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魔王ですが起床したら城が消えていました。  作者: みなかみしょう
双子の国エリンとラエリン編
18/121

17話「ラエリン城の戦い2」

 さて、戦いを始める前に、双方の戦力を検証してみよう。

 まずは、私達だ。

 

 神世エルフ、フィンディ。

 言わずと知れた世界唯一の神世エルフである。莫大な魔力を持ち、膨大な魔術を行使するための専用の杖を持っている。全身を神々の時代に生み出された装備で固め、秘密のポケットには大量の魔術具が収まっている。長い付き合いの私ですらも、彼女がどれだけの魔術や魔術具を持っているか把握していない。とにかく出鱈目な強さなので、もし敵対することになったら全力で逃げることを、私は心に決めている。

 

 グランク王国の使者、ピット族のピルン。

 冒険者ギルドの一件でわかったが、彼は強い。私とフィンディとは違う、肉体的な強さを持っている。体躯の小ささと素早さを活かした戦いが得意なようだ。現在のピルンはフィンディから渡された神世エルフの魔術具で武装しているので、かなりの実力者であると言ってもいいだろう。

 

 そして、私。元魔王、バーツ。

 魔力量だけなら、フィンディを超える。使える魔術の種類はフィンディに及ばないが、私は私で魔王時代に学んだいくらかの技がある。伊達に魔王をしていたわけではない、この世界で怖いのはフィンディと勇者くらいだ。

 

 次に敵を見てみよう。

 元大臣、名称不明の魔族。

 邪悪な見た目をしているが、一人だけだ。見た感じ、強大な魔力を感じるわけでもない。魔王時代の配下の方が強力だろう。相手を洗脳する魔術が使えるようだが、私やフィンディには通用しない。

 

 さらに、ここには私達3人の他に、ラエリン王国の騎士団も揃っている。間違いなく、この国最強の戦力だろう。


 結論を言うと、敵は戦う前から負けている。我々の戦力は圧倒的だ。油断とか慢心をしてはいけないとかいうレベルではない。

 これでは元大臣が気の毒だ。まずは、降伏勧告から始めることにしよう。

 


「あー、元大臣。降伏したまえ。今なら命までは取られないと思うぞ」

「貴様、馬鹿にしているのかっ!」

「そうじゃぞバーツ。なんで交渉から始めるのじゃ。ここは景気よくワシらが魔族を吹き飛ばすところじゃろ」


 元大臣とフィンディの双方が非難の声を私に向けてきた。室内のほかの人は様子見のようだ。


「いや、戦力的にこちらが圧倒的だからな。それに、なんでラエリンを陥れようとしているのか知りたい」


 何故、魔族がわざわざ人間のふりをして王宮に入っていたのか。

 何故、エリンとラエリンに国同士の戦争を起こそうとしていたのか。

 非常に気になるところだ。理由を知りたい。

 それに、元大臣は今のところ、国内の情勢を不穏にしただけで、致命的な出来事を起こしていない。すぐに殺すのではなく、情報源として利用すべきだろう。

 

「なるほど、貴様が欲しいのは情報だな」

「そうだ。だから大人しく投降しろ。元大臣、お前に勝ち目はない。私はともかく、そこの神世エルフは血と闘争に飢えている。魂まで消されるぞ……」

「物騒なことをいうな。そこまでのことはめったにせん」


 できるのか、魂の消滅。神世エルフ怖いな。


「……今、血に飢えているのを否定しなかったような気がするんだが。噂通りの恐ろしいエルフだな」


 こいつはどんな噂を聞いていたのか、そこも是非とも確認したい。


「どうみてもお前が不利だ。相手が悪い。私もフィンディもお前を逃がすつもりはない。大人しく捕まるのが身のためだと思うぞ」


 私の忠告に対して、元大臣は醜い顔をさらに歪めながら答えた。

 

「断る! そもそも捕まったところで命があるとも思えん! というか俺が貴様らに殺されると誰が決めた!」

「交渉決裂じゃなよし殺そう」

「落ち着けフィンディ。殺しはダメだ、情報は必要だ」


 流れるような動作で杖に魔術を準備し始めたフィンディを押しとどめた時だった。


「貴様らはどうかわからんが、この王宮くらい軽く吹き飛ばしてくれる!」


 怒りと共に元大臣の翼が翻った。翼の表面に魔力が走り、体が浮かぶ。元大臣の右手に魔力が集まるのを感じる。謁見の間の天井は高い、上から魔術を叩き込む気だ。


「無駄なことを……」


 私が迎撃の魔術を出そうとした瞬間だった。

 

