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白き姫と黒の従者  作者:


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23

 眩しい光にスピネルが黒い瞳を開けと、窓から朝日が容赦なく入り込んできた。とりあえず隣にいるオニキスに視線をむけると、話しかける前に腕時計を見せられた。


「朝の六時すぎだよ。一時間ぐらい寝てたかな」


「そう。で、どこに向かってるの?誘拐犯は誰か分かった?」


 質問に答えるべき鴉は携帯電話で会話をしながらノートパソコンを操作しているため返事が出来ない。代わりにオニキスが説明をした。


「沙参を誘拐した犯人は不明だけど、始祖はセルティカ国のオシスミィに連れて行かれたみたいなんだ。ただ、その場所がオシスミィ領主の城らしくて簡単に手が出せないんだって。今、裏づけをとって捜索だけでも許可してもらおうとしているんだけど、なかなか許可が出ないんだ」


 オニキスは軽く言ったが、普通は自国の以外の者による、しかも領主への捜索許可などそうとうな理由と証拠がなければ出るわけがない。しかも沙参の存在は秘密裏であるため一国の大統領でも存在を知っている者はほとんどいない。

 そのため鴉は沙参の存在を隠して、とある少女が誘拐されたのでオシスミィ領主の城を捜索させて欲しいと交渉しているのだ。


 だが、そんな内容の捜索理由であれば、いくら証拠があっても、


「我が国の警察に任せて欲しい」


 の、一点張りだ。


 スピネルは鴉を見ながら興味なさそうに、


「それって、オシスミィ領主がモン・トンプ島を攻撃して始祖を連れて行ったってことよね?」


 と言うと、いきなり鴉から携帯電話を取り上げて耳につけた。


「はぁい。あなた、誰?」


 突拍子のない暴言にその場にいた全員が固まる。それは電話の相手も同じなのだろう。まったく反応がない。


 スピネルは返事のない電話の相手にむかって、もう一つ暴言を吐いた。


「あなた、大統領じゃないわよね?大統領に代わって」


 その言葉に、さすがに怒鳴り声に近い罵詈雑言が電話口から響く。だが、スピネルは軽く流すと、まるで相手をデートに誘うような笑みを浮かべて楽しそうに言った。


「緊急コードよ。黒揚羽より大統領へ緊急コード。コードナンバーは三〇九一。繰り返すわよ。黒揚羽より大統領へ、緊急コード三〇九一」


 その言葉に怒鳴り声が止まる。スピネルは相手が理性を取り戻す前に、畳み掛けるように言った。


「三〇九一だって言ってるでしょ!早くしなさい!」


 すぐに電話音が切り替わった。のんびりとした保留音が流れる間、スピネルは足を組んで優雅に待っている。そして目的の相手が出ると気軽に話しかけた。


「久しぶり。突然で悪いんだけど、オシスミィ領主への攻撃許可ちょうだい」


 スピネルが少しも悪いと思っていない口調で無理難題を平然と吹っかける。

 少しの沈黙の後、内容は聞き取れないが渋るような声が電話口で響いた。


「――――――――そう。でも、あんたのとこの兵がモン・トンプ島を攻撃してきたのよね。その首謀者がオシスミィ領主らしいんだけど?――――――それは分かってる。けど、始祖を盗んでるのよね。こちらとしては即刻、取り返したいんだけど?」


 とんでもない交渉内容にオニキスは苦笑いを浮かべるしかない。常識という言葉が似合わないと思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。


 非常識という言葉をスピネルの代名詞にしようかと考えているオニキスに対して、鴉は慣れた様子でスピネルを気にすることなくノートパソコンを操作している。


「――――――――なら、情報規制だけでもいいわ。後でその証拠を出すから。」


 スピネルの提案に相手はなかなかイエスと言わない、というより言えるわけがない。


 スピネルは全身から脂汗を吹き出しているであろう顔の見えない大統領にむかって、にっこりと妖艶な笑みを浮かべて言った。


「じゃあ、いいわ。こっちで好きにするから。後処理、頑張ってね。」


 スピネルが耳から携帯電話を離すと、必死に叫ぶ声が聞こえてきた。スピネルは再び携帯電話を耳にあてる。渋々というか、搾り出すような呻きに近い返事が聞こえた。


「―――――――――それで、いいわ。ごめんなさいね、無理言って。」


 そう言うとスピネルはあっさりと電話を切って鴉に投げた。鴉はノートパソコンに視線をむけたまま、携帯電話を左手でキャッチする。


「モン・トンプ島攻撃事件そっちから交渉(せめる)するとは考えたな。証拠書類は直接、大統領に送っていいか?」


「そうしといて。第一、あんな交渉じゃ時間の無駄よ。バカ正直に誘拐のことを言う必要ないわ。どうせオシスミィ領主とは戦闘になるだろうし、それなら始めっから攻撃許可をもらっといたほうがいいでしょ?それと、現状を説明してもらえると嬉しいんだけど」


 スピネルの要求を予想していたのか、鴉はノートパソコンをスピネルに見せる。その画面にはオシスミィ領主のことについて二、三行ほど記載されていた。


「オシスミィ領主については情報が少ない。領主の名前、年齢、顔、経歴など全てが非公開だ」


「よく、そんなのを領主にしているわね」


「オシスミィ領主はセルティカ国を創立した王家の子孫だ。王家が現政府にセルティカ国を譲るときに出した条件が王家の情報の全面非公開だった。そのためオシスミィ領主のことは現在も非公開となっている」


 そのことにスピネルが首を傾げた。


「なんで非公開にこだわるのかしら?なんか、まずい秘密でもあるの?」


「セルティカ国を創立した頃から王は国民の前に一度も姿を現したことがなく、城に出入り出来る人間は限られていたそうだ」


「それって、おもいっきり秘密がありますってアピールしてるようなものじゃない。それに迫害されていたモン・トンプ島の一族を初めて保護したのって、セルティカ国を創立した王よね?その王の子孫が始祖をさらったってこと?」


「そうだ。だが、ここまで秘密主義だと現在の領主が王の正統な子孫であるかも怪しい」


「ま、王の子孫でも、そうでなくても関係ないわ。とにかく、沙参ちゃんも無事でそこにいるといいんだけど」


「いなくても手がかりはあるはずだ」


 鴉は断言しながらノートパソコンを片付ける。


「そう。で、作戦はどうするの?」


「君はどうしたい?あと一時間待てば地上部隊が到着するが」


「待ってる時間がもったいないわ。私が敵をひきつけるから、二人はオシスミィ領主を捕まえて情報を聞き出して」


 そう言って微笑みながら、スピネルが足下に置いていたスーツケースの鍵を外す。

 スーツケースの中には、自動拳銃、短機関銃、自動小銃から軽機関銃まで入っている。他に手榴弾などの弾薬も隙間を埋めるよう入っており、よく詰め込めたものだと感心するほどだ。


 スピネルが手際よく全身に武器を装備していきながら、鴉とオキニスを見る。


「なんかいる?いくらでも貸すわよ」


 スピネルの申し出に、二人は揃って首を横に振って断った。


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