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空からの落としモノ  作者: 紫音
13/33

初めての修行

 時刻は午後三時四十五分。

携帯を眺めながら、俺はまだ一向に出て来そうにないある人を待ち続けている。


事の発端は綾人のしょうもない相談を受けてしまったことだった。


昨日、全くなんの役にも立たなかったエリアと綾人との話し合いの途中、綾人が俺に頼みこんできたことが、俺がこんなところ、つまり校門の前で待ちぼうけを食らっている直接の理由にあたる。

綾人の頼みごとをおおまかに言うとこうだ。


「告白をするために俺と綾人がこの前立ち寄った校舎裏のあの場所に秋桜美優を呼び出して欲しい。」


・・・・そんなもん自分で行けと思わずにはいられないが、お前の方が顔が良いからだとかそんなくだらない理由で、俺もあえなくこの告白劇に付き合わされる事となったのだった。


綾人の幼なじみであり、秋桜美優の親友でもある大崎(おおさき)美帆(みほ)が言うには秋桜は家の都合で部活動に参加していないため、放課後は一人で帰宅することが多いらしい。


というかそもそもそんな役に立つ情報をくれる幼なじみがいるんだからそいつに助けてもらえばいいと思うんだが、どうも綾人のプライドがそれを許さないようだ。


しかし、俺に頼んだところで何か話が好転するとも思えないんだが・・・まぁ、そこまで俺が考える必要もないだろう。


とりあえず、俺が頼まれたのは校舎裏に秋桜美優を連れて行く事だけ。

だから、さっきからじっと一つしかない出口で彼女を待っているわけだが、未だ秋桜美優は姿を現そうとしない。


しかし、俺のクラスはもうとっくにHRは済んだわけだし、(だから俺がこんなところにいるんだが)俺が誰よりも速くダッシュで教室を飛び出してから、もう数分は経過した。


放課後に何か用事があるっていうなら別だが、もうそろそろ校舎から出てきてもおかしくない時間だ。


現に、他の帰宅組はぞろぞろと列をなして校門から続く坂を下り下り(くだりおり)ている。


一体いつまで待たされるんだろうかという焦燥感をに駆られながら、時計がわりの携帯と何度目かのにらめっこを終えて、また再び校門の方へ目を向けると、ようやく背筋をしゃんと伸ばして凛とこちらに歩いてくる秋桜美優の姿を発見することが出来た。


校門付近に人がまばらであることを確認して、俺はそっと目立たないように彼女に近づく。


俺が自分の前に立ちふさがったことに気付いた秋桜は目をぱちくりと何度か瞬きを繰り返す。


「あの、何か・・・?」


「急にすまないんだけど、少し会わせたい人がいるんだ。今時間大丈夫かな?」


秋桜も鞄からさっと携帯を取り出して、現在の時間を確かめた後、小さくこくり、と頷いた。



 「あの、野元くん。会わせたい人って誰なのかしら・・?」

自分がいったい誰に呼び出されたのか皆目見当もつかない様子の秋桜は、少し首を捻って、さっきからずっと思案を続けている。


間近に見れば見るほど、彼女は纏っているオーラも違えば、物腰、言葉遣い共に洗練された様子である。

綾人には悪いが、やっぱりこの二人どう考えても釣り合いそうにはないな・・・。


しかし、とりあえず綾人と秋桜を引き合わせるのが俺の役目だ。

綾人の恋が上手くいくかは俺の知ったことではない。


「もうすぐわかるよ。あ、ほら。あそこで待っているから。」


「え・・・?若林くん・・・?」


指定の場所に秋桜を導いた俺はさっと二人の様子が窺える木の影に隠れる。(ある意味でのお約束だ)そこにはやや緊張気味のエリアがすでにスタンバイしていた。


「どうして、若林くんが私を?」


この位置でなら、ばっちりと二人の会話を聞くことが出来る。

あんまりこういう野暮なことは好きじゃないつもりだったが、やっぱり腐れ縁だが一応は親友である綾人の無謀な挑戦の結末を見届けたくはないという方がおかしいだろう。


「そのっ、今日は秋桜さんに伝えたい話があって・・・・っ。」


「私に話?何かしら・・・。」


完全に緊張してがちがちになってしまっている綾人とは対照的に、当の秋桜は涼しい笑みを浮かべている。


きっと彼女はもう何度だってこんな経験があるはずだから、きっと慣れてしまっているのだろう。


「お・・・っ、俺、あなたの事が好きですっ!!よかったら付き合ってください・・・っ!」


肝心のところはちゃんとかまずに言えた綾人。後でささやかながら褒めてやろう。

さぁ、秋桜はこれにどんな返事を返すつもりだ・・・・?


「わか・・・ばやしくん。あの、ね。わたし・・・・わたし・・・っ。」


・・・・先程とは打って変わって、しどろもどろになりながら赤面する秋桜。

この唐突な人の変わりよう、そして秋桜のこの態度。

まさか、ああそのまさかだ。これは・・・・・・っ。


「私も貴方の事が、好きです・・・・っ。ずっとそう言いたかったのに、言い出せなくて・・・っ、わたし、わたし・・・っずっと臆病だった・・・。だから・・・っ、他の人とおんなじように若林くんに接して、気付かれないようにっ・・・・て・・・・っ・・・。」


