39.ピアノ
翌日更新と言いながら更新し忘れ、データは会社のパソコンの中…ということで結局本日になってしまいました。。。
ホントに申し訳ありません。。。
お詫び…のような感じで本日は2話更新します。
教室に着いた私は鞄だけ机に置くと教室を離れる。
朱音と顔を合わすのも、孝樹と顔を合わすのも、ましてや教室に雅斗が尋ねてきたりしても困るから、SHRまで何処かに身を寄せようと思っていたから。
(何処行こう?)
教室を離れてみたものの、何をしていようか悩む。
今は走ってきたこともあって、いつもよりも早い時間。
いつもがもともと早いわけだからSHRまでに時間は結構余っていることになる。
吹奏楽部が朝練をしているらしく、微かに楽器の音が聞こえてくる。
(…ピアノでも弾こうかな)
音楽に誘われるかのように、最近あまり弾いていなかったピアノを弾きたくなる。
自然と私の足は第2音楽室へと方向転換する。
第2音楽室はこの学校端にある普段は余り使うことの無い音楽室で、いつでも楽器に触れられるようにとかいう理由から鍵はかけず、いつでも出入りが出来る教室。
私の教室からは大体5分ほど歩いた所にあり、当たり前といえば当たり前だが人気は全くない為、人に会う心配も無い。
教室の扉を開けると、黒のグランドピアノが一台ある。
1年の初めに足繁く通っていた時と代わり映えのしない部屋。
だからこそ落ち着く部屋だ。
音が響くように大屋根部分を開ける。
そしてカタンという音を発てて鍵盤のフタをあけると見える赤い布。
それを丁寧に畳むと白と黒の見慣れた鍵盤が顔を出す。
音を試すように数音弾いてみて、調律されている事を確認する。
ピアノが弾きやすい位置に椅子を微調節すると、指を走らせる。
淀みなく走る指がそれぞれの音を奏で、その音の羅列が一つの曲を奏でていく。
クラシック音楽の中で最も偉大な作曲家の一人とされる人の3大ピアノソナタの中の一曲。
――『ベートーヴェン・月光ソナタ』――
志貴が好きだった曲で、私の一番好きな曲。
特に第一楽章が好きで、志貴と2人でよく繰り返し弾いていたっけ。
ピアノを弾いていると頭の中がすっきりするのは昔と変わらない。
流れるような音が周りの雑音から遠ざけてくれる。
心を、空っぽにする。
何も考えず、ただ音に身を任せる。
――ガラッ。
奏でていた音の中に混じった別の音に気を取られて音が途切れる。
「ぁ〜、邪魔しちゃったね」
そこには扉に凭れ掛かって立っている生徒の姿――。
制服を着ているのは判るのだが、グランドピアノの大屋根で隠れていて顔は見えない。
コツコツと響く靴音でその人物が自分に近づいていることが判る。
そして。
「久しぶり、紗代ちゃん」
「…ぇ、帝さん?」
そこには悪戯が見つかってしまったような顔をして立つ、北条帝の姿があった。