19.観覧車
走り出してから5分あまり。
足が痛くないわけではないけど…早く雅斗に会いたかった。
目印にしていた観覧車の下まで辿りつくと、夕日をバックにする観覧車にはとても沢山の人が並んでいた。
皆観覧車から夕日を見るのだろう。
イルミネーションと並んで、観覧車から見る夕日は絶賛されていたから。
人込みの中からサラサラと水の音が聞こえてくる。
その方向に足を進めると程なくして結構大規模の噴水が見えた。
今まで見た噴水の中で一番大きいのではないだろうか?
「…綺麗」
空中に吐き出された水滴に夕日が当たってキラキラと輝きながら落ちていく。
一時の間見惚れるように噴水に見入っていたが、当初の目的を思い出すと辺りを見回す。
そして、ずっとこちらを見ていただろう雅斗と目が合う。
たかだか数時間ぶりかもしれないけれど、今まで背負っていた形のない緊張が霧散していくのを感じる。
「ったく、いつまでも噴水見てるのかと思った」
呆れたって顔をしながらも、けれどそれでも雅斗は優しい目をしていた。
それが――それだけの事が、凄く嬉しい。
「…ゴメン、なんか凄く綺麗で…」
「はぁ〜、知ってた事ではあるけど…」
溜息の後に雅斗が呟いた言葉は喧騒にかき消されて聞き取ることが出来なかった。
何だったのか聞き返すと「なんでもない」と言って答えてはくれなかったけど…、優しい目で見ていてくれるから忘れてしまっていいものなんだと思う。
謝ってしまおうと思った。
今日のこと全て。
優しい雅斗が有耶無耶にしてしまう前に。
「ねぇ雅斗…あの…あのね…?あの…っ!」
「よし、観覧車並ぶか」
「その…そ、観覧車――え、観覧車…?」
折角の勇気を踏みにじりつつ、雅斗は私の手を強引に引っ張って行く。
多分飼い主に引きづられる犬…みたいな状態だと言えば分かりやすいだろうか?
不自然な体勢で走っているので何度か足を捻りそうになったが、なんとか最後尾までたどり着く。
最後尾と書かれた看板の場所まで行くと、『30分待ち』と書かれている。
「30分後なら暗くなってるだろうな」
「え、あ、うん」
覚えていてくれたことが純粋に嬉しい。
でもまだモヤモヤした気持ちが残ってる。
『謝ってしまおう』と素直にそう思える。
雅斗と一緒に笑えるように。
「あのね、雅斗?昼過ぎの事とさっきの…ゴメンナサイっ!」
「ん?もういいって」
「――でも…」
「んーんじゃ手繋いで?それで許すから」
差し出された雅斗の手に自分の手を重ねると、ギュッと雅斗が手を握ってくる。
なんだかそれだけの事なのに顔が熱くなる。
(雅斗の手、私の手より全然大きくて、温かい…)
「ほら、進むぞ」
いつも通りの声に緊張しているのは自分だけなのかと微妙に落ち込みながら雅斗の後姿を見ると、そういって私から目を逸らした雅斗の頬が少し赤くなっているような…そんな気がする。
(私だけじゃないのかな?)
そのことがなんだか嬉しくて、繋がる手に力を込める。
すると、まるで伝わったかのように、雅斗から伝わる力が一瞬強くなった。
なんだか秘密の会話をしているようで、紗代は暫くそれを続けたのである。
「いい加減にしろっ!」
っと、雅斗に怒られるまで…。
少し遅れてしまいました。。。
まぁボチボチ更新していきます。
早めの更新がお好みなら…評価・感想下さると頑張るかと思います。
では、また近いうちに。