22.公園
「雅斗…?…ぇ?」
「来ちゃった♪今出てこれない?」
笑いながら私に来てと言うように玄関前で手招きをする雅斗を呆然と眺め、途端に我に返ってドタバタと音を立てながら階段を下りていく。
「あら、紗代何処行くのー?」
「ちょっと出てくるっ!」
不思議そうにこちらを見た家族に一言そういうと、適当な靴を引っ掛けて外に出る。
「雅斗!」
っと、こんな時間に急に来るんだから何かあったのかと急いで外に出たのに…。
「会いたかった、紗代」
肝心の雅斗はイケシャアシャアと、語尾にハートマークが付きそうな台詞を恥ずかしげもなく口にする。
その様子に…しばし時間が止まる――そして。
「――は?」
「いやー、なんか急に顔見たくなってさ♪」
心配して素っ飛んで来た自分は何だったんだろうと、焦りまくったさっきまでの自分に暫しの黙祷を捧げる。
そしてソロソロと伸ばしてきた手を眼光を持って制すると、何事もなかったかのように玄関へと向けて歩き出す。
「ちょっ、紗代!?無視はないっしょ?」
「黙れ変態」
さっきまでこんな奴の事知りたいとか思ってたんだという自分自身を諌める。
こんな奴のこと…理解出来ちゃったら人間として負けだ、きっと。
「ちょっと待てっ」
あと少しで玄関のノブに手が届くと言う所で腕を引っ張って引き離される。
ジトリと効果音が付きそうな目でそちらを振り返り――。
「…不法侵入」
「いや、待て、落ち着け。ってか、ちょっと歩こ?な、そうしよ!」
言うだけ言ってこちらの返事を待つこともなく、雅斗は紗代の腕を引っ張りながら住宅街へと入り込んでいく。
こうなると力で叶わない私はどうすることも出来ない――けど、それだとなんだか負けた気がするのでなんとか腕を振り払おうとする。
まぁ結果は分かってるんだけどね…、一種の嫌がらせかな?
そんなことをしていると近所の公園に到着する。
ブランコと滑り台、あとはベンチしかない小さな公園。
それでもこの辺りには公園が少ない為、昼間であれば子供の声が絶えない場所。
雅斗は逡巡もせずに公園に入るとベンチに腰を下ろし、腕を引っ張って私にも無言で座れという。
仕方なく隣に腰を下ろす。
暫しの無言のあと、何を言おうか悩んでいるかのように雅斗は話出した。
「ごめん、こんな時間に来ちゃって…」
「…何かあったの?」
「いや…ただ無性に会いたくなっちゃって…気付いたら家まで行ってた」
「…」
「ホント気付いたら――びっくりだろ?」
『いや、驚くのはこっちだから!!』っという言葉はこの際飲み下しておいてっと。
全く何も言わない私に雅斗は苦笑いを浮かべながら言う。
「俺最近どうかしてるんだよ」
――目の前にいるのは誰だろう?――私の頭に浮かんだのはそんなことだった。
遊び人、プレイボーイ、女泣かせ…etc…。
目の前のコイツに付けられた呼び名はそんなものだった気がする。
それなのに、何も答えない私の顔を覗き込んで――。
「お前の事がめっちゃ好きみたい」
なんて少し照れたように笑う雅斗は――、まるで別人。
そんな感じで呆けていると頭にかかる微かな重さに現実に戻る。
「髪サラサラ」
そういって私の髪を愛しそうに撫でる雅斗の姿に…不覚ながらも顔が真っ赤になるのを感じた。
でも撫でられるのは全然嫌じゃなくて、寧ろずっとしてて欲しいぐらいに嬉しい。
大人しく頭を撫でられていると、急にグイッという引力を感じて、いつの間にか雅斗の腕の中に閉じ込められる。
抗議の視線を送るが、雅斗を睨んでも微笑まれるだけで腕を緩めようとしない。
頭を撫でられる手は止められたくないし『もう少しこのままでいっか』っと、睨むのを止め雅斗の腕の中で目を閉じる。
一定の調子で撫でられた髪がサラサラと耳元で音を発てる。
(なんか…落ち着く…)
時々思いついたかのように囁かれる愛の言葉にむず痒くなりながらも、暫くの間二人でその時間を楽しんでいた。
評価・感想は作者のやる気を上げます!
あ、あとクリスマス企画案『こんなのが見たいっ!』ってのも要望がありましたら一言お願いします。
ではまた、近いうちに。