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勇者は101人いる外伝 ~100人の勇者たち~  作者: 酔生夢死
1章 少年、召喚される幕間
4/4

幕間1‐4 100人の勇者たち、『天使星也』

(´・ω・`)正直、この話を分けた最大の理由がこれです。

 数人の勇者たちを掘り下げようと思うと、完全に分けないと見辛いし書き辛かったので……

 1ヶ月前まで天使星也は高校生だった。

 厳格な父と教育熱心な母の間に生まれ、遊び盛りの弟と最近ませ始めた妹の5人家族の中で育ち、些細な事で喧嘩する事はあっても毎日食卓を全員で囲む程度には家族仲も悪くはない。


 幼い時分には近所でも有名なヤンチャ坊主であったが年を重ねるにつれて好青年へと成長し、今では人当たりが良く成績も優秀で中学では生徒会長を務め、高校でも半数以上の支持を持って生徒会長に就任するまでになった。


 その日も放課後に近々ある学校行事の会議を行う為に、生徒会室へと向かっていた。

 星也の高校の生徒会室は最上階にあった為、階段を駆け下りてくる生徒と挨拶を交わしながら上って行き、誰も降りて来ない最上階への階段を上っている最中に事件は起きた。


 最上階まであと数段と言う所で、突然に星也の視界がグニャリと歪んで身体がふわりと浮いている感覚を覚え……気が付いた時には階段の天井が徐々に離れて行くのを映画のスローモーションのように眺めていた。


 宙を浮いているので掴む場所もなく、出来る事は地面にぶつかる衝撃を少しでも和らげようと頭を庇うように体を丸めた……次の瞬間、星也は青い光に包まれる。

 そうして、星也は異世界へと召喚されたのであった。



 勇者たちが異世界へ召喚されてから一ヶ月が経った。

 ドラグニールに連れられて勇樹が竜の里で竜人の若者たちに集団リンチを受けている頃、勇者たちへの新兵のような訓練も終わり次の段階へと進んでいた。


 まだ太陽も登り切らず、影が長い早朝。

 城壁の高い壁に囲われている為に薄暗くなっている城の訓練場にて、2つの動く人影がいた。


「ハッ! フッ! ヤッ!」


「ハイッ、ハイッ、そこもうちょっと踏み込みを深く! ほら軸がぶれていますよ!」


「クッ、ヤァ!!」


 訓練場に剣がぶつかり合う音が響く。

 星也の指導役である騎士のセレネは、最近『剣術』スキルがLv2になった星也の攻めを剣先で巧みに逸らし、冷静に星也の悪い所を指摘して行く。

 日本では優等生で通っていた星也は、勇者補正もあってか乾いた砂のように教えられたことをスルスルと習得していった。


 但し、覚えた事とそれを扱う事は全く違う。

 覚えただけでは肉体が覚えた動きに付いて来れなくなるので、結局のところは覚えた事を十全に扱うには地道に訓練して体力を付ける事が一番だった。


 散々剣が逸らされ攻めに焦れた星也は、思いっきり踏み込んで剣を振り下ろす。

 星也にとっては会心の一撃のつもりだったが、セレネはあっさりと剣を沿うように置くと、絡めるようにクルリと回して星也の剣を巻き上げて顔の前に切っ先を突きつけた。

 その瞬間、星也は肩の力を抜いて呟いた。


「ま、参った」


「お疲れ様です。星也はどうも攻め急ぐ嫌いがありますね。焦るのも分かりますが、もう少し継戦能力を考えてください」


「ハァ……ハァ……そうは言っても……どうしてもね……」


 呼吸も乱れず汗一つ掻いていないセレネに対し、星也は汗を滝のように流しながらその場に座り込んだ。

 女性であるセレネが立っているのに不甲斐ないと思う一方で、星也は未だに彼女から一本も取れない事に不甲斐なさを覚えていた。


 躾に厳しかった両親から「男子たるもの、か弱き女子は守るもの」と教えられていた星也には、女性に負けて屈辱で仄暗い感情を湧かせる事はなかったが、男子で勇者である筈の自分が膝を突いているという状況に星也自身は情けないと思う程度の意地はある。


