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37.過去


(…夢だな)


たまに、これは夢だと認識出来る夢を見る。

そして今、私は夢を見ているんだという認識があった。

視界一杯に広がる夕暮れの景色。

家の近くの丘からただ一度だけ見たその景色を、私はもう一度見ていた。

いや、思い出していたという方が正しいのだろうか?

冬が終わって春が始まる、まだ寒いと言える季節。

色違いのパーカーを着て隣に立つ男の子。

私よりも少し背が高くて、ギュッと握ってくれている手が暖かい。


「ねぇ…紗代?」

「なーに?」


綺麗な夕焼けから目を離す事が出来なくて、夕焼けを見たまま男の子に答える。


「ずっと、ず〜っと、一緒に居て?」


なんでそんな当たり前の事を聞くんだろうって思った。

私達は双子で、誰よりも近いんだから。

だから…。


「あははwずっと、ず〜っと一緒だよ♪だって、兄弟だもん♪」


私は同じく夕焼けを見ながら笑ってそう言った。

――そうだよね、ごめん――って、そう言ってくれるだろうと、この時の私は疑わなかった。

でも。


「…ぁう、違うんだ。紗代」


聞こえた声は苦しそうで、夕焼けから男の子に――志貴に目を移すと、志貴はやりきれないようなとても苦しそうな顔をしていた。


「…志貴?」

「――俺は紗代が好きなんだ。家族としてでも、兄弟としてでもなく、一人の女の子として…」

「…え?」


その声音から、顔つきから、志貴がからかっているわけでもなく本当の気持ちなんだという事が分かる。

『嬉しい』と想う気持ちは、私が志貴を好きだから。

『戸惑う』気持ちは、私が志貴を好きなのは男の子としてではないから。

この春から中学生。

もう、兄弟では結婚出来ない事、そしてしちゃいけない事は知っていた。


「ねぇ紗代?ずっと俺と居て?何処かに行ってしまわないで…」


懇願するかのようなその言葉。

無意識だったんだ、握っていた手を振り払ったのは。

一気に冷たくなる手。

苦しいような、傷ついたような、志貴の顔。

そんな顔を見たくなかったのか、その場に居たくなかったのか、今となってはもう分からない。

きっとその両方だったのかもしれない。

私はその時、志貴を置き去りにしたんだ。

志貴に背を向けて――。


(待ってっ!待ってっ!止まってぇ〜!!)


私がいくら叫んでも、幼い私は全速力で志貴から離れていく。

後ろを振り返ることすら、私には出来ない。

そして場面は切り替わる。

沢山の人。

前方は白い花で飾られ、そしてその中央で額縁に入れられた志貴が笑っている。

四角い箱に収められた、氷のように冷たい志貴。


「…志…貴?」


呼びかけても目を開けることすらしない志貴。


「…志貴っ!」


呼びかける声が大きくなるが、志貴は動かない。

私を抱きしめて泣き崩れるお母さんと、その横で歯を食いしばって俯くお父さん。

唐突に理解する。

志貴は手の届かないところに逝ってしまったのだと。


「ぃ…いやぁぁあああぁぁああぁ!!!」


幼い私が叫ぶのと同時に、世界が暗転する。

そして近くで聞きなれた目覚ましの音が耳に聞こえる。


「…志貴」


白い天井を見上げ呟いた私の声は、誰に聞かれることもなく静寂の中に消えていく。

最近ではあまり見なくなっていた夢。

――忘れるな――ということだろうか。

新学期初日の朝、私はいつになく暗鬱な気持ちで目を覚ました。

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