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空からの落としモノ  作者: 紫音
14/33

少女とおはぎ

 「真崎さんっ、あれ・・・・・!」


エリアと一緒に学校から家に帰る途中、エリアがいきなり大声で何かを指差す。

エリアの指差した方向を見てみると、そこにはよろよろと横断歩道を渡ろうとする荷物を抱えた老婆の姿があった。


荷物が重いのか、よたよたと歩く老婆の歩調は遅く、このままでは明らかに信号が赤に変わりきる前に渡り終えられそうにない。


「なぁ、エリア。あの婆さんを助けても助けた人数にカウントされるのか・・?」


「あ、はい。多分・・・。」


とりあえず老婆を横断歩道の向こう側に持っていければいいんだろう。

しかし、エリアの細身の身体ではあの重量のありそうな荷物を婆さんから受け取ったところで、同じように荷物を持つので精一杯になってしまうんじゃないだろうか。


・・・ということは、この場も男である俺がなんとかしないといけないってわけだ。


「お前はここで待ってろ!」


「え、あっ・・真崎さんっ・・・・!?」


信号機がちかちかと点滅しはじめても、老婆はまだ必死に横断歩道の半分辺りのところで歩き続けていた。


信号が赤に変わる前にと、エリアをその場に残して、全速力で老婆のもとに駆け寄る。


「お婆さん、荷物を貸してください。僕がお持ちします。」


「ああ、すまないねぇ。」


嬉しそうにぺこりと頭を下げた老婆は、先程よりかはいくらか軽い足取りで、また懸命に向こう側を目指し始める。


老婆に受け取った荷物は確かに軽くはなかったが、これくらいならなんとか俺一人でも大丈夫そうだ。


俺もなんとか老婆の傍に寄り添い、車側の信号が青になる前には、俺たち二人は無事に向こう側に渡ることが出来たのだった。


「はい、荷物をお返しします。大丈夫でしたか?」


「ええ、本当にありがとうねぇ。」


「家までお送りしましょうか?その荷物、男の僕からしてもかなり重たいものでしたし・・。」


「でもそんなの悪いもの、私が頑張ればすむことだから・・・。」


「でも・・・・。」


「真崎さーん・・・・っ!」


この人をこのまま帰してもいものか考えあぐねている時に、背後から近づいてくるエリアの声。

どうやら信号はまた青に変わったらしい。


「あら、お友達かい?」


「はい、まぁそんなとこです。」


別に友達でもなんでもないんだが、今はそう言っておくより他はない。

一目散にこちらに駆けてきたエリアは、俺と老婆の傍でぴたりと立ち止まった。


「良かった・・・。二人とも無事だったみたいで。」


まぁ、俺も大丈夫だろうとふんでいたからわざわざ自分から飛びだしていったわけで。

リスクの高いことに自分から首を突っ込まないというのは俺のこの不運な人生の中で何度も学んだことだった。


今回だって勝算があったらそうしただけに過ぎないんだが、エリアは俺たち二人が何事もなかったことに心底安心したようだ。


「お嬢ちゃんにも心配をかけてしまったみたいだねぇ、私がもたもたとしていたばっかりに・・・。」


「そ、そんなっ、私が勝手に心配していただけですから・・・・っ。気にしないでください!」


「本当にありがとねぇ。すっかり助かっちゃったわ。でも、あなた達はもう行きなさい?ここからは私一人で大丈夫だから。」


そう言って、荷物を抱えなおした老婆の身体は明らかにふらついていて、俺らに迷惑をかけないようにと強がっているのは明白だった。


「遠慮しないでください!私もお手伝いしますから・・・・っ。」


エリアにもその老婆の様子が伝わったのか、ぐいっと老婆の抱える荷物の取っ手を掴む。

翼を手に入れるため、というよりは本来元々エリアをこういったことを見逃せない奴なんだろう。


肝心の老婆も、こんなに強く言われるとは思わなかったようで少し困ったような表情を浮かべている。

しかし、その困惑した表情もすぐに優しげな笑みに変わってしまった。


「なら、悪いけどお願い出来るかい・・・?本当にすまないんだけどねぇ。」


「はい!もちろんです。」


そう言って、エリアは老婆から結構な重さの荷物を受け取る。


「おい、お前持てるのか?」


「だって・・・真崎さんにばかり持たせたら悪いですから・・っ。私も何かしないと・・・。」


「そうか。まぁ、無理はするなよ。」


「はい。ありがとうこざいます。」


天使とやらの握力がどれくらいなのかは知らないが、見た感じ筋肉質な体つきではなさそうなエリアが、この何が入っているのかわからない荷物を持つことはそれなりにこたえるに違いない。


