7.青い空
(空が…青い…)
あとひと月もしないうちに高校生活2回目の夏休みが始まる。
陽射しも強くなり、同級生の中でもチラホラ日焼け止めを持っている人を見かける。
こうなってくると窓際はポカポカポカポカしてものすごく眠くなるんだ…。
校庭では野球をしているらしく、時々バッドとボールが擦れる音が届く。
そんな音がなんだかほのぼのしていて余計に眠気を誘う。
しかも今は退屈な数学の授業中――。
(…眠…ぃ…)
あまり評判のよくないおじいちゃん先生の声が遠くに聞こえる…。
優しい先生ではあるんだけど…教え下手――…教師に向かないって事か…。
そんなことをチラチラ考えていると――。
「この問題を藤枝さん、解いて下さい」
「……」
「藤枝さん?」
名前を呼ばれているのは認識してるんだけど、頭の中がフワフワしていて身体が動かない…。
おじいちゃん先生は私を不思議そうに見ている。
そりゃ見るか。
視線は合ってるのに返事さえしないんだから。
…あ、返事――。
「藤枝さん!」
「は、はい」
慌てて席を立つと黒板に向かう。
黒板には直角三角形が描かれている。
そういえば今日から三角関数に入るんだっけと頭の片隅で思う。
黒板まで行くと話しを聞いていなかったためまずは問題を推測する。
すると直角三角形に描かれている情報からどうやら加法定理に当てはめれば解けるだろうと当たりをつける。
[ sin( α - Β ) = sinα cosΒ - cosα sinΒ ]
頭の片隅から加法定理を呼び出すと、それぞれに数字を当てはめていく。
で。
「――出来ました」
「…、正解です。戻ってください」
との言葉を貰った。
クラスメイトのどよめきに首を傾げながら席に戻ると、朱音から手紙が回ってきていた。
小さい紙に書かれた――≪見惚れてんな(笑)≫――の文字。
(…誰に?)
手紙の内容が腑に落ちないが、休み時間にでも聞いてみようと決めて筆箱にしまい、何気なく校庭を見ると――。
(あ、雅斗…)
野球をしている中に見知った姿を見つける。
どうやらあのクラスはA・Bクラスだったらしい。
Bクラスの雅斗は現在バッターボックスで状況はどうやら満塁。
アウトの数などはさすがに見えないが…かなり盛り上がっているようだからもしかしたらツーアウトなのかもしれない。
クラス対抗なのだろう、相手側ピッチャーは私でも知っている野球部期待のエース。
(ピッチャー振りかぶって――投げました!!…あ、ストライク…って何解説してんだろ、私…)
気にならないわけではなかったけど、私は校庭から視線を外すと今自分がやるべき数学の授業に身を入れる事に専念した。