31.第四関門
「おーっと…ここで第四関門に4位のペアが到着いたしました!」
≪第四関門≫――そうデカデカと書かれた場所は一言で言えば異様だった。
「…うっ…わぁ…」
「…ナニコレ」
多分この密林を抜けたきた人なら誰でもそう思うはずだ。
だって目の前にあるのピンクで統一されたド派手なセットなのだから。
そして第四関門の段取りを任されているだろうタキシードを着込んだお兄さんはどう考えても場違いだと思うが…どうやらそんなものは関係ないらしい。
「おーっと??5位のペアも到着したようなので二組同時に第四関門へと進んでいただきましょう!」
無駄に高いテンションで意気揚々という司会につられるように密林へと目を遣る。
「やっと追いついたな!」
「紗代達早いよー」
と、そこには多少切り傷が増えているようだがつい数十分前には一緒にいた二人が笑顔でこちらを見ていた。
「随分追い上げたなぁ」
「そりゃー負けられないでしょ♪」
「…二人とも生傷多くない?」
「あの密林越えりゃこれぐらいは普通じゃない?私はどうして二人がそんなに無傷かの方が不思議よ」
そんな私達の様子を見て取った司会は、それが仕事なのだろう、間髪居れずにゲームの説明を始める。
「あれ?両ペアとも顔見知りですか?なら遣りやすい…かな?これからゲームの説明を行います。第四試練自体はとても簡単。ただ自分のペアを見分けられれば成功です。まず女性達にはあちらに見えるカーテンの裏へと回っていただきます。そこでカーテンの隙間からこちらの指示した部位を出して、男性が自分のペアの手を当てられれば成功、外れた場合はその場で失格です。では、女性陣はあちらへどうぞ〜」
そういって何の打ち合わせもなく私と朱音はカーテンの裏へと連れて行かれることになった。
「んー考えてた通りこれ間違うと朱音が怖いなぁ…」
「確かに。ってか俺、手しか握ったことないんだけど…」
残された二人がそんな会話をしているなど、知る由もなかった。
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※※※ここからは一時的に雅斗視点で進めていきます。※※※
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紫藤と紗代がカーテンの裏へと連れて行かれる間、俺は孝樹と二人きりで残されてしまっていた。
「――雅斗と二人きりなんてあの時以来だな」
「…あぁ、そうだな」
それは俺と孝樹が名前で呼び合うようになった時のこと。
紗代と仲のいい紫藤の彼氏という認識でいた孝樹と初めて言葉を交わしたのは俺が紗代にアタックし始めてから暫く経った頃だった。
いつものように紗代の教室へ行こうとしていた昼休み、教室から出たところを「越高!」と呼び止められた。
孝樹の顔を見ても見覚えはあるけど誰だかはわからない程度の認識しかなかった俺に、越高は話があるといって俺を殆ど人の通らない廊下へと俺を連れて行った。
そして言われた言葉は今でも覚えてる。
「紗代にちょっかい出すのを止めろよ」
「――は?いきなりナンなわけ?ってか、アンタ誰?」
「紗代とは中学からの付き合いで大事な友達だよ」
「へぇ〜だから?」
「噂だと随分遊んでるみたいだが、紗代との事遊びだと思ってるなら手を引け」
こんな風に横から横槍を入れられたのは正直いって初めてで、そんな今までになかった状態が俺が初め紗代に執着した理由なのだと今なら思う。
初対面での平手打ちは結構記憶に焼きついていたし。
「手を引け…か。んじゃ微妙だな」
「…は?」
俺が発した言葉に呆然とする孝樹の顔があまりにも可笑しくて、噴出したいのを精一杯抑えながら、俺は孝樹に本心を吐露していた。
「実際気にはなってるから遊びってわけじゃない。でも、これが恋愛感情かと聞かれても俺にはわからないとしか言えない。だから微妙。そんな場合はどうしたらいい?」
自分でもどうかと思う返答だが、孝樹は暫し逡巡したあと、「遊びじゃないなら…いい」といって俺の前を去った。
その様子がなんだか男の俺からもカッコよく見えて、不意に思い出した名前を呼んだ。
「孝樹!」
紗代がよく呼んでいた名前を。
急に名前を呼んだ俺を見向きもせずに、孝樹は後ろ手に手を振っていた。
「頑張れ、雅斗」
そう、言いながら――。
「あの時のお前カッコよかったぞ」
「まぁな」
そんな事を思い返していると司会が再び壇上に上がる。
「お待たせいたしました!それでは、始めましょう。ペアの男性が選ぶのは…足です!」
何処から流れた太鼓の音を合図に、カーテンの中から6本の足が現れる。
「…なんかエロいな…」
「…だな」
カーテンの中から足の太ももまでが出ている光景は中々圧巻である。
しかも揃いも揃って美脚と言える足ばかり…。
ただご丁寧に水着は見えないようになっており、水着の色での判別は難しいようだ。
「さ、自分のペアだと思う人の足にタッチしちゃって下さい♪」
「へぇ…触って良いんだ?」
ぼそりと人に聞こえるか聞こえないないかの独り言を呟くと、司会の合図に合わせてカーテンの近くへと別々に移動していく。
俺にも孝樹にも迷いはないようだ。
「おーっと早くも二人とも決定か?」
司会の言葉など完全無視で、視線を孝樹に合わせる。
「んじゃ、お互いの健闘を祈って」
「あぁ、せーのっ」
俺と孝樹は互いに決めた足へと手を――触れた。