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8.告白

「――俺と付き合ってください!!」


行く手には彼。

横には雅斗がいて、ちなみに一本道。

こんな状況で告白された私はどうすればよかったんだろう…。



話は数分前に遡る。

朝の約束通りにクラスまで私を迎えにきた雅斗との帰り道。


「藤枝!」


と名前を呼ばれたのが窮地の始まりだったのだ…と気付けるはずもなく…。

今来た道を振り返ると、そこには見知った顔があった。


「あれ?私何か忘れたっけ?」


呼び止めたのは同じクラスの子で、孝樹と仲がいい(マサル)だった。

孝樹と仲がいいと言うことで自然に朱音や私ともよく喋る一人だ。


「――いや、違うんだけど…えっと…」


将がチラチラと雅斗を見ていることで私は危険を察知すべきだったのかもしれない。

もちろんそんなことに気付けるほどの先見の力は私にはなかったけども…。


「将?」

「えっと…二人きりじゃ――ダメかな…?」

「別にかまわ…」

「俺の前だと言えないわけ?」


何故だかわからないが、先ほどまで笑顔の絶えなかった雅斗の顔が般若のように厳つくなってる――顔も、空気も。

なんていうか…雅斗には逆らえないようなオーラがあるみたいだった。


「雅斗そんな言い方…」


それは私が構わないと言おうとしたのにそれを遮ってガンをつける雅斗を諌めようと口を開いている時だった――。


「いゃ…その…いいんだ。あの…藤枝…――お、俺と付き合ってください!!」


冒頭のこの告白となったわけである。

ピリピリと張り詰めた沈黙が――痛い…。


「藤枝…ダメか…?」


真剣な目。

疎い私でも本気なんだと言うことがヒシヒシと伝わってくる…。

でも…一緒にいて楽しいけど…私は将をそういう風に見たことなんてない。


「…ゴメン――将の事そういう風に考えたことなくて…」

「…は、ははは…。――そーだよな…」


何故か私と将の空気よりも私の横に居る人物から出る空気が一際冷たく感じるのは何故だろう…。

そしてそんな雅斗を将はチラチラと窺って居る。

――雅斗に何かあるんだろうか…??


「――カッコ悪いんだけどさ…、ちょっと考えてみてくれない?返事、その後でもいいから」

「――うん、わかった」

「じゃぁ気をつけて帰れよ」

「うん、将こそ。また明日〜」


将の後ろ姿を見送ると。ちょっぴり複雑な気分だ。

将のことはいい友達だと思ってる。

傷つけたくない…けど、私は答えを出さなきゃいけない。


「ねぇ雅斗、どう思う?」

「…」


雅斗は答えない。

私はここで察するべきだったんだ。

頭の片隅でちゃんと警報が鳴っていたのに…私はそれを無視した。

誰かの意見が聞きたいというその考えを優先した為に…。


「雅斗??」

「――…ょ…」

「え?何??」

「――…それを俺に聞くのかよっ!!!」


ダンっと背中に痛みが走る。

何が起きたのか理解が追いついていなかった。

気付くと私は一番近い壁に押し付けられていた。

ただ、顔をあげるとと触れそうなほど近くに雅斗の綺麗な顔があった。

その顔は今まで見たことがないほど冷たいものだったけど…。


「……雅…斗…?」

「はっ、そういう事かよ。意味わかんねーっ!!」


初めて、――怖い――と思った。

今まで雅斗を怖いと思ったことは一度もなかったけど…。

雅斗が動くたび、声を発するたびに自分の身体が震えているのがわかる。

私の襟首に伸びた手を止めるように、雅斗の手に添えた自分の手が小刻みに震えている。

自分が震えていると実感することで、頭はさらにパニックになる。


「……ぁ…っ」


何が雅斗を怒らせたのか。

何がそんなに腹立たしいのか。

自分が何を言いたいのか。

そのどれも恐怖が支配した頭では考えることが出来ない。


「――くっそっ!!!」


ダンっと雅斗が私の顔の横を拳で叩いたのをきっかけに、視界がぼやけていく。

それを見て、雅斗が私の名前を呼ぶ。


「――…紗代…」


その声がとても切なくて。

とても寂しくて…。

とても悲しくて…。

何か声を掛けたいのに、なんと声をかけていいのか私には分からなくて…


「――紗代…」


私の名を呼んでくれる貴方の声が嬉しいのに…、貴方は悲しそうな顔をして私を見下ろしている。

何かを迷っているかのような…そんな――顔。

雅斗の手が私に伸びて…私は反射的に目を瞑った。

真横の壁を叩いた、あの光景を思い出したから。

けれど覚悟した衝撃は私にはなくて――、その代わり、一瞬だけ唇に何か温かいものが押し付けられる。

それがなんだか理解するよりも早く――。


「…ごめん」


と、消え入りそうなぐらい小さな声が耳を掠めた。

次いで聞こえた足音に恐る恐る目を開けるが、既に雅斗の姿は掻き消え、蝉の声だけがやけに大きく聞こえていた。


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