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空からの落としモノ  作者: 紫音
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何気ない日常

さっ。乱暴に鞄を自分の席に投げ捨てて、息も絶え絶えに時計を見上げる。

時刻は現在八時二十五分。

俺の学校は八時半からホームルームが始まるので、なんとか遅刻にならずにギリギリ滑り込めたみたいだ。


いつもは遅刻なんてした事もない俺が、はぁはあと苦しい息遣いでこの教室に飛び込んできたわけだから、クラスメイトが一様に驚いた形相で俺の方を見つめている。

そして、俺の親友もといただの腐れ縁若林わかばやし綾人あやとは、やっぱりこいつも驚きが顔に滲み出ている表情を浮かべて、おずおずと俺の方にへと近づいてくる

「おいおい、真崎どうしたんだぁ?優等生のお前がこんなにもギリギリに滑り込みセーフだなんて珍しいじゃんか。」


「僕だって人間だからな。遅刻する事だってあるさ。」


「とかいってこれが高校生活初めての遅刻だろ?いつもは八時にすでに学校に着いているお前が遅刻なんて・・・今日は雷でも落ちてくるんじゃないか!?」


雷ならとっくに昨日家に落ちた・・・と言いたいところだが、こいつに言ってもただ面白がられるだけに違いない。・・・そんなものは全く時間の無駄だ。


「僕の家が高校に近いからいつも早いだけだろ。今日はたまたま寝坊したんだ。」


寝坊したのも嘘なら、高校に近いからいつも早いというのも実は嘘だった。

周りの奴はどう思っているのかしらないが、俺は周りより優れた存在であるために、それなりの努力を重ねてきたつもりだ。

そして、そんな俺が、かの有名な発明家による「天才とは一%の閃きと九十九パーセントの努力」という格言を愛すのもまた当然のことだろう。

自分には何の才能もないだなんてそんな悲観的な考えは生憎持ち合わせていないが、やはり努力なくしてはその才能を最大限に生かすことは出来ない。何事も積み重ねが大事ってことだ。


「お前が寝坊ってのもまた珍しい話だけどなぁ。やっぱり今日は絶対何かあるだろ・・・、あー怖い怖い。」


そう言って綾人は大げさに腕を組んで、ぶるぶると震える真似をする。

何事もオーバーなのがこいつの悪い癖その一だ。

お前はいちいちオーバーなんだよ、と苦言を呈そうとしたその時。がらり、教室のドアが開いて、毛深い大男が姿を現す。


彼の名は通称ゴリ山。ゴリラそっくりだという外見だけでつけられたあだ名で、由来はそれ以外の何ものでもない。


「ったく、なんで俺らのクラスの担任ゴリ山なんだろうな。隣のクラスの担任、初崎はつざき先生超綺麗だったぞ?」


そう、俺に耳打ちをしてから春樹はそそくさと自分の席へと戻っていく。

生徒それぞれが名残惜しそうに、友達に別れを告げて、各自の席へと戻って行く。

全員がそれぞれの席に着いたことを確認して、ゴリ山はすうっと大きく息を吸い込む。


「えーそれではぁ、HRを始めます。」

相変わらずの、癇に障る大声でそう言うだけ言い終えた後、ゴリ山を大きく咳払いをする。

ああ、そういえば外見以外にも本名郷山ごうやまであるこいつがゴリ山と謂われるようになった由縁があった。

この咳払いもどういうわけか「うほっ」と言っているように聞こえて、それでゴリ山なんだったか。

周り、つまり生徒達の被害なんて考えたこともないんだろう、もうほとんど騒音に近い大声でゴリ山は必要連絡事項を早口に述べていく。

聞いててイライラとさせられるホームルームから、また退屈な一日が始まったのだった。




キーンコーンカーンコーン・・・。少し間抜けなチャイムの音によって、ようやく俺は窮屈な授業から解放された。

帰宅部である俺は、真っ先に昇降口を目指そうとするが、後ろからぐっと肩を掴まれる。

大体の予想はつきながらも、俺は肩を掴んだ人物が誰なのかを確認するために後ろを振り返った。


「なぁ、真崎。ちょっといいか?」


「どうしたんだ、綾人。」


そこにいたのは、俺の全く予想通りの人物、若林綾人だった。


「ちょっとどこか静かな場所にいかないか?ここじゃなんだからさ。」


「・・・・わかった。じゃあ、とりあえず教室を出ようか。」


妙に緊張しているこいつの様子から考えてみても、おいそれとこんなざわざわと騒がしい放課後の教室で簡単に切り出せる話でもないらしい。

・・・また、面倒にまきこまれなきゃいいんだが。


綾人が静かな場所まで移動している最中一言も喋らないもんだから、お互いが無言のまま、

何も会話を交わさないうちに人気の少ない校舎裏に辿り着いてしまった。

適当な場所に二人が腰を下ろし、辺りをきょろきょろと入念に確認した後、綾人はようやく本題を切り出し始めたのだった。


「あのさ、真崎。相談があるんだ・・・っ!」


「何だよ、相談って・・。」


やっぱりわざわざ俺をこんな所まで連れてくるくらいだからそういった話だろうとは思ったが・・・・。ああ、そういえばエリアが困っている奴がいたら紹介しろって言ってたな。めんどくさいし、適当にこいつでも紹介してみようか・・・。


