12.約束
こんなにも校長の話をマジメに聞いたのは初めてかもしれない。
いつも長いと思う話が、今日はすごく短く感じる。
もうすぐ…終業式が終わる。
終わって欲しいような…終わって欲しくないような…複雑な気持ちだ…。
私が並ぶ場所からは雅斗の後姿が見える。
式の間中ずーっとこちらに振り返ることのない大きな背中を見ていた。
あのメールは届いただろうか?
拒否されてたりしないだろうか??
そしてこの後、雅斗は来てくれるだろうか???
心臓が――煩い…。
そんなことを考えているうちに校長の話も終わり、終業式が終わりになる。
クラス毎に教室に帰っていく…。
それからずっと、私は誰の話も上の空だった。
担任が何を話したかすら覚えてない。
気付いたら放課後だった…というのが正しいかも知れない。
朱音と孝樹が「帰ろ〜」っと誘ってくれたのを断り、鞄を持ったまま屋上へとあがって行く。
一段一段がなんだか進みづらい…。
足が重くて…逃げてしまいたい。
それでも…少し重たい屋上の扉を開けた――。
「――…わぁ〜!」
ついつい声を出してしまうほど、真っ青な空が私を見下ろしていた。
学校以上に高い建物なんてない場所の特権。
――空が…広い。
自分が小さく思えるぐらいに。
何一つ解決していないのだけど…なんだか全部が上手く行くような…、全部がいい方向に進むような…、そんな根拠のない気持ちにさせてくれる。
心が大きくなるという言葉の通りに。
♪〜本当に大切なもの以外
全て捨ててしまえたら
いいのにね
現実はただ残酷で〜♪
紡いだのは恋歌。
ここ数ヶ月、頭に響いて止まない曲。
♪〜Ah-出会ったあの頃は
全てが不器用で
遠回りしたよね
傷つけ合ったよね〜♪
出会いは――決していいものじゃなかった。
遊んでるんだと思ってた。
でも…少しずつ、少しずつ――アイツの言葉に動かされてた。
誰も気付かない私の感情に気付いてくれたこと。
人を労わる心。
大事に思う気持ち。
自意識過剰かもしれない…。
でも…アイツはちゃんと気付いてくれた。
♪〜Ah-出会ったあの頃は
全てが不器用で
遠回りしたけど
辿りついたんだね〜♪
浜崎あゆみの『Dearest』――。
私の恋の結果はどうなるかな?
この歌と同じように私も辿り着きたいよ。
こんなにも好きだと心が叫んでいるから。
屋上から見ると、バラバラと帰っていく人の数が段々と減っている。
時計を見るとそろそろ終業式が終わって1時間が経つ。
部活に入っていない雅斗がそんなに残っている理由もない。
昼休憩が終わったのか、運動部はゾロゾロと部室から出てきてグランドに準備を始めている。
それを漠然と見ながら、同じ曲を口ずさむ。
頭にチラリと浮かばないわけじゃない。
――『帰っちゃったんじゃないか』――って。
でも、今日だけは…いくらでも待とうと決めたから。
…だから――。
一方的な…約束とも言えないメール。
それでも…。
私はあのメールに賭けようと決めたから――。
――………
―……
―…
「…涼しくなってきたなぁ…」
もう何度同じ曲を口ずさんだだろう。
これが冬ならもう真っ暗であろうそんな時間。
ただ静かにずっと屋上で待っていたけれど…そろそろリミットが来る。
雅斗は――来ていない。
帰ってしまったんだろう…。
「…嫌われちゃったんだね…」
何をしたのかよくわからない…。
それでも…雅斗は来なかった。
学校の鍵がそろそろ締められてしまう。
もう…リミットなんだ…。
「――諦めるしかない…ね」
立ち上がった拍子に頬を雫が伝っていく。
まだ…待っていたいと意地を張る自分を宥めながら…重い足を引きずって階下に繋がる屋上の扉を開くと――。
「……ぇ…?」
階段の手すりに寄りかかるようにして顔を伏せる、雅斗がいた…。
一応書き貯めてたのがここまでになるので、後はゆっくり更新しようかと思います。理想は2日に1回更新できればいいなぁ…っと…。多々裏切ると思いますけど…(^_^;)気長にお相手くださいますようお願いします。