99話「変わる世界」
「うむ。流石は父上じゃ。見事な仕事じゃのう」
「こんなに手助けして貰って良いのだろうか……」
眼下に見える景色を見ながら私は思わず呟いた。
ここはフィンディの実家、新たに私達のために造って貰った部屋の中だ。
予定通りとはいかなかったが、無事に私が神になったこともあり、義父が世界を管理するための部屋を用意してくれたのである。
作りは義父のものと同じで、神殿風の建物内に世界を見渡すための部屋がある。私とフィンディの生活空間は別の場所だ。
「神の力の扱いになれたら作り直せばいい」とも言われているので、少しずつ私達らしい形になっていくのだろう。
「魔王城が見える。本当に、私達のいた世界なのだな」
「当然じゃ。ワシらがここから色々と世界に手を出すのだからのう」
目の前の景色は私の思うとおりに変更できる。今、見ているのは魔王城のある島だ。
神となった私には島内の人々の様子がよくわかる
魔王城の一室にピルン、サイカ、ヨセフィーナがいるのが見える。何か話し合いをしているらしい。頑張ればここからでも声くらい届きそうだが、それ以上は今のところできそうにない。
「……お待たせ致しました。奥様とは久しぶりなので少し話し込んでしまいました」
私とフィンディが世界を眺めていると、ミルスが部屋にやってきた。
連絡を入れたらすぐに来てくれた。ありがたいことだ。
「ミルスは母上のお気に入りじゃからな。すまんのう」
「いえ、お気になさらず。バーツさん、フィラルディア。無事に神になれたこと、嬉しく思います。二人がこれからも良き神として過ごせるよう、協力は惜しみません」
そういって女神は丁寧にお辞儀をした。
「ありがとう。女神ミルス」
「お主には色々と手間をかけたのう」
「手間だなんて。私はただエヴォスが干渉しないよう目を光らせていただけです。おかげでバーツさんが大変なことになったようですが」
「問題ない。結果良ければ全て良しだ」
私の調整を受けたエヴォスはきっちりと我々の従属神になっていた。人格も大分落ち着いたようで、本人も「こんなに穏やかな気持ちになったのは初めてです」と言っている。良いことをしたと思っておこう。
ついでにエヴォスの戦士であった元勇者マイスとその仲間達も、私達の部下的な立場になっている。せっかくなので、世界に迷惑を掛けた分を取り戻すくらい働いて貰おうと思う。
「では、早速ですが、私からの贈り物。この世界の管理神としての権限です」
そう言ってミルスが手の平から光の球を出した。
つぶさに観察すると、それが複雑な文字の塊で構成された魔法であることがわかる。
これが世界を管理するための魔法だ。
元がこの世界の精霊である私はそれを見て、不思議と懐かしさを感じた。
「バーツ、それはお主のものじゃ。どうせ破壊神のワシにはまともに扱えん」
「わかった。世界をよりよく導けるよう、私が預かろう」
「はい。では……愛の女神ミルスから、調和と維持の神バーツへ。世界を導く力を」
ミルスの言葉と共に、私の手の中へと、魔法が吸い込まれていく。
光の球はすんなり私の身体の中へ入って、染み渡っていく。
自然と、世界に対して、強力な力を振るえるようになったことがわかった。
今ならその気になれば、新たな大陸を造り出すことも、山を平地にすることも可能だろう。
「それで、お前様。最初の仕事は何をするんじゃ?」
「決まっている。勇者と魔王を生まれないようにするのだ」
私とフィンディは、そのためにここまで来た。
世界の魔力の循環を正すような仕組みを作り、争いの元を断つ。
「バーツさんは調和神ですから、魔力を浄化する仕組みを整えることができますね。どのような作りにするのでしょうか?」
ミルスが微笑みながら聞いてきた。私が何をするのか期待半分といったところか。
私は少し考えて、方法を一つ、思いついた。
「そうだな。異世界の者に聞いた月とやらを参考にしてみるか。天空に浮かべた魔法で、淀んだ魔力を吸い上げた後、浄化した魔力を降り注がせるというのはどうだ?」
「お前様にしては、なかなか派手じゃのう。じゃが、悪くは無いと思うのじゃ」
ミルスは無言で静かに微笑み、一歩下がった。神の先輩から見ても問題ない発想だったようだ。
「フィンディ。手伝ってくれ。一人では難しそうだ」」
「心得た。二人の共同作業という奴じゃのう」
嬉しそうに笑いながら、フィンディが私の隣に寄り添って立つ。
私とフィンディは世界を見据えながら、それぞれの杖を掲げる。
「世界の新たなる始まりじゃな」
「ああ、良き世界になるよう、頑張ろう」
私とフィンディの杖が魔法の光に輝く。
その日、世界の空に、月と呼ばれる魔法が顕現した。