「俺さ、実は・・・・っ、実はな・・・好きな奴がいるんだよ・・・。」


「好きな奴?誰だよ、それ。」


綾人のことだから大層な問題を抱えているわけはないと思っていたが、その相談の内容が

恋愛事か。・・・まぁ、こいつらしいといえばらしいか。


「・・・・・秋桜美優。」


「秋桜って・・・同じクラスの?」


「ああ。」


綾人がぽつりと呟いた言葉に俺が驚くのもある意味では当然かもしれない。

秋桜美優といえば、俺らのクラスでも一、二を争うくらいの美少女だ。

そして、家が華道の家元だか何かで実際かなりのお嬢様であるらしい。


対して、彼女が好きだと言った綾人は俺と同じくいたって平凡な普通の家庭の生まれで、運動神経だけは抜群という取り柄はあるものの、顔面偏差値もそこそこで、テストの前には必ず俺に泣きついてくるといったぐあいにどうも勉強は苦手らしい。

そんな綾人が告白したとして、果たして成績も品行も上々なお嬢様が取り合ってくれるだろうか?

せいぜい周りに噂が広まって、クラス中に無謀な奴だと可哀想な目で見つめられるだけに違いない。


・・・・それなのに綾人ときたら告白が成功した場合、たとえば初デートはどこにしようかだとかそういった夢物語のようなことをつらつらと語りだすものだからもう俺の手には負えない。

・・・・・少しは現実も見つめてみたらどうだろうか・・・。


「おい、綾人。告白が成功する確率はどれくらいだと思ってるんだ?」


「そんなもんどう考えても五十パーセント以下だってこと俺だってわかってるさ。だって向こうはクラスのアイドルだもんな・・・・はぁ・・・、どれだけライバルが多いことか。」


「で、お前秋桜と話したことはあるのかよ?」


「まぁ、それなりにはな。でもアドレスとかはまだ・・・。」


「じゃあ直接会って告白するつもりか?」


「・・・一応そう考えてる。なぁ、真崎。告白ってどんな事言えばいいんだろうな・・。」


「んなもん俺に聞くなよ。俺がそういうの疎いってお前だって知ってるんだろ?」


「でも、お前って頭いいし・・。なんか女をきゅんとさせられる告白文作ってくれねーかなって思って。」

ああ・・・・こいつもなんていう他力本願なんだ・・・。


「告白の際の言葉くらい自分で考えてみろよ・・・。」


「あ、じゃあ俺が考えたの言うからちゃんと感想くれよ?・・・・っと、美優さん。貴女は俺のひび割れた心の大地に咲く一輪の可憐なコスモスの花です。よ、よければ俺と一緒に俺の心いっぱいのコスモスを咲かせてみてくれないでしょうか・・?」


・・・・・は・・・・・?というかそれ普通に愛の告白だなんて微塵も思わないだろ。コスモスと苗字を掛け合わせているのはまだいいとして、心いっぱいのコスモスってなんなんだ。それが何を表しているのか、今の俺には理解できそうもない・・・・。


「何だよそれ・・今かなりヒいたぞ?」


「おいおい、ひくなよ、ひくなって!!お前、俺の国語の成績が毎回悪いって知ってて言ってんだろ・・・っ!!?」


まぁ、そりゃまあこいつの成績表の国語の欄にはアヒルが住み着いているのはわかってるが、それにしてもこれはあまりにもヒドイだろ。

大体、こんな事を緊張して少し震えている男に言われてもただ気持ち悪いだけだ。

俺が女の立場だったら正直泣きたい。


・・・・どうもこいつと俺との感性の間にはずいぶんと深い溝があるようだ。

明らかに天然が入っているエリアの方が、俺なんかよりはこいつと話が合うかもしれない。

もうめんどくさいし、エリアに全て丸投げしてしまおう。・・・・それで上手くいくかは別として。


「なぁ、綾人。ちょっと俺の家に来ないか?お前の相談に乗ってくれそうな奴がいるんだ。」


俺がそんなことを言うなんて思ってもなかったんだろう、目を丸くした綾人はただ静かにこくりとうなずいた。

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