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魔王ですが起床したら城が消えていました。  作者: みなかみしょう
双子の国エリンとラエリン編
15/121

14話「ノーラ姫からの依頼」

 ピルンを除く3人、私とフィンディとロビンは冒険者である。

 冒険者は依頼を受けて、解決することで報酬を得る職業だ。路銀に困っているわけではないが、収入は大事である。

 そんなわけで、今回の事件はノーラ姫からの依頼として私達は請け負うことにした。前金は無し、報酬は依頼が成功したときのみ。難易度を考えれば、こんな条件で依頼を受ける物好きなど私達くらいなものだろう。


「まずは依頼の確認だ。姫さん、俺達は何を目的にすればいい? 最優先すべきは何だ?」


 ロビンが改めて依頼内容の確認をする。先ほどの話でノーラ姫の状況はわかったが、彼女が何を望んでいるかまでは確認していない。果たして、彼女は何を望むのか。戦争の回避か、恋人の救出か。


「私の望みは、アシュナー王子の救出です。私は王子と共に生きたいのです。例え、身分を捨ててでも!」


 ノーラ姫は愛に生きる人のようだ。王子の救出だけなら難しくなさそうだ。しかし、それだと国の方にかなり問題が出ると思うのだが、それは良いのだろうか。


「わかった。最優先は王子の救出だな。しかし、王子を救出して姫様と逃がしたとすると、最悪、この国で戦争が起きないか?」


 単純に切羽詰まりすぎて思考が追い付いていないだけかもしれないので、念のために私の方から確認する。


「恐らくそうなるでしょう。王子救出をエリンの仕業とラエリンは訴え、ラエリンは姫様の失踪をエリンの仕業と訴え、そのまま泥沼に……」

「首都が隣り合ってるおるから、泥沼の市街戦じゃな。沢山、民が死ぬのう」


 護衛の男の悲痛な言葉に、フィンディが冷静な口調で続ける。冷静に物事を見る能力があるのに、血の気の多い発言が多いのが謎な神世エルフである。


「勿論、私は戦争も望んでおりません。王子の救出と、可能ならば元の平和な国に戻して頂きたいです」


 依頼としての難易度は上がるが、当然の要求だろう。ノーラ姫は、愛のために故郷を戦火に包まれるのを良しとする人ではなくて良かった。この場で「王子以外はどうでもいい」とか言われたら見捨てたかもしれない。


「計画としては私の身分を使って、バーツ様とフィンディ様が王城に入って調査します。もし、何らかの魔術の仕業とわかれば、解決できるでしょう。しかし、王の本心だった場合は……」


 ピルンの諭すような口調に対し、苦悩をにじませながらノーラ姫が答える。


「王も王城の皆も、あの変わりようは異常でした……。邪悪な魔術の仕業だと思いたいです」

「何らかの魔術である可能性は高いだろう。残念ながらそうでなかった場合は、王子の救出を優先させてもらおう」


 ノーラ姫は無言で頷く。国の首脳陣が自主的に戦乱を望んでいたのなら、それはそれで仕方ないだろう。私もその場合は最低限の手出しにしておくつもりだ。冷たいようだが、人間同士の諍いに必要以上に関わるつもりはない。


「ところでよ、バーツ達は、王城で使われた魔術についてアテはあるのかい?」


 ロビンがそんな質問をした。彼自身、王城の出来事を何らかの魔術の仕業と推測したものの、そちら方面の具体的な知識はないようだった。

 ここは一つ、その道のプロであるフィンディに推測を話してもらおう。魔術に関する知識ならば、この世界で最も頼りになるのが彼女だ。私以上に正確な推測を披露してくれるに違いない。

 

「フィンディ、どう思う?」

「国王の心変わりは魔族の仕業である可能性が高い」


 おお、大きくでたな。はっきり魔族と言うとは思わなかった。


「魔族、ですか? 大賢者殿、人の心をこれほど強力に操る魔族など、聞いたことがありませぬぞ」


 護衛の男がいう。考えてみれば、魔王が倒された500年前以降、人間社会の近くで暮らす魔族は激減しているはずだ。そして、私が率いた配下以外の魔族は力もそれほど強くない。人心を操る魔族の存在が、人間の知識から失われていても不思議ではない。


「数は少ないが、心に作用する能力を持つ魔族は確かに存在する。人間を誘惑するサキュバスなんかもその一種じゃ」

「なるほど……。しかし、グランク王国で暮らす魔族などにそんな能力がある者はいませんでしたが……」

「数が少ないと言ったであろう? その手の魔族は500年前の大戦で勇者に殆ど狩られたのじゃよ」


 そういえば、500年前の勇者は心理に作用する魔術や能力を持つ魔族を優先的に倒していた。人間社会に対して脅威になるという認識だったのだろう。おかげで、魔王城でもその手の魔族はサキュバスくらいしか生き残っていない有様だった。