最後の方は涙声になりながら、ぽろぽろと涙を零す秋桜。

綾人の方はというと、この予想外の結果が信じられないのか、自分の右手で右頬を軽くつねってみていた。秋桜が泣いてるっていうのに、本当に空気の読めない奴め。


だけど、俺の方も正直この結果には驚いた。俺でさえ自分の頬をつねってこれは夢かと確かめたいくらいだ。当人の綾人にはもっと信じられなかったことだろう。


ふと横のエリアを盗み見てみると、感動してもらい泣きしそうな様子だった・・・・というかこいつ一体何しにきたんだよ。


「あのさ・・・っ、美優って呼んでもいいかな?これからは、その・・・俺たち恋人同士になるわけだし・・。」


おいおい、いきなり名前呼びに挑戦する気か?今回の告白といい、実際綾人はかなりのチャレンジャー精神を持ち合わせているらしい。

照れくさそうにそう言った綾人に対して、こちらも恥ずかしがりながら静かにうなずいた秋桜。


これで一件落着・・・・・でいいんだよな?あまりに簡単に上手くいってしまったって少し拍子抜けしたような気がする。


これでエリアの翼が本当に生えてくれれば楽なんだが、残念ながらエリアには別段と何の変化も見られそうにない。


それに更に残念なことに、当のエリアはお互いが照れ笑いをしている二人の方にばかり目がいっていて、自分の翼の事なんて今はすっかり頭から抜けてしまっているに違いない。

・・・・本当にこいつは大丈夫なんだろうか・・・。今から先が思いやられて、俺は少し頭がくらくらした。


気がつけば、さっきから綾人がちらちらとこちらに視線を投げかけている気がする。

これは、そろそろ出て来いってことなんだろうか?自分もここから出て行きたいと目で訴えかけているエリアを無視して、俺は秋桜に気付かれないように、そっと陰から躍り出た。


「あ・・・!野元くん・・・。」


今まで俺の存在をすっかり忘れていたのか、ようやく俺の姿に気付いた秋桜が小さく驚きの声を漏らす。


「ありがとな、真崎!おかげで上手くいったぜ。」


「私からもありがとう、野元くん。野元くんがいなかったら私達こんな風にはなれなかったと思うし・・・・。」


綾人と赤く泣きはらした目の秋桜が順に俺に向かって礼を述べていく。

俺だって感謝されるのは嫌いじゃない。まぁ、だからといってその感謝のために自分からわざわざ何か面倒なことをしようなんて気はさらさらないけどな。


「俺、み・・・っ美優を送って行こうと思ってるんだけどいいか?」


名前で呼んでもいいかと言い出したのは自分なのに、綾人のやつ恥ずかしさからか思いっきりどもってしまっている。


しかし、気持ちが高ぶっていることでそんなことは気にもならないのか、秋桜はただ嬉しそうにうなずくのみだった。


「じゃあ真崎。今日はこれで。絶対後で何かお礼をするから!ほんとにありがとな・・・!」


「ああ、また明日。お礼期待してるよ。」


いつもの優等生スマイルで微笑んでやると、綾人は、また猫かぶりやがってとでも言いたげに、にやりと口角を吊り上げた。


「ありがとう、野元くん・・!それじゃあ、また明日ね。」


ぺこり、と丁寧にお辞儀を向けてくれた秋桜は、仲良く綾人と並んでどんどんと遠くの方へ歩いていってしまった。


まぁ、幸せそうで何よりだな。それに比べて俺は・・・・。わけのわからない天使だかの手伝いをさせられて不幸なことこの上ない。


相変わらずこの駄目天使は遠ざかる二人のことしか見ていないし、相変わらず羽根は生えていない。


いったいいつまでかかるか分からない修行だなんて馬鹿らしいことこの上ないし、現実味の欠片さえありはしない。


・・・・とりあえず、次の俺の課題はこの負債を何とか家まで無事に連れて帰ること、だな。


「おい、エリア。家帰るぞ?」


「えっ、あ、はいっ!それにしてもあのお二人上手くいって良かったですね・・・!」


まるで自分の事のように、にこにこと嬉しそうに笑うエリア。

確かにめでたい事には違いないが、人事でそこまで喜べるもんなんだろうか。俺にはその気持ちがよく分からない。


「まあな。それよりお前翼の方はどうなったんだよ。」


「ぁ・・・あっ!わ、忘れてました・・・・。でも、何とも異常がないですし、多分今回は駄目だったんじゃないかと・・・。」


「まぁ、今回が最初だからな。そんな簡単に上手くいくわけないか。」


「真崎さんには本当にご迷惑をかけることになって・・・・ごめんなさい。」


申し訳なさそうに、目を伏せて俺にそう謝るエリア。

まぁ、確かに迷惑がかかってないわけでは決してないんだが、こうやって改まって謝られるとそれはそれで変な気分だ。


「謝るなよ。お前だってわざとここに落ちてきたってわけじゃないんだろ?もうこうなってしまった以上、いまさら謝られてもおんなじだって。」


「それはそうかもしれませんけど・・・・。とにかく私頑張りますから・・・!」


「そうかそうか。なら頑張れ。・・・・っても綾人たちの事でお前何もしてないだろ。」


「えっと・・・・はい、確かにそうかもしれないです・・・。」


「それでもお前が助けたっていう人間にカウントされるのか?」


「私が少しでも関係していればそれでいいみたいです。」


・・・・なんだ、そりゃずいぶんとゆるいルールだな。

ということは自分は話だけ聞いて、実際助けるのは誰か別の奴でもいいわけだ。

そんな丸投げが可能な条件で本当に立派な天使とやらになれるんだろうか。


「翼は生えてこなかったですけど、今回は真崎さんのおかげで助かりました。あの・・・これからも今回みたいに助けてもらってもいいでしょうか・・・?」


「・・・まぁ、しょうがないだろ。」


「・・・・!ありがとうございます・・・っ!」


内心断られたらどうしようとか思っていたに違いないエリアは、いくぶんか安心して気がぬけた表情で、静かに微笑むのだった。


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