それでも、こいつは馬鹿みたいにまたあの穏やかな笑みを浮かべるのだった。


「あの、これをどちらに運んだらいいのでしょうか?」

「ああそうだったねぇ。悪いけど息子たちの家にそれを届けて欲しいんだよ。道案内はもちろん私がするから。」


「わかりました。それで、この中身は?」


「おばぎだよ。息子の好物でねぇ・・・。はじめは私一人で持ち運べる量を作るつもりだったんだけど、どうも作りすぎてしまってね。」


どうやら荷物の中身はずいぶんと意外なものだったらしい。

・・・・というかこの重さでおはぎって。

この婆さん一体どれだけ作ったんだよ・・・・・。


「おはぎ!?わぁ、私おはぎって初めてなんです。」


「あら、そうなのかい?もしかしてあなた外国の方かね?その髪の色は日本人じゃなさそうだし・・・。」


「はい、実はそうなんです。最近日本に来たばっかりで。」


「あら、それじゃあずいぶんと感心な子だねぇ。異国に来たばっかりでわざわざこんな婆さんを助けてくれるなんて。」


「いえ、そんな・・・っ。私がしたからったらそうしただけの事で・・・。」


「ずいぶんと謙虚なんだね。ますますと気に入ったよ。良かったらうちに上がっていかないかい?きっと息子たちも喜んでくれるよ。」


「えっ・・!?そんな、でも悪いです・・。」


「気にすることはないよ。こんなにいろいろと良くしてくれたんだもの。私の方はずいぶんと助かっちゃったからねぇ。ああほらあそこが息子の家だよ。」


老婆が指差した場所にみれば、そこにはいたって平凡な一軒家が建っていた。

どうやらあの横断歩道からさほど遠くない場所に位置していたらしい。

この距離なら老婆が俺たちの助けを断ったのもなんとなくわかる気がするな。


老婆が玄関のチャイムを鳴らして、俺とエリアとは反対側の方向を向いている時に、エリアはちらちらと俺の顔と老婆の荷物とを見比べる。


それは何かエリアの意思表示だったらしく、いつまでも理解しない俺に痺れを切らしたのか、エリアは荷物を抱えながら、とてとてと俺の方にそっと近づいてくる。


「耳、耳を貸してください。」


耳を傾けるよう俺に指示したエリアに従って、エリアの方に耳を近づけてやる。


「あの・・・おはぎ食べたいです。」


いったい何を言うのかと思えば・・・・。この期に及んでおはぎが食べたい、だって?


さっきは遠慮していたくせに、内心では多分エリアはずっとおはぎの事を考えていたのだろう。


よく考えてみれば、こいつは昨日も今日の朝も食べ残しもせず、むしろ図々しくもおかわりを要求してたいたくらいだからな・・・・。

ずいぶんと食い意地がはっているようだ。


「なら、さっき婆さんの誘い断らなきゃ良かっただろ。」


「や、でも・・・。日本人はこういった誘いは一度断るのが美徳とされるんじゃないんですか?」


どこで聞いた知識だかは知らないが、まぁ案外的は射ているような気がする。

まぁ、俺の場合は魅力的な誘いは即座に受け入れるんだがな。


「でも多分このままだと婆さん俺たちを招きいれてくれそうな感じだぞ。とりあえずお前は黙ってにこにこしとけ。」


「あ、はい。」


そう言って、満面の笑みを浮かべるエリア。

・・・・・なんだかこいつってとっても単純だ。

エリアのあまりの操作のしやすさに少々拍子抜けしながら、じっとその場で立ち尽くしていると、ようやくその家のドアが、がらりと開いた。


「あら、お義母さん。どうなさったんですか?」


「おはぎを作ったんだけど作りすぎちゃってねぇ・・・。」


「あら!ありがとうございます。きっとあの人も喜ぶわ。・・・そちらの方は?」


「私が横断歩道でもたもたしていたところを助けてくれたんだよ。ここまで荷物も運んでくれてねぇ。それで、おはぎをこの子達にもふるまおうと思うんだけど、いいかい?」


「ええ、それはぜひお礼をしなくてはいけませんね!さぁさ、どうぞどうぞ。」


「え、いいんですか・・・?」


「ほら、お嬢ちゃんも遠慮しないでいいんだよ。私達がいいって言ってるんだから。」


「それじゃあお邪魔します。」


「まっ、待ってください真崎さん・・・っ!」


さっさと家に上がろうとする俺を驚いたような目で見つめて、なんとかおいていかれないようにと、エリアも急いで俺の後をついてくる。

おはぎ食べたいなんてぬかしていたくせに、まだ心のどこかで遠慮する気持ちがあるらしい。

こんなものはさっさと上がってしまわないと、ずっと押し問答が続いてうっとうしいだけなのにな・・・。


ずんずんと老婆と嫁だろう女性に続いて進んでいく俺の後ろから、一歩遅れてエリアをおどおどと足を進める。


そうして、辿り着いた場所は日本の典型的な和室だった。床はもちろん畳で、部屋の真ん中には大きな木のテーブルが置かれている。

そのテーブルにはもうすでに小さな子供(多分孫なんだろう)がきちんと正座しておはぎの到着を待っており、俺たちもその周りを囲むように順々に座っていく。


まぁ、そりゃもちろん床が畳となりゃ日本人はたいてい正座なわけだが、いちおうは外国人に分類されるんだろうエリアはきょろきょろと不思議な座り方をしている俺たちを見比べている。