「そうすると、過去に勇者が狩りそこねた魔族が、王宮を好き放題してるわけかい。証拠はあるのか?」


 ロビンの問いにフィンディが答える。


「確証は無い。こればかりは直接行って確かめるしかあるまい」

「私とフィンディなら魔族が正体を隠していても見破ることが出来る。それに、王子の救出も可能だろう」

「さっきも言ってたけど本当かよ? いや、あんたらの強さを疑ってるわけじゃねぇが」


 不安そうなロビン。どう説明したものかと思っていると、ノーラ姫が口を開いた。


「そういえば、聞いたことがありますわ。カラルド王国の森の大賢者と言えば、その強大な魔術と繰り出す暴力は大陸一だと」

「姫様、仰るとおりです。私が昔、目にした際には、たった一人で森から溢れた魔物を退治しておりました」

「そうですか。なら安心ですね!」

「そうか。姫さん達がそこまで言うなら安心だな」

「いや、ワシとしてはどこの誰がそんな噂をばらまいたのか気になるのじゃが……」


 不満顔のフィンディだが、身から出た錆だ。好き放題暴れるのが悪い。


「納得してくれたならいいじゃないか。さて、私としては王城に向かうのと、姫様の護衛の、二手に分けたいと思うのだが」

「内訳はどうなるんだい?」

「私とフィンディとピルンが王城攻略。ロビンと護衛殿が姫様を守りながら隠れていてくれ」


 地元のベテラン冒険者なら逃げ隠れるのも得意だろう。ロビンと護衛に隠れ潜んで貰っている間に、私達が手早く事件を解決するのが一番良さそうだ。幸い、ピルンの身分を使えば王城には入れる。事前に偵察した上で乗り込めば一日程度で解決できる可能性は高い。


「それはいいがよ。事態が動いたら、どうやって連絡するんだ? いつまでも逃げ回るのは無理だぜ」

「ワシが連絡用の魔術具を渡しておこう。状況が解決したら転移魔術で王城まで呼び寄せてやるわい」

「それと窮地になった時も連絡して欲しい。そちらに転移して助けに入る」


 その場合は王城攻略は後回しになって、先にノーラ姫を逃がす方針になるだろう。そうなる前に、事態を解決したいものだ。


「フィンディ、魔術具は人数分あるのか?」

「勿論じゃ。ワシを誰じゃと思っておる」


 フフン、と自慢げに笑いながら、フィンディがローブの中をごそごそ始める。大量の魔術具が入った、例のポケットの中を探しているのだろう。


「流石は森の大賢者様……」


 ロビン達が驚愕しつつも頼もしく見てくれる。若干凶暴な点を除けば、彼女が頼りになる存在なのは間違いない。


「さて、方針はこれで決まりだな。王子の囚われていそうな場所に見当はつくだろうか?」

「王城の地下には貴人用の牢があります。魔術的防御も施された特別な場所で、可能性は高いかと」

「地図を書いてもらうことは可能ですか?」


 ピルンが紙とペンを出しながら言うと、護衛の男がはすぐに地図を書き始めた。実に手馴れた動作だ。話が早くて助かる。王城の機密が筒抜けだが、非常事態だから仕方ないだろう。

 作業の進捗を見ながら私は言う。


「姫様に追手がかかっていることを考えると、とにかく急いだ方がいいだろう。すぐに行動を開始しよう」

「わかった。俺達は荷物をまとめてすぐにこのアジトを出る」

「ワシらは王城の偵察じゃな。状況報告はこの魔術具で行う」


 フィンディが全員に腕輪型の魔術具を配る。知っているやつだ。呪文を唱えると短時間の通信が可能になる魔術具である。所持者のフィンディは身につけている人間を探知できるという機能までついており、この状況に最適な一品だ。

 

「ロビン、何日くらい逃げ続けることが出来そうだ?」

「姫さんは目立つからなぁ。一週間と言いたいが、せいぜい5日くらいだろう」

「わかった。我々は2日以内に事態を解決するのを目標にする」

「そ、そんなに早くできるものなのですか?」

「勿論じゃ。ワシらを誰じゃと思っとる」


 姫の疑問にフィンディが自信満々で答えた。

 自信に溢れたその様子を見た姫は、立ち上がり、目を伏せながら、優雅な動作で私達に頭を下げながら言った。

 

「貴方がたにこの依頼の解決をお願いします。どうか、この国の危機をお救いください」


 切実な願いに対して、私達三人は黙って首肯して答えた。

サブタイトルを予定から変更しました。わかりやすさ重視です。


次回は「ラエリン城突入準備」になります。

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