「与えよ・我が身に・風の翼を・疾風が如く・滴落ちる時で」


 ピルンの短文詠唱が聞こえた。

 次の瞬間、私が認識できないくらいの速さで、ピルンが空中へ向かって高速移動を開始した。

 ピルンの動きに元大臣も反応できない。

 空中を駆けたピルンが大臣と交差、その一瞬で、彼は握った短剣を振りぬいた。フィンディから渡されたエルフの短剣は、魔族の右手の手首から先を、特に抵抗を感じさせることなく切り飛ばした。 

 一瞬だった。元大臣の手首が飛んだと思ったら、ピルンはもう私の隣に着地していた。


「申し訳ありません。危険だと思いましたので、反射的に」

「いや、問題ない。私の魔術だと、あれの命が終わっていた」

 

 冷静に、淡々と報告するピルン。装備の力もあったろうが、見事な業前だ。


「う、腕があああ! 俺の腕がああ!」


 元大臣の方はというと、無くなった右手を抑えながら、空中で絶叫していた。治癒魔術を行使しているらしく切り口から出血はしていないが、とても痛そうだ。これで戦意喪失してくれないだろうか。


「もう一度言う、降伏しろ。お前に勝ち目はない」

「ぐぅ……」

「流石に勝ち目がないのはわかるじゃろ? 悪いが逃がすつもりもないぞ。いや、ワシとしては抵抗しても構わんのじゃがな」


 フィンディが杖を向けて言う。この女、きっと心の中では「全力で抵抗しろ」と思っているに違いない。


「……決めたぞ」

「おお、降伏する気になったか」

「こうなったら魔族らしく、出来る限りひと暴れしてやる!」


 追い詰められたからといってヤケクソになることないのに。

 元大臣は全身から魔力を放出。効率も何もない、とにかく暴れる構えだ。

 

「最近は命を無駄にする輩が多いのか……」


 やれやれと私が眠りの魔術を準備しようとした時だった。


 突然、室内に声が響いた。

  

「よくぞ言った」


 直後、元大臣を貫いて、剣が現れた。

 

 ○○○


「ぐっ、な、なんで……」


 空中で後ろから剣で貫かれた元大臣。

 いつの間にか、その後ろに、一人の男が現れていた。


「おお、イケメンじゃ」


 フィンディの言うとおり、謁見の間に新たに登場したのはイケメンだった。

 金髪に褐色の肌。ちょっときつい感じのするイケメン顔。黒い服の背中からは一対の黒い翼が生えている。

 間違いない、彼はイケメン魔族だ。

 

 そして、イケメン魔族の剣に貫かれた元大臣。彼は全身から火を吹き出して燃え始めた。


「ああああああああ! 熱いぃぃぃ! やめてぇぇ!」

「何を言う。死ぬ覚悟があったのだから構わんだろう? 遅いか早いかの違いしかない」


 目、鼻、口、そして全身から炎を吹き出しながら、断末魔すらろくに上げることもなく、大臣は燃え尽きてしまった。

 あっけないものだ。察するにこのイケメンが黒幕なのだろうが、やり過ぎだと思う。こちらへの威嚇も含めての行為かも知れないが、効果的とも思えない。

 

「さて、こちらの用件は片付いた。騒がしくして済まなかったね」

「いや、お前誰だ。元大臣の何だ。何が目的でここに現れた」


 私の矢継ぎ早な質問に、イケメン魔族は一瞬、ぽかんとした顔をした。

 すぐに気を取り直したらしく、キメ顔で話し始める。


「……随分と余裕だな。いや、森の大賢者がいれば気も大きくなろうというものか」


 どうやら、私の態度の要因はフィンディにあると思ったらしい。勘違いだが、まあいい。こいつを脅威に感じていない事実は変わらない。

 ふと、ピルンに目を向けると、すでにラエリン王を守れる位置にいた。優秀だ。この場合、一番危険なのは王だ。


「いきなり現れたお主、何者じゃ? 察するに黒幕と言ったところに見えるが」

「これは失礼を。私はゴードと申す者。この地域に住まう魔族でございます」


 私と違ってフィンディの質問には答えてくれるようだ。ここは彼女に任せておこう。


「なぜここに現れたのじゃ?」

「簡単なことです。この王宮に送り込んだ配下がボロを出したので処罰に来た。それと、神世エルフを見てみたいと思いましてね」


 なるほど。こいつの狙いはフィンディというわけだ。きっと、彼女を見て満足して帰る気は無いに違いない。


「ほう。それで満足かの?」

「ええ、満足ですとも! それにしても、ハハっ! まさか伝説の神世エルフがそのような少女の姿をしているとは! いえ、全く、長生きしてみるものですね! このような面白いものが見られるとは! 伝説の神秘にして美麗というのは『一部の趣味の者にとっては』といったところでしたかな!」

