表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空からの落としモノ  作者: 紫音
29/33

少女とつばさ

「・・俺の負けだ、帰ろう、エリア。」


「本当ですか!?」


急にころりと態度を変えて、嬉しそうに微笑むエリア。


「だけど、お前は新しいパートナ―でも探した方がいいんじゃないか?俺は性格が悪いし、大体運が悪いんだよ。俺といてもいい事なんて・・・っ。」


「そんな・・っ、そんな事ありませんっ!私は真崎さんと一緒にいれてとっても楽しいです。今さら新しい人のところへ行こうだなんて、そんなこと・・考えたこともありません・・・っ。」


前よりはおとなしくなった雨音の中で、エリアのその声だけがやけにはっきりと俺の耳の中に飛び込んでくる。

先程までは感じていた肌寒さも、今ではすっかり感じなくなってしまっていた。


「本当に俺なんかでいいのかよ・・?変えるなら今のうちだぞ。」


「私は、真崎さんだからいいんです。」


にっこりと微笑んで、恥ずかしげもなくそう言い切るエリアに、俺は今度こそ負けたな、と確信する。

本当に、こいつにはどうやったって敵わないな・・。

帰りましょう真崎さん、と優しく手を差しのべてくれるエリアの、温かい手を俺はぎゅっと握った。


 


「それじゃあ帰るか。だいぶ遅くなってしまったみたいだからな。」


「そうですね、多分お母様も心配されてると思います。」


「あ―あ、また母さんに怒られるな。」


「・・・くすっ。」


「あ、おい。お前今笑っただろ。」


「エ?ワラッテマセンッテ。」


「なんでそこでカタコトになるんだよ!?お前明らかに動揺してるだろ!」


俺からわざとらしく目を逸らせて、愛想笑いを浮かべるエリア。

なんてバレバレなんだ・・!

誤魔化すにしても、もう少し考えて欲しいもんだ。


「ど、動揺なんてしていません・・っ!」


「どうだか?声震えてるぞ。」


「そ、そんなこと・・っ。」


くだらない事で、言いあって、笑いあって。

先程までの憂鬱な気分がまるで嘘のようだ。

俺とエリアはすっかりと以前と同じ様を取り戻していた。


小降りになってきた雨の中、相変わらず誰も人がいない第三公園を抜けようと歩き始めたその瞬間。


「・・・っあ!?」


急に、エリアが自分の身体を必死に守るように、腕を交差させて、ぎゅっと反対の肘を握りしめる。

立っていられないのか、エリアは傘を放り出して、その場でしゃがみこんでしまった。


「お、おい!?大丈夫かよ!」


「まさきさ・・んっ、からだがっ・・身体があつい・・っ。」


そう言って苦しそうに息を吐き出すエリアの額にはうっすらと汗がにじんでいた。

どうやら・・ただ事ではなさそうだ。

天使にも病気にかかるのか、とかそんな事は分かないが、とりあえず病院に連れていった方がいいのかもしれない。

元々住所不定だろうこいつには健康保険証はないし、見た目は俺達と同じに見えても、中身まで同じという保証はない。 

だけど、まだ降りやまないこの雨の中でこうしていても、余計エリアの体調を悪化させるだけに違いない。


しゃがみこんだままのエリアに傘をさしてやりながら、俺はそっと彼女の肩に触れる。

そして、その時に気づいた違和感。

エリアの背中が、淡い光を発している・・・?

まさか、そんな、馬鹿な・・っ。

今、やっとここでエリアの修行とやらは完遂されるというのか・・?

だって、彼女は今、何を助けたという?

この場には俺とエリアの二人っきり。他に人は見当たらない。

ということは、つまりだ。俺はいつの間にかエリアに救われていた・・?


・・確かに、もう俺の中にわだかまりはないし、少し気分がすっきりとしたような気もする。

だけど、それだからといって・・!

俺がああだこうだと思い悩んでいる間にも、エリアの肩から背中にかけての光はだんだんと明るさを増していく。


苦痛に歪むエリアの表情、荒い息。    何もかもが不安定な世界の中、ただ俺は 彼女を見守り続ける事しか出来なかった。


「・・っ、ああああぁあっ!」


一層高い声を上げて、エリアの身体がびくりと跳ねる。

ビリっという、何か布が破れる音と、ふぁさりという翼が羽ばたく音がする。

驚いて、その音のする方にへと目を向ければ、そこにはまごうことなき純白の二枚の翼があった。


「・・やった!やったじゃないか、エリアっ!」


さっきまでの、訳がわからなくて不安な気持ちとは正反対に、俺の心の中はどこか晴れ晴れしい気持ちで満たされていた。

はあはあと肩で荒い息を繰り返すエリアにそう祝福の言葉を贈ってやれば、エリアは嬉しそうに微笑んだ。


「真崎さん・・っ、とうとう私、やれたんですね・・。」


「ああ!よかったじゃないか、これでお前はもう落ちこぼれだなんて言われなくなるんだろ!?」


こくり、と頷くエリアの目尻にはうっすらと涙が浮かんでいて、俺は天使でも泣くんだなとぼんやりとそう思った。


「私、わたし・・っ、すごく嬉しいです。・・ですけど、真崎さんともこれでお別れなんだなって・・・。」


その、エリアの言葉を聞いた瞬間、どくんと俺の心臓が高鳴る。

確かにエリアに翼が生えたこと、それ自体は喜ぶべき事だ。

だけど、それはつまり、エルアに頼まれた約束を果たし、俺達が再びそれぞれの生活へ戻ることを意味していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