好きな人の好きな人を好きになれる人が好き
わたしは福井杏子、16歳。つまり華の女子高生を満喫する、いわゆるJKな訳だ。やはりJKといえばほれたはれたのなんやかんやで、例にもれずわたしもある人が気になっている。
その人の名前は相田誠治。まさはるじゃなくて、せいじと読む彼は先輩でDK2。しかし、部活は一緒だ。彼とわたしが所属するのは文化部。その活動としては、文化祭で冊子を出したり、各自でコンクールなどに出品すること。この冊子は文化祭に出す用でもコンクールに出品する用でもなく、まあなんというか、心のメモリーというか……あけすけに言うと所謂、日記。または随筆。要するに、私の心情や日常生活をとにかく綴っていく冊子なのだ。しかし、ただそれだけだとつまらないので、今私が夢中になっている相田先輩についてのことを書こうと思う。既に手が痛くなってきたあたり、普段の勉強不足や活動のしなさが伺えるけれど、そこにはあまり触れないでおこう。
×月×日×曜日 晴れ
今日は朗らかな1日となった。苦手な体育や国語も無く、嫌いな雨でもなく。しかしながら、今日は部活が無かったため、刺激の薄い、という意味でも朗らかな日だった。まあ部活があったとしても刺激があるかと言われたら……答えにくいけど。おそらく、これを読んでいるあなたが思っているよりも、相田先輩とわたしの距離は遠い。北海道の最北端と最南端くらい遠い。北海道という共通点はあれども、決して近いわけではない……そんな関係だ。書いてて辛くなってきた。ぶっちゃけ会話も無いし、むしろ私の友だちの方が相田先輩と仲がいい。
そんな彼女の名前は園田詩音。園田琴音の妹で、美少女。本人は地味だとか目立たないとか思ってるみたいだけど、実際のところそんなことはなく、すごく可愛い。お姉さんの方はキレイって感じだけど、詩音ちゃんはカワイイって感じ。肌も透き通るみたいに白くて、髪もサラサラ。もちろんお姉さんもそうで、風になびく髪がうるわしい。そりゃ相田先輩も好きになるよね、みたいな。
あ、そうだ。書き忘れてた。私が気になっている人である相田先輩は、詩音ちゃんのお姉さんである園田先輩のことが好きだ。園田先輩は多分他の人のことが好きっぽいけど、相田先輩は明らかに園田先輩が好き。部室では、園田先輩がいないことをいいことにちょっと語ってたりするし。だから、私の目標は相田先輩と付き合うことじゃない。そもそも恋愛的な意味で好きだと確信してるわけじゃないし。できたら仲良くなりたいなってだけ。でも、相田先輩を応援するわけでもない。園田先輩はたぶん、相田先輩の友達の東先輩が好きだから。すっごくこじれた関係だけど、だからこそわたしは相田先輩を好きになれたんだから、この状況に不満なんてない。……ない! 相田先輩の、園田先輩が東先輩のことを好きってこと知ってる上で東先輩を心から友達として好きになれてるところ、ほんとに尊敬するし大好きなんだから。なんだかなーってモヤッとしたりもした!けど!
結局私は切れ端なんだから、どうにかできることでもない。そっと見物しておくのがいちばん!きっと誰だってそう思うはず。
×月×日×曜日 雨
今日は雨。故に気分がひどく下がる日だった……訳、では、ない!今日は部活がある日で、なんと相田先輩とお話ができたのだ。トキメキが止まらないんだけど!!ねえ!!
「あ、ごめん、消しゴム取ってくれるか?」
「んー、ファンタジーとSFで悩んでる。福井は?」
「へえ、福井ってファンタジーもの好きなんだな」
「おう、お前もがんばれよ」
なお、一時間半にわたる部活動時間のなかで相田先輩から私へ向けられた言葉は、以上の四つのみであった模様。……ハァーーーーーッべつにいいけど!!そんなもんだけどね!!ちなみに詩音ちゃんはもっと先輩と喋ってたよ!!多分詩音ちゃんも相田先輩のこと好きなんじゃないかな!?ハァーーーーーッ!!
つかれた。
×月×日×曜日 くもり
雨は止んだけどくもりのままです。本日は部活ナシの日なので、特に先輩とのどうたらこうたらはありませんでした。くっそ……。
べっつに、分かってるんだけどね。先輩のこと大好きで、付き合いたくて、手とかつないでみたくて、頭なでてもらいたいとか浅ましくも自分が思ってること。でも、絶対に叶わないってわかってるのに、これを初恋にして散らしちゃうのはなんかいやじゃん。好きじゃないですってことにしとけば、周りからどうも思われないし、自分もまだ楽でいられるし。ほんとやだ。涙出てきたんだけど。さいあく。
あーーーーあ、先輩に恋したかったな!!!!
×月×日×曜日 晴れ
待って……、昨日のを読み返してるんだけどまじむり……はずかしい……メンヘラかよぉ!!その前にポエミー笑すぎるわ!!
というか今日は大変だった。とにかく。詩音ちゃんマジで先輩のこと好きなんじゃないかなとか思って。今日、調理実習でクッキーを焼いたわけなんですけど、各自持参したアレンジするための品々の中、詩音ちゃんはチョコペンを持ってきてたんだよ。ピンクと白と黒だったかな?形はみんな学校にある丸い型抜きを使ったから、飾り気のない円形なんだけど、詩音ちゃん、たくさん焼いたうちのひとつにハートかいてたんだよね。あーこれは恋の予感だなあえへへとか思いながら自分もラッピングして部活に意気揚々と向かった訳。そしたら先に詩音ちゃんが先輩に渡してて(この時点でだいぶ渡す気が失せた)、嬉しそうに先輩がクッキー食べてるとき、そのなかにひとつ、表面がミルクチョコで塗りつぶされてるやつがあったんだよ!!ねえ!!!おい!!!これって!!!!あきらかに!!!そうでしょ!!!
