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空からの落としモノ  作者: 紫音
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少女の笑顔

そして、エリアのように俺も逃げたかった退屈で退屈で仕方ない授業を経て、俺はようやく待ち合わせの公園に辿り着いていた。


・・・あのお騒がせ天使が無事にここに辿りついているのかどうかという保証がなかったことが何より心配だったが、公園の噴水近くに明るい金髪のツインテールを見つけることが出来て、俺はひとまずほっと胸を撫で下ろす。


エリアもそんな俺を発見できたようで、こちらに凄い形相で駆けて来る。

・・・・・なんだ、こいつ・・・泣いてる?

彼女の涙を視認してぎょっとしたのもつかの間、更に度肝をぬかれる出来事が俺を襲った。

エリアが俺の胸にダイブしてきて、その手で俺の制服をぎゅっと握り締めたまま、俺の胸の中で小さく肩を上下させている。


「まっ・・・まさきさんっっ・・・・わたし、わたし、まよっ・・・迷っちゃいましたぁっ・・・・・・。」


・・・ああ、やっぱりか・・。どうやら俺の悪い予感は的中してしまったらしい。


「まさきさんのがっこうひろくて・・・っ、すごくひろくて・・・でぐちがわからなくて・・・・っ、誰にもきけないし・・・・っ、まさきさんもいなくなっちゃうし・・・っ、どうしようかとおもっちゃいましたっ・・・・・・・。」


えっえっ、と肩を震わせながら嗚咽を漏らすエリア。どうやら迷子になったことがよっぽどこたえたらしい。いつもにましてしおらしい様子のエリアに、不覚にも胸がときめくのを感じる。


・・・ああ、この状況で俺は一体どうしたらいいんだ・・・!?

ここでエリアを強引に引き剥がすのもそれはそれでどうかと思うし、かといってここでエリアを抱き締めるのも正しい選択とはいえない・・・気がする。


大体こんなところで抱きあってなんていたら、傍目から見れば恋人同士にしか見えないだろうし・・・・・・。

冷静を装いながら、俺の内心は全く穏やかではなかった。心臓がバクバクと跳ねる。


「えり・・・あ。」


俺の問いかけにも彼女は答えず、ただただ泣きじゃくり続ける。抱きしめる事も出来ないまま、半端に宙を漂っている俺の右手が不意にエリアの黄金色の髪に触れる。

それは、見た目どおりに滑らかな感触をしていた。


・・・・そのやわらかい優しさをもう一度手にしようと、無自覚に俺の手はエリアをの髪を求めようとする。


本当は自覚していたのに認めたくないだけだったのか、どうなのか・・・・俺の右手は俺自身がエリアを包み込むような形で、そっとエリアの頭に添えられる。


結局俺は、俺達はこの人気のない公園で抱き合ってるという何とも信じがたい事態に陥ってしまう。


華奢なエリアの身体は、抱きしめてみると、本当に力をこめれば折れてしまうんじゃないかというくらい、細くて、そしてやわらかい。

なんだか彼女の身体からどこか甘い匂いも漂ってくるような、そんな錯覚まで覚えてしまって、俺は頭の奥がくらくらと麻痺するような気がした。


・・・・・その時、じーんと痺れた頭の隅で、ある少女との約束がふと思い出された。

笹川ななみ・・・・。そうだ、あの少女は・・・・。


頭を左右に動かして、きょろきょろと注意深く辺りを見回してみれば・・・・。

笹川ななみはそこにい た。

噴水の後ろの、ちょうど俺達の死角となる場所から少し顔を覗かせて。

信じられないようなものを見るような目で、彼女は俺達を見ていた。


「エリア・・・・っ!おい、エリア・・・!」


ゆさゆさと肩をつかんで乱暴に揺れ動かしてやれば、さすがのエリアも正気に戻ったようで、未だ涙の跡が残っている目をこすりながら、何があったのかと俺の顔をじっと見つめる。


「ふぇ・・・?あ・・・・っ、真崎さん・・・・っ。」


ようやくさっきまで自分がしていたことと、こんなに俺達の距離が近い理由に気付いたのか、エリアは今までで一番顔を真っ赤にして(その姿はさながらプチトマトだ)、俺の前から物凄い勢いで後ずさりしてしまった。

妙な誤解を解くため、その隙を利用して、俺は慌ててななみのもとへと走り寄る。


「ごめん、笹川さん。あの・・・変なところを見せちゃったみたいで・・・。でも、今のはあいつが泣いていたから慰めようと思っただけで・・。」


我ながら苦しい言い訳だとは思うが、それが俺の本心なのだからそう言うより他はない。


「な、ななみちゃん・・・・っ!すいません、気付かなくて・・・。もうこちらに着いていらしたんですね・・・!お会い出来て嬉しいです。」


不躾にも突然こちらへとやってきたエリアは唐突にななみの手を両手で握って、ぶんぶんと上下左右に振る。


それほど嫌でもないのか、突然の出来事に対処できないのか、ただただななみはされるがままになっていた。


俺が変に誤魔化すよりも、エリアのようにお気楽に振舞っていた方がこういう場合は案外いいのかもしれない。(まぁ、こいつの場合は深く考えずに、素でやってるんだろうが)