「ああ、お嬢ちゃんは外国の子だものね。正座を知らないのかい?」


「せい・・・ざ・・。はい、聞いたことはあるんですけど・・・・。」


今まで覚えてきた言葉の羅列を必死に思い返しているんだろう、少し目が泳いでいるエリアは戸惑いながらもそう答える。


「あら、外国から来たの?」


「そうなんです。最近日本に来たばっかりで・・・。」


「それじゃあ正座を知らなくても仕方ないわね。まぁ、言ってしまえば日本の文化みたいなものかしら?ですよね、お義母さん?」


「そうだねぇ。言葉で説明してみるのは少し難しいからとりあえず私たちの真似をしてみたらどうだい?」


「あ、はいっ。」


見よう見まねで俺たちの真似をして正座の格好をとるエリア。


「そうそう、その座り方を正座というんだよ。これから日本で暮らしていくんなら覚えておいた方がいいかもしれないねぇ。」


「わかりました。でもこれって足が痛くなっちゃいそうですね。」


「ほほほっ、私も昔はよく足が痺れたもんだよ。何事も慣れってことだね。」


エリアの予想通りの言葉に、老婆はころころと朗らかに笑う。


「さて、それじゃあそろそろおはぎを頂きましょうか。」


嫁である女性が老婆の抱えてきた鞄から包みを取り出し、机の上に広げてく。


なるほど、そこには確かにおはぎがぎっしりと詰まった一段のお重があった。

この場所には不在である老婆の息子の分なんだろうおはぎは脇へ退けて、嫁である女性はにこりと笑った。


「あなた達が来てくれたからおはぎはあまらないですみそうね。」


「作りすぎたとは思っていたけど、結果的にはうまくいったみたいだねぇ。さあ、遠慮しないでどんどん食べておくれよ?」


そう言って、老婆が自分の目の前に広がっている重箱を指差してみても、エリアは物欲しそうな目でそれを見つめながら、決して手を出そうとはしない。


このエリアの姿と好物を前にして待ての命令をかけられた犬が脳裏で不意に重なって、少しの憐れみさえ覚えてしまった。

・・・・えぇと、とりあえずは「待て」の命令を解けばいいんだよな。


「ほら、食べたかったんだろう?せっかこうやって出してもらってるんだから遠慮した方が悪い。・・・ですよね?お婆さん。」


「ええ、ええ。それはそうね。余っちゃっても困るんだから。」


ようやく、あまり遠慮をしすぎるのも良くはないと気付いたのか、エリアはおずおずとおはぎの方にへと手を伸ばす。


「あの・・・それじゃあいただきます・・・っ。」


エリアに一番に食べさせたかったのか、エリアが恐る恐るおはぎを口に運んだのを確認してから、老婆は自分の分である一つ、嫁は自分と自分の息子の分であろう二つのおはぎをそれぞれ手にとる。結局、成り行きから俺が最後の一つを手にすることになった。


「・・・・・!おいしい・・・っ!!」


おはぎを両手でつかみながら、エリアは幸せそうに頬を緩ませて、感嘆の声をあげる。


「そうでしょう?お祖母ちゃんのおはぎはおいしいもんね?」


「うんっ!」


老婆の義娘にあたる母親が息子にそう尋ねれば、こちらも幸せそうに満面の笑顔で大きく首を縦に動かした。


「まあまあっ、そんなに喜んでもらえると私も嬉しいわ~。」


「でも、本当に美味しいですね、このおはぎ。これだけ作るのも大変だったんじゃないですか?」


自分の印象付けのためにどんな時でもお世辞は忘れないようにしておく俺だが、今回のおはぎはお世辞だとかそういうものではなくて、正直に美味しかった。こう言ってはなんだが、下手な和菓子屋なんかが作ったものよりは断然に美味しいものだと思う。


「大変は大変だけれど、みんなが喜んでくれると思うと全然苦にならないんだよ。」


そう言って、老婆は優しい笑みを顔に浮かべた。


「これがおはぎの味なんですね。甘くて・・・優しい。」


おはぎ・・・というかあんこもだろうか、食べた事が一度もなかったらしいエリアはしみじみと甘いおはぎの味に酔う。


「これがおばあちゃんの味なんだよー!」


今までもぐもぐとひたすらあんこを食していた孫がエリアの言葉に、急ににっこりと笑ってそう言葉を発した。

それを見て、微笑ましく笑う老婆と母親。孫とおはぎ談義に花を咲かせ出したエリア。

そして、それを傍観者として見つめる俺。


和やかな団欒の時は、俺たちからすっかりと時間の感覚を奪っていった・・・。


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