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魔王ですが起床したら城が消えていました。  作者: みなかみしょう
双子の国エリンとラエリン編
12/121

11話「双子の国・冒険者ギルドとハゲ」

 双子の国、エリンとラエリンの王都の名前はそれぞれ国の名前と等しい。

 歴史上、一つの国から分割した経緯を持つこの国は、王都がお隣同士というかなりどうかした状態になっている。

 私達3人は飛行魔術を使用しつつ、エリンの王都に到着した。カラルドの王都オアシスを出発して、3日目のことである。


 エリンとラエリンの王都は国境も兼ねる川を挟んで隣り合っている。豊富な水と歴史ある町並みが調和した美しい街だ。

 人口も多く、大通りは賑やか。ちょっと散歩するだけでも楽しい観光の街でもある。

 ピルンの情報によれば、2国の王族の婚姻も決まっているという話。さぞ街は賑わっているだろうと思っていた。


「なんか、聞いていた話と大分違うようだが……」

「そうじゃな。とてもめでたいことが起きているようには見えん」

「妙ですね。露店の価格も前より上がってます。まるで戦争の前ですね」


 エリンの王都は重苦しい空気に包まれていた。晴れやかな天気、そこかしこを流れる水路からは涼しげな水音、意匠の凝らされた建築物。通りを歩くだけでちょっと良い気分になれそうなロケーションにも関わらず、人々の顔は暗い。商店も活気がなく、ピルンの言うとおり、妙に価格が高かったり、品切れを起こしている。

 まるで戦争が起きる前触れのようだ。


「情報を集める必要があるな」

「王城にでも行くか? ピルンの身分で入れるじゃろう」


 なあ、と問いかけたフィンディに対して、ピルンが少し考えてから答えた。


「いえ、少し町で情報を仕入れた方が良いと思います。この空気の原因だけでも把握してから城に向かった方が良いかと」

「なるほど。ならば、手早く情報を仕入れるべきだな」

「はい。冒険者ギルドに行きましょう。あそこなら情報が集まっているはずです」


 実は私達はカラルドの冒険者ギルドから紹介状を書いて貰っている。行った先の冒険者ギルドで優先的に情報を回してもらうためだ。カラルドの大臣エティスの計らいである。

 こういう時こそ、もらったものを使うべきだろう。


 ○○○


 エリンの冒険者ギルドは、貴族か豪商あたりの屋敷だった建物を改装して利用している、大きさも佇まいもなかなかのものだった。

 荒っぽいことが専門の冒険者が集うには、ちょっと良すぎる建物な気もしたが、これも土地柄というものだろう。

 歴史を感じさせる凝った作りのドアを開き、私達3人は中に入った。


 さて、ここに来るまでにわかったことだが、我々は結構目立つようだ。

 比較的長身で灰色のローブ姿の私に、幼い見た目ながら青みがかった銀髪を始めとした美しい外見が目を引くフィンディ、ドワーフよりも小柄なピット族のピルン。

 どうみても普通の冒険者の組み合わせではない。

 別に世を忍んで旅をしているわけではないが、割と好奇の目で見られることはあった。

 そして、ここエリンの冒険者ギルドの人々の対応は、非常にそれがよく出ていた。

 

 扉を開けてギルドのロビーに入るなり、中に居た冒険者が一斉に私達に注目したのだ。

 依頼をやりとりするための受付や、食事などの休憩を取るためのテーブルが一緒になった冒険者ギルドでは一般的な施設であるロビー。

 数十人はいるであろう、テーブルの冒険者達が、一斉に私達に注目した。

 ギルドにありがちな喧騒もなく、妙な沈黙と共に。

 

「む……。なんだ、冒険者ギルドの割に静かだな」

「席は空いてないみたいですね」

「仕方ない。受付で話でも聞いて退散するとするかのう……」


 視線に戸惑いながらそんな話をする。冒険者達は私達をしばらく見ているうちに、順番に視線を外していった。室内は妙に静かなままだ。

 とりあえず受付に向かおうと思ったところ、こちらに手招きしている人物に気づいた。

 

 見れば、店の奥のテーブルにいるハゲでマッチョな男性ががこちらに手招きしていた。

 私はこの国にハゲの知り合いはいない。カラルド王国ではハゲに悪い思い出が出来たが、人を見た目で判断するのは良くないだろう。

 素直に手招きするハゲのところまで歩いて行く。自然、フィンディとピルンもついてくる。 


「私たちに何か用か?」

「あんたら、良ければ少し俺と話をしねぇか。ま、座ってくれよ。一人で寂しくてよ」

「ふむ……」


 どうする、と二人を見る。ピルンとフィンディは共に頷いた。


「せっかくですし、お話を聞いてみましょう」

「そうじゃの。他の席も空いてないみたいじゃしな」


 二人の同意が取れたので椅子に座る。そういえば、このハゲが話しかけた瞬間、周囲からの視線が完全に消えた。もしかしたら、このハゲはギルド内ではなそれなりの人物とかなのだろうか。