「あの・・・あなた・・・・は?」


「あ、ご紹介が遅れました!私はエリアと申します。今は真崎さんの家でご厄介になっているのですが、真崎さんからななみちゃんの話を聞いて、ぜひお会いしたいなぁ・・・って。」


「どうして・・・・ぼく、なんかに・・・?」


おそらく自信がないのだろう。わざわざ自分と会ってみたいなとどという特殊な奴がいるなんて、きっとななみの想像の範囲外だったのだろう。


「私も、ななみちゃんと似たようなところがあったので・・・・。」


「似たような・・・ところ?」


「私も、昔は人と仲良くすることが、苦手だったんです。自分はどこか他の人と違う・・・。そう思ってしまっているから、よけいに。」


エリアがそうぽつぽつと語り始めたその時、ななみがはっと息を呑むのを感じた。

千切れそうなくらい力強く、ぎゅっと今も持ち合わせている「シンデレラ」と表題された本をななみはぎゅっと握り締める。


「ななみちゃんの手に持っているその本は、シンデレラですよね・・・?突然の奇跡によって幸せを得る少女のお話・・・・。ななみちゃんは、いつかその奇跡が自分にも起こると信じているのではありませんか・・・?」


「ぼ・・・・くは・・・・。」


ふるふると震えだすななみの身体。彼女は、俺達に何を伝えたいと言うのだろう。ぱくぱくと金魚のように開閉を繰り返すその小さな口からは、何も言葉が紡がれる事はない。


「私も、そうだったんです。人とは違って、落ちこぼれと言われるような私にも、いつか・・・奇跡が起こるんじゃないか・・・って。でも、いくら待っても・・・奇跡は、起こらなかった。」


瞬間、ななみの身体がびくりとより一層大きく震える。それは、自分の信じていた幻想を打ち砕かれた、悲しみからか驚きからか・・・彼女は誰の目から見ても明らかな程動揺していた。


「それでも、私は今を楽しく生きています。奇跡は起こらなかった・・・だけど、私はある人のおかげで、今の、人を恐れなくてもいい私になれたんです。」


「ある・・・人・・・?」


「はい。その方は今はとても立派な方になられているんですけど、昔は私と同じような境遇を過ごされてきた人でした。奇跡を願ってはいても、いつまでも変わらない毎日に嫌気がさした私は無理を承知でその人に会いにいきました。」


過去を語り始めたエリアの顔には、いつしかほんのりと笑顔が浮かんでいた。

俺自身も、エリアの過去を聞くのはこれが初めてだし、何もかも推測するより他はないのだが、きっとエリアにとってその過去は、決して悲惨で陰鬱なものではなかったのだろう。


「その方は、私の話を親身になって聞いてくださいました。ある時は自分の過去の経験を語って、ある時は私に的確なアドバイスをしてくださって・・・・。同じ思いをした人がいる事を知り、私は一人では無いということに気付きました。私は、その人にとてもとても・・・助けられたんだと思います。だから・・・その・・・私がそうであってように、今度は私がななみちゃんを助けてあげたいなって思って・・・。迷惑、かもしれないですけど・・・。」


おどおどと恐る恐るエリアを見つめるななみ。対してエリアもこれはおせっかいだったのではないかと不安げな視線でななみを見つめる。

やはり何処か似ている部分があるんだろう、そんな二人がどちらも恐る恐る相手の様子をうかがいあっているのは、傍観者の俺からしてみるとばそれはそれでおもしろい光景だった。


「めいわくなんかじゃ・・・ないです・・・・。」


最初に言葉を発したのは、ななみの方だった。


その言葉を聞いて、少しエリアの表情が和らぐ。


「ぼくのこと・・・そんな風に言ってくれる人がいるだけでも嬉しいです・・・。今まで、ずっと一人ぼっちだったから・・・。」


「でも、もう一人なんかじゃないです。私と、真崎さんがいますから。」


・・・・・え?今、こいつはなんて言った?ワタシトマサキサン・・・?

エリアとななみが似たもの同士、仲良くする分には構わないが、その中に俺を混ぜられるのは断固御免だ・・・!


「おい、エリア・・・・っ!」


「真崎さんは少し黙っていて下さい!」


普段の彼女の物言いとは違って、ぴしゃりと言い捨てるその迫力に、俺は不覚にも少し圧倒される。

その姿に、やはりいくら似てないとはいってもエルアとエリアは姉妹なのだと俺は改めて認識させられる。


「・・・私は日本出身ではありませんから、いつか自分の国に帰らなくてはならない時が来ると思います。でも、その時まで私の友達でいてもらえますか・・・?」


ななみは、きっとそれが彼女の最大限なんだろう、どこかぎこちなさが残る笑顔で、嬉しそうに笑って見せた。


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