45.副担任
「紗代遅〜い!」
教室に入るとそういって朱音は私の腕を引っ張り、近くの椅子に座らせ――ようとした瞬間に担任が入って来た事で「ちっ」と女の子らしからぬ舌打ちをすると、紗代の腕を放し席に着くように促す。
「皆揃ってるな〜?」
入ってきた担任の荻光樹――通称みっちゃん――は教室を見回してクラスメイトを確認すると、「こら、さっさと席に着けー」と何人かの生徒に着席を促しながら教卓の前へと進む。
みっちゃんはこの学校内では若手に入る方で、今年で28か29だったはず。
他の先生よりも年齢が近い事と生徒に対しても気さくな事、あと結構カッコいい事から生徒から人気のある先生の一人だ。
クラス全員がみっちゃんの事好きなので、皆笑いながらもしっかりと自分の座席へと着く。
そしてみっちゃんもそれを確認する全員の顔を見回しながら話始める。
「え〜っと、新学期早々だが、副担任の高知先生が産休に入る事になった。その為高知先生が産休を終えるまでの間の副担任を紹介する。小埜寺先生、どうぞ」
そういってみっちゃんが前方の扉に視線を向けると、ガラガラッという扉が開く音が聞こえた後、背の高い男の人が入ってくる。
「げぇ〜男〜!?」
「身長高〜い!」
さまざまなクラスメイトがそれぞれに声を上げる。
そんな中、先生の左頬にある傷跡が紗代の記憶を刺激する。
(…あれ?あの人…どっかで…?)
みっちゃんが小埜寺先生に場所を譲ると、先生は黒板に名前を書いていくが、これが顔に似合わず物凄く達筆だった。
その字を見てクラスの数人が感嘆の声を上げる。
「これから数ヶ月間だがこのクラスの担任をする事になった小埜寺慧だ。よろしく」
そういって笑った顔が頬の傷に似合わず優しげに見え――。
「――あっ!」
と立ち上がりざま声を上げてしまい、周りからの視線が集まる。
「藤崎、どうした?」
みっちゃんにまで怪訝そうにこちらを向いていて、なんて答えて言いのかパニックになっていると。
「久しぶり、藤崎さん。まさかこの学校の生徒だとは思わなかったけどな」
そういって小埜寺先生が視線を受け付けてくれた。
小埜寺先生は一言二言みっちゃんと言葉を交わした後、みっちゃんは視線で私に席に着くように促す。
「んじゃ今から暫く質問タイムだ。小埜寺先生に聞きたいことがあったら手を挙げろー」
そういって手を挙げた生徒を小埜寺先生が指名していく。
みっちゃん的に名前を早く覚えるようにと取り計らったのかもしれない。
年齢、身長、既婚暦、彼女の有無、学歴など、答えにくい質問も何問かあった筈なのに、先生は全て淀みなく答えていく。
それによると、年齢はみっちゃんより下で26歳。
身長は192cmで既婚暦は無し、彼女も今はいないとの事。
学歴っていうとこの学校の卒業生って事で、私達の先輩に当たるらしい事が判明した。
先生がただ一つ言いにくそうにしていたのは頬の傷跡の質問。
それは誰もが気になるけど常識的に避けてた質問を、KYと言われるクラスメイトの一人がした。
「その傷跡何?」
と。
その場の空気が凍ったようなそんな空気を感じなかったのもその質問をした張本人だけだろう。
みっちゃんでさえ口元が引きつっているのだから…。
それでも小埜寺先生は少し考えるようにした後、こう言った。
「これは、俺が学生の時に負ったもので、俺とそいつの友情の証なんだよ」
と。
それ以上誰も突っ込むこともなく、みっちゃんはこれ幸いとばかりに質問をここで打ち切った。
その日のうちに、小埜寺先生は通称「おのっち」としてみっちゃんのように慕われるようになった。
誰一人として、おのっちの闇を見ることのないまま…。
ここ数日毎日更新していますね。
こんなペースが続けられたらいいのだけど…。
今日は小埜寺慧――おのっちの出番でした。
彼の過去に何があったかも明かして(作って)いけたらいいなぁ〜と思います。
はて、紗代と雅斗放置しましたが…、次はまたどちらかにスポットがあたる…はず?
感想・評価なんて頂けると励みになるんでドシドシ下さい♪
それではまたいつか。