34.隠し事
朱美の拷問とも言える追求の手に捕まった雅斗が解放されたのは、カレコレ30分ほど経った後。
その間私と孝樹はプール際ということもあり2人で足をプールに浸け、ちょっとだけシリアスな話をしていた。
それは私の過去に関することで、そしてまだ雅斗にはしたことのない話。
「ねぇ、孝樹?」
「ん?」
「…怒ってるかな…、――志貴…」
中学の時に失った私の半身とも言える、双子の兄――志貴。
高校でこの話を知っているのは同じ中学出身で仲のよかった朱音と孝樹くらいだろう。
私と志貴は別々の中学に通っていたから。
「――さぁ、どうかな。俺は直接は紗代の兄貴知らないからわからねぇーよ」
「…そう…だよね…」
私と志貴は頭の作りこそ全然違ったけど、成長期に入るその時まで、ホントに瓜二つだった。
母さんが志貴にスカートを着せてしまうなんて事が日常茶飯事に起きてしまうぐらいに。
あの頃は私を一番わかってくれるのは志貴で、志貴を一番分かって上げられるのは私だと、なんの疑いもなく信じていた――あの時までは…。
「――まだ、気にしてるのか?」
「…」
――気にしてない…わけがない。
あの時…私が拒絶しなければ、志貴は死ななかったはずなのだから。
「何度も言っただろう?紗代のせいじゃないって」
「…でも…っ」
ずっと一緒に生きてきた志貴。
けれど時間を止めてしまった志貴。
私は今でも後悔してる――。
あの時、志貴が気持ちを打ち明けてきたあの時、何故あんな言い方をしてしまったのかと。
あの時、志貴の気持ちが全く分からなくて、そして今まで一番近いと思っていた志貴が急に遠く感じて…混乱した。
気付いた時、私は志貴を拒絶する言葉を言ってしまった後だった。
それから暫くして、志貴は大量の睡眠薬によりその短い生涯に自らの手で幕を下ろした。
そして、私は失くしてから気付いたんだ。
どれだけ、志貴が大切だったかということを…。
「でもじゃない。紗代の兄貴だろ?紗代が悲しむようなこと望むもんか」
「…」
「後ろめたいのか?志貴を受け入れられなかったのに、雅斗を受け入れたことが…」
――後ろめたい――多分、それもある。
でも…。
「…いいのかなって」
「ん?」
「――私だけ…幸せになっていいのかなって」
志貴は――死んだのに…。
「バカだな」
「…は?」
「2人は別々の人間だよ。『同じ』じゃない。志貴は死んだんだよ、紗代。お前達はもう一緒じゃいられないんだ」
孝樹が言った事は…分かっていた事――だが、けれど心の何処かで否定し続けたこと。
志貴は私と一緒にいると、未だ私はそう思っていたんだ。
私がいるなら志貴は隣に居るのだと。
「それに…家族の幸せを祈らないわけがないだろ?」
「…そう…だね」
あの時、私は志貴を受け入れることは出来なかったけど…でも、これだけは言える。
私は――志貴が大好きだよ。
志貴が望んだ『好き』ではないけど、大切なことは変わらないから。
「雅斗にはまだ話してないんだろう?」
「…ぅん、なんか…やっぱり…」
好きになったのがたまたま妹だったってだけ。
でも、世間ではそれを近親相姦と言って変なものでも見るような目で見てくる。
中学の時仲のよかった友達も、その話をした後はなんだかぎこちなくなったりも経験してる。
だからこそ、雅斗に言うのは…怖い。
「…そっか。ま、紗代の問題だからね、信じられると思った時に話せばいいよ」
「…話さないっていうのは…?」
「それでもいいんじゃない?両親は知らないんだろう?」
そう、この事は両親にさえ告げていない。
そうして志貴の死後ずっと抱えていたのを、近くにいた孝樹と朱音が気付き、そして無理やり聞きだし――受け入れてくれた。
だから、私がこの2人に向ける信頼は厚い。
「ま、なんかあれば相談しなよ。聞くしか出来ないかもしれないけど」
「ううん、ありがとう」
本当に感謝しても仕切れないぐらいに2人には感謝している。
気持ちを込めて微笑もうと思った、その時。
「紗代〜っ!」
声とともにガバッと後ろから抱きつかれ、危うくプールの中にダイブしそうになるもなんとか踏ん張って事なきを得る。
「雅斗!落ちるところだったじゃん!」
「そんなことよりなんで助けてくれねぇんだよ!しかも孝樹とイチャイチャしやがってっ!」
あの話の内容を聞いても雅斗はイチャイチャと表現するのだろうか…などと思いながらも、間髪いれず。
「朱音があぁなったら止められないもん。それに孝樹とは世間話してだだけ。イチャイチャなんてするわけないでしょ、朱音孝樹のこと大好k…」
「こらー!何言ってんの!?」
話の途中でいきなり横から朱音に口を押さえられる。
その顔は若干赤くなってる。
「もぉー越高のせいで余計な時間食っちゃったじゃない!ほら、早くしよ!」
そういってポケットからあの紙を取り出すと水に浸けていく。
私もそれに習ってポケットから出した紙を広げて水に浸けてみる――すると。
「キャーwwなんか浮き上がってきた!!」
というやけにテンションの高い朱音の言う通り、紙に何かしらの模様が浮かびあがってくる。
それは私の紙も同じで、20秒ほど水に浸けてすっかり文字が浮かびあがった紙をマジマジ見るとそこには園内の地図の一部と思わしきものと、それに浸けられた×印。
そして次の一文。
≪水面下に光る白き光を得よ≫
「???」
「へぇー面白そうじゃん」
頭上にクエスチョンマークを浮かばせる私とは対照的に笑みをこぼす雅斗。
朱音の方も絵も文章も違うものの、ともに宝探しのヒントが書かれているようだ。
お互い
「じゃ、ここからまた別行動だな」
「だな、GOALで会おうぜ」
雅斗と孝樹が挨拶を交わし、私と朱美は互いに手を振って背中を向ける。
目指す場所の見当はついているらしく、雅斗の足取りに迷いはない。
こうして、長かったイベントも終焉を迎えようとしていた。
随分と遅くなってしまいました。申し訳ありませんっ!
さて話は進み、実は何も考えていなかった布石を(カラオケの曲で紗代が泣いたところね)双子との禁忌という形で推し進めることにしました。
これが吉と出るか凶と出るかは未だ不明。
何話か前に35話くらいでウォーターランド編を終わりにしたいなぁ〜っと言ってたのは何とか終わりそう…かな?
もしかしたら一話オーバーするかも知れませんが。。。
こんなノロノロ更新なのに見てくれる方がいらして…作者とても感激してますっ!
持つべきものは読み物仲間です(;△;)
話の内容的に作者が飽きるまで続くと思いますが…楽しんで頂けると嬉しいです。
では、また近いうちに。