10.サボリ
どれだけ泣いていたんだろう。
チャイムが何度か鳴っていた事までは覚えているが、回数までは覚えていない。
だから今が何時間目の授業中なのかがわからない。
休憩時間中でないと分かるのは屋上から見える校庭で体育の授業が行われているからだけど…。
「…お腹空いた…」
こんな事になるんなら朝御飯ちゃんと食べてくればよかったなぁ…。
人間こんな時でもお腹は空くんだね…。
――ブー、ブー、ブー、ブー…――
振動と共に聞こえてきた音は自分の携帯の存在を示している。
いつもならポケットに入れているんだが…見渡すと先ほど寝そべっていたところの近くに落ちている。
きっとポケットから飛び出てしまったのだろう。
また静かに動くなった携帯を拾い上げると、着信とメールのマークがついている。
携帯を開くと。
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不在着信:5件
新着メール:10件
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の文字が。
取り合えず着信履歴を見ると朱音と孝樹、そして将の着信が残っていた。
バッグがあるのに本人が居ないから心配して掛けてくれたんだろう。
続いて新着メールを確認すると、こちらも朱音と孝樹そして将で占めていた。
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FROM:朱音
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何処に居るの?
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FROM:孝樹
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朱音が心配してる
ぞ?連絡しろー
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FROM:朱音
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サボリー?
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FROM:孝樹
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なんか用事でもあっ
たのか?
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FROM:将
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皆心配してる。今何
処にいる?
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FROM:朱音
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返事しろよー(^^;
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FROM:孝樹
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なんかあったのか?
とにかく連絡が欲し
い。
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そんな内容のものが10通。
着信の内容もそんな所なんだろう。
でも一つ、これらのメールと着信で分かったことがある。
それは…雅斗からのものは一通もないって事。
さっきの事が夢ではなかったのだと、枯れたと思った涙がまた頬を濡らす。
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FROM:紗代
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ゴメン↓
今屋上にいるよ。
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取りあえず時間を見ると4時間目の真っ最中ということなので、心配してくれている3人にメールを返した。
その後また仰向けのまま、私の気持ちとは正反対の澄み切った空を見上げる。
昨日の事で、雅斗が何に怒ったのかはよくわからない。
私は…嬉しかったんだ。
雅斗と話すことも。
雅斗と登校することも。
いつからだか分からない。
何でだかなんて分からない。
でも――いつのまにか…非日常だったはずの日常自体が日常になっていたんだ。
こんなにも…心が寂しいと主張するほどに…。
「…雅斗」
呟いた声は弱弱しく、けれどその名前を呼びたいのだと私に再認識させる。
私は――雅斗と一緒にいたいんだ――。
きっと…こういう気持ちに…人は『恋』って名前をつけるんだね。
私は…雅斗が好きなんだね…。
まだ風の気持ちいい初夏の季節。
私は初めて恋をしたんだ――。
「紗代!!心配したんだからねっ!!」
そういって昼休み一杯説教をされ、朝・昼とも抜くことになったのはこの後の話…(笑)