 丸いテーブルの周りにそれぞれ座り、会話が始まった。


「よしよし。あんたら、どこから来たんだ」

「カラルドからだ。今日、王都に入った」

「カラルドか。それは遠くから来たもんだ。おっと、名乗るのを忘れてたぜ。俺はロビン・ウィルマン。この街で冒険者をやってるもんだ」

「バーツだ」

「フィンディじゃ」

「ピルンと申します」

「バーツにフィンディとピルン、と。……ん? フィンディ? どこかで聞いたことが」

「気のせいじゃろう。珍しい名前でもない」


 テーブルの上にあったメニューを見ながらしれっというフィンディ。

 ハゲの方は「そうだな」とすぐに同意した。どうやら詮索しないことにしたようだ。


「誘った手前だ。最初の一杯くらい奢るぜ」

「いや、それは……」

「遠慮すんな。冒険者なんてのは縁が大事だ。俺はあんたらみたいな変わったパーティーと話すのが好きなんだ」


 意外にも、屈託のない笑みを浮かべながらロビンが言った。ハゲにマッチョといういかつい外見もあって30代くらいに見えたが、実はもう少し若いのかもしれない。

 

「確かにワシらは変わってみえるじゃろうなぁ」

「そうですね。そうだ、一杯奢って貰う代わりに、何か食べ物をこちらから注文するということでどうです?」

「おう、ピット族の兄ちゃんは気が利くねぇ」


 ピットの提案に異論は無かったので、ロビンにオススメを聞きながら適当に料理を頼んだ。私達がアルコールを頼まなかったのでロビンもそれに合わせてくれた。周りを見ると昼間から飲んでいるのも珍しくないのだが、案外真面目な男のようだ。

 程なくテーブルに食事が届くと、ロビンは小声で話し始めた。


「あんたら、驚いただろ。王都がこんな様子でよ」


 いきなり本題だ。彼はいいハゲなのかもしれない。こちらの欲しい情報について教えてくれる。


「かなり驚いた。王都は結婚の祝いで祭りのような騒ぎだと聞いていたのだが」

「一週間前まで確かにそうだったさ。それが今、おかしなことになってこの有様だ」

「おかしなこと?」


 ロビンの説明によると、この一週間で以下のようなことが起きたらしい。

 一週間前まではピルンの話した通り、ラエリンの姫とエリンの王子の結婚でどちらの国もお祭り騒ぎだったらしい。

 正式な式の日程がそろそろ決まるかと思われた矢先でそれは起こった。


 ラエリンの王が自身の暗殺を企んだとして、エリンの王子を捕らえたのである。


 ありえない話だとエリン側は抗議したが、ラエリンの王は全く聞く耳を持たなかった。理知的で冷静と評判の王としてはありえないことだ。

 状況を悪くしたのは、同時にラエリンの姫が行方不明になっていることだった。王子と共にラエリンにいたはずの彼女なら事の詳細を知っていて、王子の潔白を証明することも可能なはずなのに、むしろラエリン側が「エリンの陰謀で姫が攫われた」と混乱を深めることになってしまっている。


 ラエリン王の変心とも言われる事態の発生によって、二国間の緊張感は歴史上最大級になり、隣り合った王都は不穏な空気に支配されることになった。


「……わからんのう。元々仲の良い国同士の婚姻で、いきなり王がそんなことを言い出す理由が思いつかん」

「俺達もびっくりしたさ。だが、現実問題、姫さんは行方不明。相手が王様だし、城の出入りは制限されるし、隣り合った王都同士で戦の気配になるしで、最悪だ」

「ここで戦争をしたら、いきなり市街戦ですからね。大変なことになります」


 エリンとラエリン。双子の国。王都が同じ場所にある以上、戦争などしたら共倒れになりかねない。運命共同体なのだ、この二国は。

 王族ならば、そのくらいわかっているだろうに。


「ロビンのおかげで町の事情はよくわかった。それで、冒険者ギルドもこんな雰囲気なのだな」

「まあ、理由は、それだけじゃねぇんだけどな」

「それだけじゃない?」


 その時、ギルドの扉が開いた。

 私達が来た時と同じように、店内の冒険者が一斉に扉の方を見る。

 入ってきたのは二人の男女。フードを深くかぶっているため、顔まではわからない。

 店内の視線を一身に受けるのを意に介さずに、二人はギルド内のカウンターまで一直線に歩いて行く。

 そして、受付に着くと、一人がフードを取り、いきなりこちらに振り返って叫んだ。


「逆境ですわ! 人生最大の逆境ですわ! 冒険者の皆さん! 力を貸してくださいまし!」


 予定にない行動だったのだろう。隣の男の方が慌てて止めるがもう遅い。


 フードを取った女性はとても美しかった。室内の照明を受けて輝く短い金髪、透き通るような碧眼。細く上品な眉。顔を構成するパーツは儚げでありながら、強い意志を示す視線。

 ここに来るまでに何かあったのか、若干薄汚れているが、一目見ただけで彼女がかなり地位の高い人間であるのは明らかだった。

 見れば、隣に座るピルンが、口をあんぐり開けて驚いている。どうやら、知っている顔らしい。

 

 この場合の知っている顔といえば……。


「あれが、行方不明だったノーラ・ラエリン姫だ」


  私が思考する前に、ロビンが答えを言った。

今回は良いハゲ(予定)が現れます。


次回は「ノーラ・ラエリン」になります。


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