 日本に居た時には中高と生徒会に居た為、スポーツはたしなむ程度にしかやっておらず、今更ながらこうなるのなら剣道の一つも習っておけばよかったと内心で後悔しながら何とか息を整える。

 セレネは脇に置いていた手拭いを手に取ると、未だに立ち上がれずにいる星也に差し出す。


「あまり焦っても良い事はありませんよ。ましてやセイヤは今まで剣を握った事すらなかったんですから」


「そうなんだけど……勇者としてここにいるのに訓練とかで騎士の人に敵わないのと考えると、これでいいのかなって考えちゃうんだよ……」


 星也は他の一部の勇者たちのように、今が現実であるという事を忘れてマンガやゲームの主人公のように活躍できるとは考えてはいない。

 だが、勇者として召喚されてここにいる限りは、相応の活躍をしなければならない(・・・・・・・・・)という責任感を感じていた。

 そんなプレッシャーを押し殺しながら力なく笑う星也の手を、セレネは包み込む様に手に取って笑い掛ける。


「大丈夫ですよ。一歩ずつですが、セイヤは確実に強くなっています。それに私は知っています……貴方が他の勇者の誰よりも努力している事を。それに、私が稽古を付けているのですから強くなって貰わなくちゃ困りますよ?」


「せ、セレネ」


「あ、それと休憩はキチンとしてくださいね。やり過ぎは体を壊しますよ」


 星也の鼻先にビシッと指を突きつけ、小さい子供を叱りつけるように言った。

 至近距離まで近づいたセレネにそこまで言われ、漂ってくる女性特有の香りと聞こえてくる息遣いに気恥ずかしさを覚えた星也は観念したように両手を上げて苦笑した。


「わかったよ。体調管理も訓練の内って事だろ?」


「その通りです。まあ、それはそれとしてですね……」


 セレネはそこで言葉を切ると、胸の前でポンと手を叩いて愛らしい笑みを浮かべる。

 その姿に、何故だか星也はとっても嫌な予感がした。


「勇者は覚えが早い分、変な癖を付けてしまうと直すのも大変と聞きます。『剣術』のレベルが低い内にダメな部分はドンドン直してしまいましょう」


「お手柔らかにね……」


 フンスと鼻息を荒くしながら胸の前で両拳を握り込んで張り切るセレネに、星也は力なく笑うしかなかった。



 朝の訓練を終え昼休憩に入ったので星也が食堂へと向かっている途中、一人の侍女に呼び止められた。


「セイヤ様、中庭の方でリリシア様がお待ちです」


「え、リリシア様が?」


 侍女に案内されるままに付いて行くと、綺麗に手入れがされた庭園に出る。

 庭園の中央には東屋が立っていて、その下で一人の女性が星也に手を振っていた。

 その姿を見た星也は、驚きながら小走りで女性の元へと駆け寄った。


「セイヤ様~」


「リリシア様、自分に何かご用でしょうか?」


 星也がそう言うと、リリシアは不満そうに綺麗な眉を顰めて拗ねるように唇を突き出した。


「あら、私は用がなければセイヤ様と会う事は出来ないのですか?」


「い、いえ、そういう事ではないですけど、王族の方がこういう事をなさるのはどうかと……」


「セイヤ様までメイドたちと同じことを言うのですね。私はただの友人としてセイヤ様を昼食にお誘いしただけですのに」


「リリシア様……」


 星也は困ったような声を漏らしながら、そこから近寄る事も離れる事も出来ずに立ち尽くしていた。



 最初に声を掛けたのはリリシアの方からだった。

 偶々朝早くに目が覚めた彼女が何気なく庭園の方へ散歩に出ようとした時、廊下の窓から一人で黙々と剣を振っている星也を見かけた事が始まりで、その後も早起きすると決まって星也を見かけるようになる。