……先輩、ほんと嬉しそうだったな。なんだかなあ、私が渡したらあんな顔ぜったいしなかったでしょ。やっぱ世の中顔なのかも。……さすがに失礼過ぎた。みんなに。こんな自分が大きらい……。
×月×日×曜日 晴れ
ん〜〜久しぶりだなあ、これ書くの!しばらく書かなかったから、なんだか懐かしい。あ、そうそう。なんでこの三日坊主の日記をまたひっぱり出したのかっていうと、なんとついに、園田先輩と東先輩が付き合い始めたんです!!おめでとーございます!ってかんじ。相田先輩も、すごく嬉しそうだった。ほんと心の底から幸せそうな顔してて、好きな人の幸せが俺の幸せだからいいんだよっ!って詩音ちゃんに言ってて……。余計好きになるよねほんと。先輩のばか……。でもなんか、先輩、詩音ちゃんとすごく仲良くなった……気がする……。園田先輩と詩音ちゃんと、東先輩と相田先輩でお出かけとかしたらしいし。なんか、蚊帳の外っていうか、当たり前なんだけどね。あそこらへんは幼なじみグループだし。なんか私ほんとだめだなあ?蚊帳の外が漢字で書けたくらいしかほめれるとこないよ。……ほめるって漢字どんなんだっけ!?
×月×日×曜日 雨
あーーーーねえ聞いて!!聞いて!!!やばかった!!今日、ほんと、やばかった!!今日、詩音ちゃんが風邪でお休みだったんだけど……っ、だからなのかなんなのか、相田先輩といつもより多くしゃべれたんだよ!!今思うとこの態度はあまりに詩音ちゃんに申し訳ないな……、軽い風邪らしいので見逃してほしい……!!!!ファンタジーもの好きってこと覚えててくれたらしくて、しかも先輩、せっかくだからって卒業制作はファンタジーものにしようとか言ってて……!!死ぬかと思った!!その後、詩音ちゃんのお見舞いに帰り道いっしょに帰ったの!!心臓口からでるかと思ったわ!!!
とか嬉しかったことばかり述べてるけど。
なんだかなあって、思うよね。詩音ちゃん家に一人らしくて、(園田先輩と東先輩は生徒会で遅れてる)玄関まで出てくれたんだけど。ふらりと倒れそうになったところを先輩が支えて、お姫さまだっこしたんだよね。まるで映画のワンシーンみたいでさあ。すっごい絵になるの。かわいいワンピースの詩音ちゃんが、赤い顔でぐったりと、相田先輩に恭しく抱き抱えられてて。先に帰っててくれって言われて、言われるがまま帰ったけど。ほんとなんなんだろうなあ、やだなあ。
やっぱりわたしは、先輩みたいに割り切って好きになれそうにないんだな。
月 日 曜日
どうして?
月 日 曜日
何が虚しいって、この喪失感が失恋でもなんでもないってことがいちばん辛いよ。なんで最初っから諦めたんだろ。ほんとばかだなあって。詩音ちゃんに上から目線で恋愛アドバイスとかしてんじゃねーよ。ばっかじゃないの。ああしろこうしろって、それはあんたが先輩にしたかったことじゃん。なんで詩音ちゃんにやらせんの。いくじなし。ほんと、ばか。ばか。ばか。
×月×日×曜日 晴れ
この日記の最後からすこし経って、わたしはもう高校生最後の一年を迎えようとしてる。結局彼氏つくれなかったし、うん。多分、この思いを消化するには、たくさんの時間が必要なんだと思う。わたしがほっといたせいで、取り返しのつかないくらい腐ったこの思いを捨てるにはね。
詩音ちゃんが風邪をひいたあの日、詩音ちゃんは先輩に告白したらしい。先輩に幸せになってほしいんです。わたしが先輩を幸せにしたいんです。風邪で意識がもうろうとしてても、がんばって伝えたんだよって。そうして先輩が、まだ好きって気持ちは琴音にあるから、そのまま付き合うのはすごくお前に失礼だ。だけど、もしこの気持ちの収拾がついたら、一緒にいさせてほしい。本当に我侭な奴でごめん。……そう言ってもらえたって、次の日にメールが届いた。今まで応援してくれた杏子ちゃんのおかげだよ!って。そうだね、ほとんど告白成功したようなものだもんね。そしてその次の日に、私は学校を休まず行って、部活にも行って、詩音ちゃんと先輩の様子をみて気付いた。私が、どれだけいくじなしで大馬鹿者だったのか。詩音ちゃんに嫉妬しておきながら、私は先輩に何か好意を持ってもらえるようなことした?してないんだよね。ほんとばかなんだよ。
ほんとは、こんな日記誰かに見せる気はなかったけど、もし、もしも。あの時のわたしみたいに、最初っから諦めて傍観してる子がいたら、こんなことになるかもしれないんだよって、気付いてほしい。そのために、名前とか変えて、ネットに小説として投稿することにした。こんなふうに拗らせちゃうのはわたしくらいの大馬鹿者くらいだろうけど、一応ね!
すべての恋する乙女たちに幸せあれ!!
おわり