「馬鹿にされたもんじゃのう……」


 やばい。フィンディの奴、滅茶苦茶怒ってる。杖を握る手に力が入りすぎだし、体内の魔力が爆発寸前だ。

 彼女は外見のことを、あまり気にしていないようで、かなり気にしているのだ。なんでも大昔にそれで仲間からかなりいじられたらしい。


「ゴードと言ったな。何故、こんなことを企んだ」

「なんだ貴様は? いや、冒険者か。まあ、いいだろう。教えてやる。ちょっとした理由があって、私には手土産が必要だったのだ」

「手土産だと?」


 ほほう、ちょっとした理由が「手土産」か。非常に興味深い。


「そう、私の策略で人間の国同士が泥沼の戦争になったという手土産だ。まさか、こんな形で失敗するとは思わなかったがね」

「それは残念だったな。もう帰ったらどうだ」

「帰るとも。彼女のおかげで、もっと面白い土産を思いついたからな!」


 そういうと、ゴードは懐から手紙を取り出し、気取った動作でフィンディに向かって放り投げた。

 フィンディはそれを受け取り、中身を見る。

 

「これは、使い捨ての転移魔術陣じゃな」

「いかにも。その魔術陣を使えば、私の城に来ることができる。神世エルフ、フィンディ、貴方を私の城に招待しよう。そこで我が物となるのだ」


 なるほど。そういうパターンか。きっと、城にいけば趣向を凝らした催しが待っているに違いない。


「好き勝手言われたものじゃのう……」

「もちろん、仲間を連れてきても結構だ。世界最後の神世エルフを手に入れるには相応の労力が必要ですからな」


 陰謀が破綻したから、狙いを変える。実力差という現実が見えていないこと以外は臨機応変な奴だ。


「そうだ、忘れていた。王宮の諸君には、お詫びにエリンの王子の居場所を教えよう。この城の地下にいるよ。貴人用の牢屋というやつにな」


 どうやら、王子の居場所はノーラ姫達の予想通りだったらしい。良かった。ひとまず、彼女からの依頼は解決できそうだ。ここで王子の居場所を教えてくれるということは、ゴードの狙いは本当にこの国からフィンディに移ったということだろう。大物狙いはいいが、見込みが甘すぎる。


「それでは、世界最後の神世エルフよ。我が城でお待ちしております」


 優雅に礼をしながら去ろうとするゴード。ゆっくりと彼の周囲に魔力が満ちていく。転移魔術で去るつもりなのだろう。

 その光景を眺めながら、私はふと思った。

 

 こいつをここで逃がす理由、ないんじゃないか?

 

 王子の居場所はわかった。全ての黒幕はこいつだ。しかも、私にとってかなり興味のある事情を抱えているように見える。

 本人はここで自宅に帰って、フィンディの歓迎会をしたいようだが、私達がそれに付き合う理由も道理もない。

 

 なにより、ここで捕まえた方が手っ取り早い。

 

 よし、そうしよう。

 決断した私は、すぐに行動に移った。

 

「悪いが。お前はここから帰ることは出来ない」


 ゴードに向かって、私は右手を向ける。我が魔力が練り上げるのは、鎖の魔術。先程、城の防衛魔術として発動し、私達に向かってきたものだ。それを更に強化した上で、私は魔術として行使する。

 右手から放たれたのは白銀に輝く3本の鎖。行先はゴードではなく、彼が展開し始めていた転移魔術陣だ。


「なんだと!」

 

 ゴードが驚愕した一瞬に、鎖の魔術が転移魔術陣を貫いた。強力な魔力の奔流に、陣は一瞬で消し飛ばされる。

 

「馬鹿な……。我が魔術がこうも簡単に……」

「実力の差というものだ。悪いが、ここでお前を捕まえる。考えてみたが、逃がす理由はないのでな」


 私はそのまま鎖の魔術を操って、ゴードを捕らえにかかる。彼には回避不能、脱出不能の魔術だ。

 その時、予想外のことが起きた。


「ごぶはあああ!」


 どういうわけか、私の鎖が絡めとる前に、ゴードが派手に吹っ飛んだのだ。

 

 かなりの威力の何かが直撃したゴードは、そのまま謁見の間の壁に激突し、床に落ちた。尻をつきだした間抜けな格好での着地だ

 それにしても、凄い威力と速さの魔術だった。

 こんなことが出来るのは、この場に一人しかいない。


「フィンディ……」

「バーツよ。そういうことなら、ここはワシに任せてもらおう」


 輝く杖を手にしたフィンディが、怒りのオーラを発しながら、私に宣言した。 

フィンディさんは外見のことを馬鹿にされると凄く怒ることがあります。怒るかどうかはその日の気分なので、面倒な人です。


当初はよくある展開で、ここからゴードさんの城を攻略して、双子の国編の決戦になる予定だったのですが、書いてる途中で「ここで逃がす理由ないな」と思い、この展開になりました。


次回もラエリン城の戦いになります。

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