 リリシアも最初は廊下の窓から覗くだけだった。

 しかし、日を重ねるにつれて1階の窓からになり、訓練場の入り口からになり、訓練場の隅になり、最後には星也の隣でその姿を見守るようになった。


 星也も途中で自分を見る視線に気が付いてはいたが、身なりからして貴族以上の身分である事は容易に予想できた。

 そう言った相手の場合は自分から声を掛けると色々問題が起こる可能性があると勇者向けの講義で真っ先に注意されていた為、星也から決して行動を起こすつもりはなかった。


 そうして早朝になると星也は一人で剣を振るい、その姿をリリシアが見つめているという光景が数日ほど続いたある日、変化が起きた。


 いつもであれば、星也がノルマを終えたら解散というのが暗黙の内に出来ていた。

 しかし、その日はたまたま汗を拭く手拭いを星也が用意し忘れてしまい、汗だくのまま朝食に行くしかないか悩んでいると、それを見ていたリリシアが控えていた侍女に指示を送ると手拭いを持って戻ってきた。

 リリシアはそれを受け取ると、星也に近づきそれを差し出した。

 それを切っ掛けに2人は一言二言話すようになり、気が付けば顔を合わせる度に雑談するようになっていた。



 ここで所謂“異世界ハーレム”に憧れている勇者であれば、王女とフラグが立ったと喜ぶ所なのだが、真面目に魔王を倒す事を目標にしている星也にとっては異世界で出来た友人の一人でしかなかった。

 となれば、友人として星也は拗ねるリリシアに話し掛ける。


「リリシア様、自分の為にこのような席を用意して下さるのは素直に嬉しいのですが、その席に座るのは自分が相応しい立場になった時にお願いしたいと思います。今のままでは自分は何の責も果たさずに国の禄を食む穀潰しにかすぎませんので……」


「私は、セイヤ様がそのような方ではない事は知っていますよ? 貴方様は誰よりも早くに剣を振るい、誰よりも多く努力しているではありませんか」


「努力はしていても結果を出さなければ意味はないですから……」


 星也は自分の手を見つめながら未だ城の外にすら出た事が無く、異世界に来たと言ってもモンスターという生物と戦うどころか、見た事すらない事に憤りを覚えていた。

 他の勇者たちはモンスターと戦えばレベルが上がり、レベルが上がれば強くなれるという簡単なように考えているが、星也はそこまでゲームとこの世界を混同しては居なかった。


『いざとなったら、自分はモンスターを殺せるのか?』


 平和ボケした国に住んでいたという不安が常に星也の脳裏にチラついていた。

 そんな星也の様子に気付いたのか、リリシアは徐に立ち上がって星也を席に着かせて自分もその隣に座り、星也の手を握って顔をジッと見つめる。


「きっとその努力は貴方を裏切りません。それでももしセイヤ様が戦うのが怖いとおっしゃられるのなら、その時は……」


 そこで言葉を切るとまるで悪戯を思い付いた子供のような笑みを浮かべて、軽く首を傾げてみせる。

 リリシアが何を言わんとしているのか、分からない星也は彼女にその先を促した。


「その時は、どうするんですか?」


「私と一緒にどこか遠くへ逃げちゃいましょう」


「ぶっ!? げほっげほっ!」


 第一王女の思わぬ提案に、唾が気管に入って思いっきり咽る。

 勿論、彼女の立場でそんな事が出来る筈もなく、無理に通せば国家反逆で指名手配される事は間違いない。

 当然、本人は本気ではなかったが星也の方は気が気ではなかった。


「り、リリシア様! それは!」


「冗談ですよ。でも、召喚されたセイヤ様にはこの国で殉じる義務なんてないのですから、『嫌になったら逃げてもいい』くらいの心構えで良いんですよ」


「……冗談が過ぎますよ。でも、ありがとうございます」


 気が付けば星也がずっと感じていた重しのような物が無くなった訳ではなかったが、幾らか軽くなっていた。

 すると、張り詰めていた物が解れた所為か腹の虫が自己主張し出して星也は昼食を取っていない事を思い出す。

 それを聞いたリリシアはおかしそうに微笑むと、メイドに昼食を持って来るように言い付けるのであった。

最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。


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