少女と彼
「真崎さん、体の方は大丈夫でしょうか・・・っ?」
そわそわと心配げに俺の横を歩くエリアの顔色は未だすぐれない。
よっぽど俺が木から落ちた事がショックだったんだろう。
・・・・だが、俺はどういうわけか全くの無傷で、むしろぴんぴんとしている。
当の俺は全く大丈夫だったのだが、口をぽかんと開けて、いつの間にかすっかり泣き止んでしまっていた少年も心配そうな目で俺とエリアが公園から出ていくのを見送ってくれた。
少年に風船を渡したのはいいものの、「お兄ちゃん、大丈夫・・・?」だなんて言われるものだから、思わずこちらが拍子抜けしてしまう。
とりあえず、少年の助けにはなったと思うものの、エリアの背中、というかどこにも変化は見受けられず、結局今回もゴールにはたどり着かなかったんだという事を思い知らされる。
「今回も残念だったな。お前だって早く天界とやらに帰りたいんだろ?」
「えっ・・・?そ、それは・・・・・・っっ。」
なんだか歯切れの悪い受け答えしか出来ないエリア。なんだよこいつ。
実は帰りたくなんてないのか・・・?
「もしかして、お前・・・帰りたがってないのか?」
「そういうわけじゃないんです・・・っ!ただ、ここにいるのはとても、とても楽しくて・・・っ、それにま・・・・っ、ま・・・・、また来れる保証なんてないじゃないですか・・・!」
どこか赤みを帯びた顔をしながら、必死にエリアは俺にそう告げる。
そりゃまぁ、確かにまた来れる保証なんてどこにもないよな。
元々こいつは間違ってここにきたわけだし。
だいたい天使だの何だの言い出すのはおいといて、こいつはその外見からどうしても日本では目立ちすぎる。
天界のお偉いさんもよっぽどの馬鹿じゃない限りこんな目立つ奴をわざわざまたこの町に送り込んでくることはないはずだ。
・・・・まぁ、俺としてはそちらの方がずいぶんと平穏なわけだが。
「案外、お前ここが気に入ってるんだな。特に何かあるわけでもないのに。」
「そんな・・・ッ!真崎さんもそのお父様とお母様もとても私によくしてくれているじゃないですか・・・っ!」
「俺の両親はおいといて、だ。俺がお前に良くしたことなんてあったかよ?」
まぁ、父さんと母さんはあんな感じだから確かによそ者のエリアにだって優しくしただろうさ。
だけど、俺はエリアに一度だってわかりやすい優しさを見せてやったことはないはずだ。
今まで俺がエリアにしてきたことは、ただの自分の保身のため。そして、少しの同情心。
ただ、それだけだ。決して、優しさなんかじゃない。
それを・・・・っ、こいつは・・・・なにを勘違いしてるんだよ・・・・。
「どうして、ですか?真崎さんはとっても優しい方です。今だって真崎さんの徳にもならない私の修行に付き合ってくれているじゃないですか・・・!私は、真崎さんに今までここに来てからとても助けられたと思っています・・・っ。」
違う、違う違うちがう・・・・・っ!!なんで・・・っ、お前はそんな風に笑うんだ・・・っ!
人を疑うことなんて知らない純粋な瞳で俺を見つめて、どうしてそんな聖母のような瞳でこんな俺に微笑んでくれるんだよ・・・・!
俺は、体裁を気にする奴で、何よりも自分の事が大事で、人の事なんて気にしない、お前にだって酷い考えや言葉をぶつけた事があるかもしれない。
今だって、俺はただエルアに、お前の姉に頼まれて、我が身可愛さに仕方なく付き合ってやっているだけなんだ。
それなのに、エリアは、俺がエリアの為に善意で行動していると、そんな馬鹿げたことを信じているのか・・・?
・・・そんな目で、俺を見つめないでくれ。
全てを包み込むような暖かな眼差しで俺を見つめないでくれ・・・・っ!!
エリアの、汚れのない澄んだ瞳を見つめていると、ふいに何故か泣きたくなった。
「なぁ、お前。俺の家わかるな?一人で帰れるだろ?」
「え、あ、はい。多分大丈夫だと思います・・・けど・・・。」
「なら今すぐ一人で帰れ。俺は寄るところがあるんだ。」
「ちょっ、ちょっと真崎さんっ!!?」
焦るエリアの声を無視して、俺は行くあてもなく走り出す。
曇り始めた空は、突然の雨の訪れを俺達に告げていた。




