈夫です」

「有難う」

黒猫は体の向きを横に向けた。そして、軽くふーっと息を吐いて集中した。

「アイスを」

彼女はスプーンで食べるカップアイスを思い浮かべた。白い。食べたことはないが冷たさが伝わる。彼女よりも冷たく。

「上出来です。次、踏切を」

トラックで運ばれる合間に見た電車が過ぎ去るのを待った時の踏切を思い浮かべた。音がひしめいている。

「うん、じゃあ定規を」

黒猫は首を前方に伸ばした。彼女は二等辺三角形を思い浮かべた。整合性が取れている。私と似ている。

「行きましょう」

その言葉とともに彼女は急に自分の手を誰かが引っ張っているのを感じた。前にはさっきの猫が紳士服を着てそのジャケットが空間を横切る風で揺れていた。彼は彼女を見なかった。そうしてふたりは彼の王国へ向かった。空間は瞬時に移動できるものではなかった。ワームホールではなく、紫色と藍色やエメラルド色の筒の内側を浮遊して移動しているのだった。彼は飛行できるのだろうか。彼女は思えた。そう、彼女は彼に対して謎を抱けた。

「あなたは飛べるの」

「跳躍しているのですよ」

彼は振り向かず答えた。彼女には彼の顔立ちがわからなかった。ただ連れられるままだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