表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き姫と黒の従者  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/30

3

 突然、銃を担ぎ軍服を着た男達がリビングに入ってきた。


「なんだ?」


 少女が目を丸くしている横で、軍服を着た男達が戸棚の中やソファーの下を探っている。そこに二階から声が響いた。


「二階には誰もいません」


 女性が胸の前で腕を組んでリビングのドアに立った。


「この家にいるのは、これで全員だけど」


 女性の不機嫌な声に、男達は義務的に「失礼した」と心にも思っていない言葉を残して家から出ていった。


「なんの騒ぎ?」


 少年の質問に女性が苦笑いをしながら肩をすくめる。


「凶悪犯がこの町に逃げ込んだから、一軒一軒探してるんだって。ご苦労なことよね」


 その言葉に突然、少女が袋を持って立ち上がる。


「世話になった」


「はい、待って」


 歩き出そうとする少女の肩を女性がイスに座らせるように押さえる。そのまま少女はイスに押し戻された。


「今、出て行ってもこの町から外には出れないわよ」


「何故だ?」


「さっきの奴らが検問しているわ」


 女性の説明に少年が青い瞳を少し丸くする。


「そんなに早く捕まえたいんだ。どんな凶悪犯なんだろね?そんなことニュースには流れてなかったけど」


「凶悪犯って言っても、どこまで本当なのだか、わからないわ。でも半日もすれば、あいつらは消えるだろうから、それまでゆっくりしたら?」


「だが……」


 少女が言葉を口にする前に女性は軽くウインクをして微笑んだ。


「あんな偽者軍のことなんて気にしなくていいから」


 軽い口調とは釣り合わない意外な言葉に、少女の思考が止まる。


「偽者……だと?」


 軍のことには詳しくないが、使い古された軍服と武器、統率された動きなど素人が見る限りでは軍人に見えた。


 だが女性はそれをあっさりと否定した。


「そう。本物にしか見えない偽物」


「何故、そんなことが分かる?」


 女性は意味ありげな微笑みを浮かべると、少女の前にある朝食を手に取った。


「ごはんがすっかり冷めちゃったわね。ちょっと待って、すぐ温めるから」


 女性は冷えた朝食を持ってキッチンに消えた。


 これ以上は何を聞いても答えは返ってこないだろう。


 少女はそう判断すると、女性以上に考えの読めない少年に黒い瞳をむけた。


「何故、私をここに留まらせようとする?」


 少女の質問に、少年はニコっと笑った。


「袖擦りあうのも多少の縁ってね。それにしても、さっきから質問してばかりだね」


「当然だ。おまえたちの行動は理解不能だ」


「まあ、そんなところもあるよね」


 苦笑いとともに少し頷く少年に対して、戻ってきた女性が首を傾げながら、白い湯気ののぼる朝食を少女の前に置いた。


「そう?私は普通だと思うんだけど。はい。こんどこそ冷めないうちに食べてね」


 少女はスプーンでスープをすくうと、女性の黒い瞳から視線を外さずに朝食を口に運んだ。しばらく口の中でスープを遊ばせた後、ゆっくりと喉に流し込んだ。


「……毒は入っていないな」


 失礼な言葉にもかかわらず、女性はニッコリと微笑んだまま少女を見つめている。


「感想はそれだけ?」


「美味い」


 そう言って少女は視線を朝食に移し、黙々と食べはじめた。


「口に合って嬉しいわ」


 女性が笑顔で少女を見ながら椅子に座る。少年は時々、窓の外に視線を向けながらコーヒーを飲んでいる。

 少女は朝食を食べる手を止めることなく口を開いた。


「聞かないのか?」


 女性がどこか楽しそうに聞き返す。


「なにを?」


「私がどこから来たのか、何者なのか、とかだ。さっきの者達が探しているのは、私だと気付いているのだろう?」


 少年がコーヒーカップをテーブルの上に置いて、逆に質問をした。


「聞いたほうがいい?」


「あ、いや……」


 言葉を詰まらした少女に、少年は笑顔のまま続きを言った。


「人は誰でも一つや二つ、知られたくないことがある。そうだろ?」


 軽い口調だったが青い瞳は笑っていない。


 お互い余計な詮索は無用。


 どこか自分と似た雰囲気の瞳を持つ二人に、少女は食事をしていた手を止めた。


「シャジンだ」


「ん?」


 言葉の意味が分からない少年と少女が顔を見合わせる。


沙参(しゃじん)。それが私の名だ」


「へぇ、変わった名前ね。私の名前はスピネル。これはオニキスよ」


「これって物みたいな言い方しないでよ。ちょっと外を見てくる」


 そう言ってオニキスは壁にかけてあるコートを羽織った。そこにスピネルが声をかける。


「ついでにパンも買ってきて」


 オキニスが慣れたように苦笑いを浮かべる。


「はい、はい。くるみパンだろ?あとラズベリージャムもか」


「あ、そうそう。ジャムも今朝で切れたんだったわ。お願いね」


 オニキスは左手を軽く振って答えるとリビングから出て行った。


 二人が会話をしている間に朝食を食べ終えた沙参は、空になった食器に両手を合わせて一礼をした。


「これから、どうするの?何処に行くの?」


 スピネルの言葉に沙参が頭を横に振る。


「言えない。すまないが、これ以上巻き込みたくない」


「でも、そうも言っていられないようだよ」


 オニキスが手ぶらで部屋に戻ってきた。


「くるみパンは?」


 スピネルの言葉にオニキスは肩をすくめた。


「わかって言ってるだろ?こうなるとは思ってなかったから、足跡を残したままだったんだ」


「ま、仕方ないわね。沙参と先に車庫に行ってて」


 それだけ言うとスピネルは素早く部屋から出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポチッと押してもらえると作者が喜びます(*´▽`*) 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