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空からの落としモノ  作者: 紫音
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少女とアイドル

あれから、エルアが呆れながら天界とやらに帰ってしまって三十分が経過した。

エルア曰くこれでも加減したという激しい雷光が俺の家を襲った直後、いくら鈍いとはいってもやはり俺の父さんと母さんも俺の部屋にすっ飛んできた。


エリアと共に「なんでもない、大丈夫だ」と何とか(かぶり)を振って父さんと母さんを階下に追い返して(父さんと母さんは和気藹々と家に雷が落ちたのは初めてだの天使見習いを迎えた我が家に対する神の祝福だのおよそ常識とはかけ離れた話ばかりしていた)、父さんと母さんが部屋に入ってくるなり消えてしまったエルアが先程まで立っていた場所をじっと見つめる。


親たちが部屋の外へ出て行ったことを確認したんだろうエルアは、またその位置にふっと現れる。


「・・・・すみません、つい度が過ぎてしまったようです。ご迷惑をかけた事はおわびします。」


「ああ、そりゃどうも。・・・・というかお詫びよりも早く帰ってくれた方が俺は一番嬉しいな。」


「・・・そのようですね。では、私は失礼する事に致しましょう。エリア、しっかりと頑張るのよ?」


「は・・・・っ、はいぃ・・・・っ。」


すっかりと怯えてしまって、ぶるぶるとただ震えることしか出来ない小動物のような有様のエリアは、俺の部屋の片隅に縮こまりながらなんとかそれだけを発する。

それを微笑ましげな表情を浮かべて、少しの間見つめていたエルアは、どういうわけかだんだんと俺の方に近づいてくる。

とうとう目と鼻の先・・という距離まで近づいてきたエルア。じっと見つめあう二人・・・・って、ナンナンダヨ、コレハ。あぁあぁあ俺としたことが・・・・っ、柄にもなくこんなにも緊張してしまっているなんて・・・っ!


たしかに、目の前にいるエルアは、加減を知らない奴で物騒だし、言動が怖いわでそもそも天使だと言いはじめる辺り普通からは程遠い奴だが・・・・っ、外見は確かに今時人気のモデルなんか目じゃないくらい美人で、綺麗で・・・って何を言っているんだ俺は・・・・っ!!!

やっぱり俺のこの恥ずかしい考えを読んだんだろうエルアはにっこり、と。本当に綺麗な笑顔を浮かべた。


「そんなに緊張しなくても構いませんよ、野元真崎。妹をよろしくお願いします。・・・見ての通り、あの子は色々と貴方にご迷惑をかける事になると思いますが・・・・、どうか妹を見捨てないでやってください。」


それは、姉としての切実な願いだったんだろう。

今までの苦渋に満ちた経験を思い出しているのか、どこか憂いを帯びた、だけどもしっかりと慈愛が見え隠れしている複雑な表情で、エルアはそう俺に告げた。いや、頼んだんだ。


そして。

元々家に備え付けられていた避雷針のおかげで何とか難は逃れたが、エルアが帰った後も、未だに俺の部屋には妙に香ばしい匂いで不本意ながら満たされているのだった。

そして、姉から直々に頼まれた妹は、本当にどういうわけか謎の機械で、聞き覚えのない雑音が溢れてくる映像を見ながらきゃっきゃっと楽しそうに笑っている。

・・・・この様子だけでも、姉の苦労が簡単に思い量られるな・・。


「一体何見てるんだよ。それも修行の一環か?」


「あ、これは修行とは何の関係もなくて・・・・その、私の趣味みたいなものです。」


「趣味?」


というか修行をしにきたというのに、いくら真夜中とはいえこんなところで悠長に趣味に没頭していてもいいものなんだろうか・・・。


「はい、えっと、この映像に出ている子はラヴェリーちゃんと言って、私が大好きなアイドルなんです・・!」


「アイドル?へぇ・・・そんなのもいるんだな。」


エリアのその言葉を聞いて、スライドプロジェクターによって映し出されたような画面をじっと目を凝らして見つめる。


「それで、これはラヴェリーちゃんのライブ映像なんですよ。」


先程まで何がなんだかわからなかった映像も、ライブだと思ってもう一度見てみれば、なんとなくだが理解は出来るような気がした。

多分、このだだっ広いステージのような場所で、俺の理解不能の言語を喋って動き回っている彼女こそラヴェリーというのだろう。

艶やかな栗色の髪に、その髪色と上手くマッチしている茶色の瞳を持った彼女は、なるほど確かにずいぶんと可愛らしい外見をしている。


白とピンクのコントラストが可愛い衣装を着た彼女の姿は、俺たちが想像する一般的なアイドル像との違いは何もない。つくづく思うのだが、未だにあまり信じられない天界とやらと俺たちの世界とはあまりに違いがなさすぎないか・・・?

