少女との帰り道
ずんずんと家まで向かって歩いていく俺の後ろを、少女は少しためらいながら二、三歩遅れてそれでも俺の跡にしっかりとついてくる。
「あのー・・・。」
少女がやはりためらいがちに俺に小さな声で問いかけたのは、家まであともう少しという時のことだった。
「何ですか?」
「お名前を聞いていなかったなと思いまして・・・。」
「名前?ああ、名前ね。俺は野元真崎。まぁ、何て呼んでくれても構わないけど。」
どうせ名前を呼ぶことなんてこれっきりなんだし、と俺は密かに心の中で付け足す。
「じゃあ真崎さんとお呼びしますね!ご紹介が遅れました。私はエリアと言います。」
ご丁寧にぺこり、とお辞儀をして彼女はまた俺の方にへと向き直る。
「えり・・・あ?やっぱり貴女って外国人か何かなんですか?」
名前も明らかに日本人離れしているなら、彼女の外見も当然といってはなんだがどう考えても純粋な日本人とは思えなかった。
明るい金髪を羽のようなアクセサリーがついた髪留め二つでくくった彼女の髪型は、いわゆるツインテールといわれるものだった。
「外国人・・と言われればそうかもしれません。天界は国、という単位でくくれるものではないのですが、私はこの地域の人間じゃないわけですし・・・。」
あー・・・また始まった・・・。彼女の天使妄想が。
この頃になると俺の感想は驚きを通り越して呆れの領域にまで達していた。
まぁ、確かにこの子が日本人でないというのは認めよう。それは誰が見たって明らかなことだ。
彼女が日本人ではないというのなら先程までのしつこいぐらいの天使主張も説明がつくかもしれない。
俺はもともと自他ともに認める現実主義者、かっこよく言えばリアリスト、なわけで宗教といった類の知識はあまり持ち合わせてはいない。
そりゃまあテストに出そうな範囲の事柄は暗記しているわけだが、そんなものは全世界の宗教関連の物事のちっぽけなたった一つにしか過ぎないのは分かりきっている事だ。
この少女が何処から来たのかは知らないが、彼女の言う天界とは彼女の信じる宗教的な場所を表す言葉なんじゃないだろうか。
いくら自分がそういったものを信じないとは言っても、他人がそう信じている事に対して俺がとやかく言うつもりはさらさらない。
自分は宗教的なものを信じた覚えはないし、また大して興味はない。
だけど、それを信じる事で救われている奴がいるのも事実だろう。
この少女が天使という存在を自分と重ねあわせすぎているのも、彼女の国独特の信仰なのかもしれない。
そうだとすれば、俺が彼女を病院に連れて行こうなどと言うのは彼女にとって、とても失礼なことにあたるわけだ。
よくよく考えてみれば先程彼女が俺に見せてくれた四角いカードは彼女の国での身分証明書だったのかもしれない。・・・ただそれを俺が認識出来なかっただけで。
そう考えると、天使だなんだので彼女のことを馬鹿にしてしまった事が少し申し訳ないような気がした。
「あの・・・すいません。僕さっきから貴女に失礼な態度を取ってしまったような気がして・・・。」
「えっ!?そ・・っ、そんな!むしろ失礼なのは私の方です!初対面の方にこんな事をお願いして・・・。きっとまたお姉ちゃんに叱られちゃう。」
「へぇ。お姉さんがいるんですか?」
自分が勝手にしていた勘違いが解けて、今では俺は初めてこの少女の話をまともに聞いてみようという気持ちになっていた。
「はいっ!とっても強くて優しくて・・。私の自慢のお姉ちゃんなんです。」
うっとりとした表情で姉のことを語るエリアの様子を見ると、よっぽど姉を尊敬しているのだろう。
俺は一人っ子だから兄弟の関係なんてわからないが、ここまで慕われるという事はよっぽど出来たお姉さんなんだろうな、と薄々そう思った。