少女と練習
エリアが全身を上手く隠す事が出来るように練習を始めてからとうに一週間が経過した。
その練習の合間に二人して町に繰り出して、ただ単に自分たちの自己満足で完結してしまっているのかもしれないが、大体十人前後の人を助け出したような気がする。
しかし、エリアの身体には依然として何の変化も見受けられない。
つまりは、まだスタート地点からゴールには辿り着けていないってわけだ。
三度目の正直として、三人目にはかすかな希望を持っていたんだが、迷子の犬を飼い主にしっかりと渡した後も、エリアの背中には白い翼なんて生えてきやしなかった。
そもそも、町中で困っている人を見つけるという事自体がそもそもの難題なのであって、それこそ助けを求めていそうな人を見つけるのがなかなか骨の折れる仕事だった。
そりゃこのご時勢、誰かに助けて欲しいと考えている人なんて山ほどいるに違いないんだが、まだ高校生である俺と、落ちこぼれ天使のエリアにできる事なんてほとんど無いに等しい。
そういった事情もあって、なかなかエリアの修行とやらは終わりが見えない状況に陥ってしまっているのだった。
なんとかその事態を打破するために、こういうのは身近な人間もカウントされるのかはわからないが、とりあえず父さんと母さんにもそれとなく協力してもらう事になった。
エリアには母さんの家事を手伝わせ、父さんには怪しげな研究成果の整理を申し出た。
二人ともなかなかに満足してくれたようで、助けになるはなったはずだが、それでもやっぱり一向にエリアの翼は生えてこない。
そもそも翼が生える事自体ありえない話だし、どうしてもこの外国人姉妹に騙されているような気がしてならないな。いつの間にかうっすらと天使なんてものの存在を信じそうになってしまって、ああ、あんなに現実主義者だった俺はどこにいってしまったんだか・・・・!
しかし、このままエリアの修行とやらを放置してしまうとあのどういうトリックだか分からない不可解な技の数々を操るエルアに俺の命を狙われそうで、それが非常に厄介だ。
あの姉の存在がなければ、俺も適当な事をいってずっとエリアを誤魔化したまま修行なんて放置してやるところだが・・・・・そうは上手くいかないのが不運なところだよな。
鬱々とした気分のまま、学校から帰宅して自室のドアをゆっくりと開いた。
「お邪魔しています、野元真崎。」
ドアを開いた・・・・・・ら、俺の憂鬱の元凶が普通に人の部屋でくつろいでやがった。
「お前・・・・っ、エルア・・・!?なんでここに・・・っ。」
「あの・・・、私が呼んだんです。」
「私とて暇ではないのですが、可愛い妹の頼みとあっては断れないでしょう?」
「いや、そもそもここは俺の部屋だからな。ここへ来る前に俺に一言了承を取るべきだろ!?」
「ですからお邪魔しますと言ったわけですが?」
つん、と澄ました態度で俺にそう言い捨てるエルア。
妹の方は愚直で騙しやすいことこの上ないが、姉の方はというとそうはいかないようだ。こういったタイプは扱いにくいんだよな・・・・・。
「で、何しにきたんだよ、エルア。」
「妹に目眩まし(コード003)を鍛錬しろと言ったのは貴方でしょう。それで、わざわざ私が教えに来ているというわけです。」
「なんだよ、そのコードっていうのは。」
「コードというのは我らが操る天使術の総称です。習得しやすいものから準に番号がついている事になっています。それで、今妹が練習しているのがコード003目眩ましですね。」
「で、天使術とやらはどれくらいの数があるんだ?」
「それはお答え出来ません。貴方には関係の無い事ですから。ただ、膨大な数があるのは確かですね。その天使術の豊富さが我らの人智を超えた力の象徴となってますから。」
「て、ことは何だ?お前の妹はその膨大な数の内のたった三番でつまずいているって事かよ・・・。」
「言い返したいのはやまやまですが、返す言葉もありません。」
エルアははっきりとは肯定しなかったが、暗にそうだと認めた。
ああ、あぁなるほど。俺にもようやく身をもってエリアの落ちこぼれさ加減がわかってきたぞ。
しかし、そんな初歩でつまずいてるくらいじゃ、天使なんて怪しげなものを目指さないでおく方が身のためだとは思うがな。
ぼんやりとそう思っていたら、途端にエルアがキツイ眼差しで俺を睨む。
・・・・ああ、そうだ。忘れてた。こいつは妹とは違って心が読めるというまためんどくさい能力を有しているんだった。
「全く貴方という人は・・・・。我ら天使と呼ばれる存在は、他の何者にもなることを許されてはいないのです。天使という存在として生まれ、天使として消えゆく・・。たとえ、この子がどんなに落ちこぼれであっても、エリアには天使を目指す道しか残されてはいません。」
「そりゃまた大層なことで・・・。でもお前らそんな人生で楽しいのかよ?自分の意思なんてこれっぽっちもないじゃないか。」
「我らの意思など些細なものでしかありません。全ては我らが仕える神のために。神の使徒として生きることが、我らの喜びでもあり使命でもあります。」
・・・・うわ、とんでもなく酷いカルト臭がするな・・・・。俺はこういうの苦手だと何度言ったら・・・・。
「わかったからそういう話は止めてくれ。とにかく、お前の妹を人並みになんとかしてやって欲しいんだ。このままじゃおちおち外にも出られないだろ?」
「・・・・まぁ、確かにそれは一理ありますね。翼が無いとはいえ、エリアの外見はここ一帯では目立ちすぎるでしょう。それではエリア。練習を続けますよ。」
「えっ・・・・も、もう少し真崎さんとお話しててもいいんじゃない・・・かな?」
エルアに睨まれた事で完全に目が泳いでしまっているエリア。何とか自分から話題を逸らそうと必死になっている様子が窺える。
「駄目です。もう充分に話終えました。さぁ、早く。準備をしなさい。」
「はーい・・・・。」
姉にはやはり逆らえないのか、渋々と姉の言う事に従う妹。
そうして、スパルタである姉と落ちこぼれである妹の壮絶な特訓は優に深夜にまで及んだのだった。