天界なんてものにも、こうやって可愛く着飾った女の子が歌って踊ってしているなんて聞いたら、きっと敬虔な信者の方は腰が抜けるくらい驚くに違いない。


「なぁ、エリア。」


「はい?」


「さっきからずっと思ってたんだが、ライブとかアイドルだとかずいぶんと天使だとかいうわりに人間臭くないか?だいたい、お前が喋ってるのってバリバリの日本語だし・・・やっぱりお前らってあやしすぎるよ、どう考えても。」


「あー、それはですね!私達は迷える哀れな人間の皆さんを救済とすることを目的としているので、基本的に人間の言葉を理解することが出来なくてはならないんです。・・・話が通じなければ悩める人々を導くことも出来ませんから。そして、天使は一度見た事は大抵の場合覚えているものですし、優れた記憶能力があるといわれています。それで、ですね、今や世界に多数存在するといわれている言語、完全な天使になるためには数百、数千のそのほとんどを網羅していなくてはならないみたいで・・・とりあえず、少なくとも中国、スペイン、英、ヒンドゥー、アラビア、ポルトガル、ベンガル、ロシア、日本、ドイツのもっともよく人間の間で話されている十か国語程度はすらすらと話せないと話にもならないようです・・・。」


そう言い終えると、先程までのハイテンションはどこへいったのか、しゅんとうなだれて暗い表情を浮かべるエリア。・・・この様子だと、エリアは何千もの言語を自在に操れるというわけではないらしい。


「で?お前はどれくらい話せるっていうんだ?」


「わた・・しは、すらすらと話せるのがその十ヶ国語が限度で・・・。ほかの言語も覚えることは覚えたんですけど・・・。」


なるほど、やはり落ちこぼれと言われるだけはあってずいぶんと彼女と一般的な天使とやらの能力には差があるらしい。


「・・・・あの、先程からずっと頑張って日本語を喋っていたんですけど・・・何かおかしな所とかありませんでしたか?」


「いや、まぁ天使だの何だの言ってるのは正直おかしいとおもったが、アイドルだのライブだのそのぶんの使用法においては多分間違ってないと思うけど・・・明らかに天使が使う言葉じゃないよな。」


「え・・・・じゃあ天使は日本ではどんな言葉を使えばいいんでしょう・・?」


最後の方はただぼそりと呟いただけだというのに、それに物凄く食いついてきた少女が一人。・・・・というかそんなもの自分で考えろ!・・・なーんて言いたいところだが気が弱そうなエリアにそんな暴言を吐いてしまうと後々面倒になりそうだったので、ここはぐっと我慢して仕方なしにエリアの疑問に答えてやる。


「いや、なんていうかお前とかエルアって人間が考えてるような天使像とはかけ離れてる気がするんだよな、・・まぁ俺の主観なんだけど。」


「私はともかく、お姉ちゃんは立派な天使だと思うんですけど・・・・。」


俺の言葉に納得がいかないのか、少ししかめっ面になるエリア。姉が妹思いなら、妹もたいがいの姉思いらしい。

・・・・しかし、一般的に人間が考える天使なんてものは明らかに消し炭にしましょうか?(要約)なんて言わないだろ、絶対に・・・。

しかし、エリアにさっきの姉の蛮行というか脅迫まがいを話したところで、きっと俺の話は信じてすらもらえないだろう。めんどくさいし、ここは適当に話をあわせておくか・・・。


「ああ、そうだなそうだな。お前の姉は立派な天使様だよ。・・・俺がびっくりするくらいのな。」


「そう言ってもらえると私も嬉しいです・・・!」


皮肉たっぷりの、自分でもこれはないと思うくらいの棒読みで辛辣にそう言ってみたものの、天然にはそれさえも通じなかったようだ。


「・・・・ああ、もう。いいからお前はそのライブ映像でも見てろ。」


「いいんですか!?それじゃあお言葉に甘えて。」


そう言って、どことなくウキウキとしながらエリアは俺から映し出された映像の方に向き直る。

ああ、本当に厄介なことになった・・・・。というか、どうするんだよこれ。

俺の気なんて知らない、天使見習いの少女はその映像から流れてくる歌声?(理解は出来ないが多分歌だろう)に合わせて自らも大声で同じように、外国語としか思えないわけのわからない言語で歌いはじめたのだった・・・。

あああああああもう誰かどうにかしてくれよ・・・・!!!


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