雨の中で
ざあざあと降り続く雨、時折鳴り響く雷鳴。
激しい雨の中、当てもなく走り続けてたどり着いた先は、以前ななみと落ち合った寂れた第三公園だった。
ひとまず雨をしのぐために、遊具として設置してあった土管の中にへと潜り込む。
子供用として設計されただけあって、俺のような体格の奴にとってはその中はとても窮屈で、あまり自由に身動きできそうにもない。
だけど、頭がぼうっとしてあまり何もしたくないと思っている今は、むしろその方が好都合だったのかもしれないな。
騒がしい雨音が、俺の苛立ちと戸惑いをかき消してくれる事を祈りながら、俺はそっと目を伏せる。
外が暗いのはこの雷雨のせいだろうか、それとも今やエリアと別れてかなり時間が経ってしまったせいなのか、土管の丸いわずかな隙間から見える景色は、もうすっかりと夕闇に包まれていた。
激しい自己嫌悪と、憂鬱な気分がどっと俺を襲い、エリアの心配そうな顔が俺の脳裏で浮かんだり消えたりを繰り返している。
どうして、あいつはあんなにも簡単に人を信用してしまうのだろうか。
この世界には、醜い欲望を抱えた人間がごまんといる。
簡単に人に心を許したところで、手痛いしっぺ返しをくらうに決まっているだけなのに、それでもエリアは。
いつもいつも人を疑うことをしらない優しい笑みを浮かべて、彼女はただ、人間を見守り続けていた。
いくら彼女が落ちこぼれとはいえ、彼女の精神、それはまぎれもなく俺達人間が淡い憧れを抱いてる天使のもの。
そして、エリアは・・・俺にとっても・・・っ、
ああ、ああ・・っ!今頃こんな事に気づくなんて俺は馬鹿か!?
ぐしゃぐしゃと頭を掻き乱してみても、俺の頭の中の乱れた考えは一向に収まる気配がない。
馬鹿でドジでどうしようもないエリアを助けていたつもりが、実際そんなあいつに救われていたなんて、そんなこと・・っ。
真っ暗な暗闇で一人取り残されていた俺に、一筋の光が差した。
それは、俺の心情を表す比喩でもあり、実際に俺の目の前で起こっている出来事でもある。
「真崎さん・・。」
俺の事を古ぼけた懐中電灯で照らしながら、心配そうにこちらを覗き込む天使の姿が、そこにはあった。
傘をさしているくせに、その金髪からポタポタと情けなく滴を垂らしている様子からみるに、一度傘を取りに戻ったという事だろうか。
雨の中にも関わらず、必死に濡れるのをいとわず俺の事を探し続けようとするエリアの姿があまりに簡単に想像出来て、俺は深い後悔に襲われた。
そうだ、こいつは先に帰れと言われても、はいそうですかと簡単に引き下がる奴じゃない。
変な事に頑固で、自分の心配より他人の心配を優先してしまうお人好しで・・っ!
今までエリアと一緒に過ごしてきた俺が一番それを分かっているはずなのに、自分からこいつをそんな状態に陥れてしまった自分が何よりも悔しかった。
「真崎さん・・帰りましょう?きっとお母様も心配してます・・・。」
「お前だけ先に帰れって言っただろ?帰れよっ!」
心とは裏腹に、俺の唇は冷たい言葉を紡ぎだす。
その瞬間、エリアの顔は驚きで歪んだが、すぐに力強い眼差しを取り戻し、きっ、と俺を強く睨んだ。
「いやです!私は真崎さんと一緒じゃないと帰りません・・っ!」
「じゃあ俺と一緒にここで夜を過ごすとでもいうのか!?お前にそんな事をする義理がどこにあるっ!?」
「あります・・っ!だって、だって真崎さんはいつも私を助けてくれたじゃないですか・・!」
そう言って、必死に反論するエリアはどこか鬼気せまるものがある。
ああ、こいつはどこまで他人の為に必死になれるんだよ・・!?
「でも、それはお前の姉に!エルアに頼まれたからだ・・っ!」
「え、お姉ちゃんに・・・?」
その瞬間、エリアの必死の形相が少し揺るんだ。
その顔には戸惑いの色が浮かんでいた。
「そうだ、俺は自分の身の可愛さにお前に仕方なく付き合ってただけの小心者なんだよ。分かっただろ?俺はお前がそんなに必死になるほどの人間じゃないんだ・・っ!」
いつの間にか、俺は自分でも驚くほどの大声で叫んでいた。
エリアにそんな純粋な思いを向けられるほど、俺は出来た人間じゃない。
人よりよく見られたい一心で、自分を演じてしまう程の、愚かで滑稽な人間の一人だ。
俺は、ただ、それだけの人間なんだ・・っ。
「それでも、それが理由だとしても・・っ、真崎さんが私を助けてくれたことは事実です!だから今度は・・っ、今度は、私が真崎さんを助けたい・・!」
「俺を助ける?お前にそんな事が出来るとでも思ってるのかよ!?落ちこぼれと呼ばれてる奴が・・っ!」
一体、この辛辣な言葉はどれほどエリアを傷つけているのだろうか。
そう、心では分かっているのに止まらない、止められない、止まらない・・っ!
「確かに、私は落ちこぼれです・・。そう呼ばれてきましたし、自分でも分かっているつもりでいます。だけど、私は・・・っ、落ちこぼれでも誰かを助けられる天使になりたいと思っています・・!」
「えり・・あ・・。」
そう、胸を張って宣言したエリアの背中には白い翼なんて見当たらなかったけれど、俺には確かに彼女の背中には見えない翼があるような気がした。




