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空からの落としモノ  作者: 紫音
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少女と公園

・・・・・・エリアとななみが事実上の友達となってから、早くも三週間が経過した。

爽やかな青空が見える事が多かった五月と違って、時はじとじとと湿気の多い陰鬱な六月へとすでに移り変わっている。


騒がしい天使に色々と邪魔をされた事を除けば、なかなかの点数だった中間テストの期間を経て、俺達は再びエリアの修行もとい人助けを再開することに決めた。


ななみに会いに、俺が必死に勉強している間もエリアはちょくちょく出かけていたみたいだが、さすがにテスト期間中はななみの邪魔をするわけにもいかず、家にいる事が多かったエリアは久しぶりに外に出かけられるという事ですこぶる嬉しそうだった。


「二人で出かけられるだなんて、ほんとうに久しぶりですね、真崎さんっ!」


「ああ、そうだな。まぁテスト期間だったし仕方ないだろ。」


「そうですね、やっぱり真崎さんのお勉強は大切ですし・・・。でも、ようやく我慢した甲斐がありました、えへへ。」


嬉しそうにはしゃぐエリアは、華麗にスキップをして、踊るように歩を進める。

そんなエリアの様子に思わずこっちまで笑顔になってしまいそうだ。


「で?今日はどこへ行きたい?」


にやけを必死に自制しながら、俺は努めて冷静を装い、エリアにそう尋ねる。


「えーっと・・・人通りが多いところがいいです。」


「人通りが多いってもなぁ・・・・。ここは都会でもなんでもないわけだし。」


「んー・・・それじゃあ私公園に行きたいです!」


「公園?でもこの前ななみと会った公園は一番寂れてるところだぞ。」


「え?そんなに公園ってたくさんあるんですか?」


「まぁな。第一、第二、第三公園といって三つの公園がこの町にはあるんだ。で、この前ななみと待ち合わせしたところが中心部から離れている第三公園。」


「ということは第一公園が一番人が多いという事ですか・・・?」


「そう、正解。たいていあそこの公園はいつも誰か人がいるな。」


「じゃあそこに行きませんか?」


「そうだな。まぁそんなに遠いわけでもないし・・・。」


「また新しい場所に行けるんですね!私、ワクワクしてきましたっ。」


いつも以上に積極的で、テンションの高いエリアを連れて俺は第一公園へと向けて足を進め始めた。





 「うわぁ・・・っ!すごい!人がいっぱいいますね・・・っ!」


今日は日曜日ということもあって、第一公園はエリアが驚くのもうなずける程、たくさんの人で溢れかえっていた。


木陰で休憩をしている、散歩の途中だろう飼い主と金色の毛並みを持つ大型犬と、きゃっきゃっと楽しそうに騒ぎまわっている子供たち、ベンチで仲良く腰掛けている老夫婦。


様々な年代の人が憩いを求めて、ここに集ってきているようだ。優しく、穏やかな時間がこの公園内部には流れているような気がした。


・・・ふと、その平穏には相応しくない、激しい子供の泣き声が俺の耳に飛び込んできた。

それはエリアも同じだったようで、不安げにそっと俺の顔をうかがっている。


「一体、どうしたんでしょうか・・・?」


「さぁな。とりあえず行ってみるか。」


「はいっ。」


俺達が声のする方へとその声を頼りに近づいていけば、そこには何処かで貰ったんだろう、鮮やかなオレンジ色の風船を誤って手放してしまった事によって泣きじゃくる小さな男の子の姿があった。


「あの、大丈夫ですか・・・っ?」


慌てて、少年に駆け寄るエリア。そんな子供にも敬語で話しかけるところがなんともこいつらしい。


「ふうせんがっ・・・・ふうせんがぁっ・・・・うぅっ・・・・うわぁあああぁぁぁああん・・っ!!」


子供の高さでは到底届かない、いや俺やエリアでも無理だろう、相当の高さの木の枝に風船の持ち手である白い糸が上手いぐらいにひっかかってしまっていた。

少年も自分ではどうしようもない事が分かっているのか、一層甲高い声で泣き喚き始める。

・・・・しかし、あれじゃあ木に登りでもしない限り、何とかできそうはないよな・・・。


「真崎さん・・・・っ。」


どうしましょう、と言葉にこそ出しはしなかったが、不安げなエリアの表情からこいつがそういった事を伝えたがっているのは簡単に理解する事が出来た。


・・・・だけど、俺も木登りなんてろくにした事なんてないしな・・・。

でも、エリアだって木に登るという行為自体そもそもした事がない可能性が高い・・・。

・・・・・とすると・・・・。


・・・・っ、ああ俺は一体いつからこんなお人よしになってしまったんだろうな!?

気がつけば、俺は木にしがみつくような格好をして、少しずつ目的の枝が生えている木の上部を目指していた。


・・・本当に、エリアが来てから調子を狂わされてばかりだと思う。

自分の意思と反して、身体だけが勝手に動いているような錯覚を嫌でも覚え、俺の中にもう一人の俺がいるかのような感覚がし、なんだか自分でも不思議な気分だ。


だけど・・・・全ては俺の思い違いに決まっている。ということは、俺は自分の意思でエリアを助けたがっている・・・・?

・・・っ、いや、違う。俺はエリアの姉であるエルアに怯えてエリアにつきあっているだけに過ぎないんだ。

そう、俺が率先して動けば、エリアも早く・・・天界とやらに帰ってくれるかもしれない・・・っ。


頭がごちゃごちゃになりながらも、俺の身体はそれなりに一定の動きを繰り返してくれたようで、目の前にオレンジの球体が不意に現れた。


・・・・どうやら、いつの間にかかなり高い位置まで登ってくることが出来たらしい。

だけど、やはり頭を別の考えでいっぱいにしていたせいだろうか、その絡まった糸をぐいっと掴んだと思ったその瞬間、ぐらり、と身体のバランスが崩れてしまう。

右手には握り締めたままの風船、だけど、このままいけば俺は頭から崩れ落ちてしまう・・・っ!?


こんなはずじゃない・・・・っ、こんなはずじゃなかったのに・・・・っ!

どうすることも出来ないまま、崩れた体勢のまま、俺の身体は固い地面へと真っ逆様に急降下する。


最悪、打ち所が悪かった場合の事を考えると・・・・っ、どうしようもない不安が止まらない・・・・っ!!

襲い来る衝撃に備え、きゅっと固く目を瞑った。


・・・・・瞬間、ふわりと身体が優しい風によって包まれる。

そして、激しい痛みはいつまで経っても俺に襲いかかる気配はない。

俺が恐る恐る目を開いてみると、どういうわけか俺の身体は何処からか吹きぬけてきた風によって、無傷のまま、地面に横たえられていた。


「真崎さん・・・・っ!!」


顔面を蒼白にして、エリアがたたたっと慌ててこちらに駆けてくるのが分かる。


「大丈夫ですか・・・・っ!!?わたし、どうすることもできなくて・・・っ。」


ふるふると震えて、自分の無力さに打ちひしがれている様子のエリア。

・・・と、いうことは今のはエリアの仕業じゃない・・・・?


そういえば、エリアが俺と初めて出会った時の事を語ったとき、こいつはこう言ってなかったか・・・?

優しい風に、助けられた、と。

・・・俺と、エリアを助けたのは同一人物なのか・・・?

エリアと同じ容姿をした六枚の翼を持つ天使の姿が、ふと俺の脳裏をよぎった。


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